2023年にスーパーGT、スーパーフォーミュラでダブルタイトルを獲得したTOYOTA GAZOO Racing(TGR)の宮田莉朋選手。2024年は海外に拠点を移してFIA F2、ELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)に参戦しつつ、WEC(FIA世界耐久選手権)でテスト・リザーブドライバーを務めました。
第12回となる今回のコラムでは、2025年FIA F2に向けたARTグランプリ(本拠地フランス)への移籍とポストシーズンテストでの手応え、そしてキャリアの目標をF1に定め、シーズン中に実施した環境の変化についてご報告します。
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みなさん、こんにちは。宮田莉朋です。2024年シーズンのFIA F2も終了しました。最終戦ヤス・マリーナ(アブダビ)終了後に発表されたとおり、2025年シーズンはARTグランプリへ移籍し、FIA F2参戦2年目を迎えます。
ARTグランプリは、GP2時代を含めてドライバーズタイトルを7回、チームタイトル5回を獲得しているトップチームです。僕自身、勝てるチームから参戦することが大事であり、同時に『FIA F2で成功するには何をすればいいのか』を理解しているチームでないと勝てないと思っています。
2024年を戦ったロダン・モータースポーツも素晴らしいチームでした。結果にこだわる2年目には、勝てるチーム、タイトルの獲り方を知っているチームで戦うことがベストだと考え、ARTグランプリへの移籍を選びました。
2024年シーズン最終戦後にヤス・マリーナで行われたポストシーズンテストからARTグランプリに合流しています。メンバーとコミュニケーションを取り、連携を深めることを第一に取り組みつつ、チームのメニューに沿って3日間走り込みました。
思い返せば、2023年シーズン終了後に僕が初めてFIA F2のステアリングを握ったのがこのポストシーズンテストでしたね。あのときは海外チームとの仕事も初めてだったこともあり、また、FIA F2について右も左もわからないままで、自分自身に余裕がない状況でのテストとなりました。
ただ、今回のテストは1シーズンを戦った経験もあり、上り調子でテストを終えることができました。チームも含めて、2025年シーズンに向けていい手応えを得られたと思います。
僕の担当パフォーマスエンジニアは、2023年のテオ・プルシェールのドライバーズタイトル獲得を支えた方です。ARTグランプリには長く在籍しており、かつて福住仁嶺選手がGP3に参戦していた際にエンジニアを担当していた方で、FIA F2のタイトルの獲り方を知り、日本人との仕事も経験があり、心強いです。
他にもデータエンジニアがおり、エンジニア陣を統括するテクニカルディレクターにフレデリック・ギヨさんがいます。ギヨさんはルイス・ハミルトンがGP2に参戦してタイトルを獲得した2006年からARTグランプリでパフォーマンスエンジニアを務めおり、松下信治選手とも3年間担当した方で、その後にテクニカルディレクターに昇格された方です。
ARTグランプリはエンジニア、メカニックも含めてみんなフランス人で、ドライバーにすごく寄り添っているという印象です。ドライバーと密にコミュニケーションを取り、強いクルマを作り上げるというチームということもあり、彼らとともに迎える2025年シーズンの開幕戦が今からすごく楽しみです。
■F1への強い想いと2年目に向けての決断
さて、渡欧当初からこのコラムでTGRヨーロッパのあるドイツ・ケルンに住んでいるとお伝えしていましたが、FIA F2第12戦バクー(アゼルバイジャン)から第13戦ルサイル(カタール)の間にあった2カ月のインターバル期間に、イギリス・ロンドンに引っ越しました。
まずはしっかりとFIA F2にフォーカスできるよう、イギリスへの引っ越しに始まり、パフォーマンスコーチや心理学者、栄養士を起用するなど、身の回りの環境を一から変えることにしました。
環境を変えることが実現できたのも、僕の想いを支援してくださったTGRの皆さんのおかげです。環境を変えられたことで第13戦ルサイルから早速、自分の優れている部分、足りない部分を把握した上でレースに臨むことができました。
また、ELMSの2024年シリーズも終わっていたので、さらにFIA F2にフォーカスできた状態だったこともあり、個人的にはすごく楽しく仕事を進めることができ、戦うことができました。
ちなみに、イギリスに引っ越したのは複数のF1チームの本拠地があるためです。ARTグランプリの本拠地はフランス・パリ近郊にあるので、引っ越し先をイギリスにするのかフランスにするのかは悩みましたが、イギリスとフランスはユーロスター(鉄道)や飛行機でもすぐに着きますし、イギリスに住んでいるFIA F2ドライバーも多いです。また、今まで以上に英語力を身につけられるといったメリットも感じています。
2025年シーズンは、2024年シーズンに学び、経験したすべてを生かしてFIA F2を戦います。1シーズンを戦っても、キャリアのすべてをヨーロッパで過ごしてきたライバルたちとのギャップが完全になくなったというわけではありませんが、フリー走行がそのサーキットでの初走行というような状況はもうありません。
チームもARTグランプリへと変わり、3日間のポストシーズンテストだけでも、彼らのプロフェッショナルな部分を感じることができ、個人的にはかなりワクワクしていますし、ようやく日本での経験も少しは生きそうだという感覚もあります。
2025年シーズンは結果にこだわりつつ、自分のキャリア、F1という目標にしっかりとフォーカスし、目標達成に向けて頑張りたいと思います。
年始には日本へ帰国して家族と過ごす予定ですが、休み明け早々からARTグランプリと2025年シーズン開幕へ向けた準備があるため、帰国できてもわずかな時間になりそうです。
2024年シーズンもこのコラムを読んで頂き、応援ありがとうございました。2025年シーズンもコラムは続きますので、引き続きこちらもよろしくお願いします!
⚫︎今月の“リトモメーター”
三刀流+moreとして世界のさまざまなサーキットを訪れた2024年の宮田選手の移動距離を、フライトマイルで計測。ご本人のアプリのスクショを公開させていただきます。
⚫︎2024年累計
92回の搭乗
144,801マイル(233,035km)
搭乗時間:365時間12分