本番組は、「声」と「音楽」で東京の風景を描いてきたJ-WAVEと、古典を「いま、息をしている言葉」で現代人に届ける光文社とのコラボレーションで、新しいエンターテインメントをお届け。ラジオのほか、ポッドキャストでも配信する。
ナビゲーターを務めるのは俳優の玄理。読書好きである玄理は、古典文学を原案とした今回のラジオドラマにどんな感想を抱いたのだろうか? 本や物語への思いなども含めて、初回の収録後に話を聞いた。
「夜のラジオをやってみたい」という思いがあった
──玄理さんは2022年末まで、日曜朝の番組『ACROSS THE SKY』をナビゲートされていました。今回の番組によって、玄理さんの声が久々にJ-WAVEに戻ってきたことになります。オファーを受けたとき、どんな気持ちでしたか?玄理:5年間ナビゲートさせていただいた『ACROSS THE SKY』は本当に大事な経験で、今でも思い返します。社会的なテーマを扱うことが多い生放送だったので、緊張感のある時間でしたね。なるべく自分の言葉で語ろうとしていたものの、「気楽さ」とは無縁の環境。だから、『ACROSS THE SKY』とはまた違う雰囲気を持つ夜の収録番組もやってみたいなという思いがあり、今回のオファーはその望みのど真ん中でした。しかも依頼をくださったプロデューサーは、私が本を好きなことや、どんなテーマに関心があるかをよく知っている方だったので、声をかけていただけたことが本当に嬉しくて。迷うことなく「ぜひやらせてください!」と即答しました。
収録風景
玄理:私は日本で生まれてから数年間、日本と韓国を行き来する生活だったんです。5歳くらいで日本の幼稚園に編入したんですけど、それまで家族としか過ごしていなかったから、日本語と韓国語が頭の中でごちゃ混ぜになっていたんです。幼稚園でみんなが「どこに住んでるの?」とか「玄理ってかわいい名前だね」と優しく話しかけてくれても、聞き取れるのに、自分がどの言語を発せばいいかわからなかった。そんな戸惑いもあって、小学校に入ってから、図書館の本を片っ端から読むようになったんです。
──言葉の豊かさを、本からも積極的に学んでこられたのですね。
玄理:実家にも大きな本棚があって、家族全員分の本が入っていたので、自然と大人向けの本も読んでいましたね。小学校や中学校の図書館には、ロシア文学、ドイツ文学……と国ごとに分かれているコーナーもあったので、文化の違いも感じながら楽しんでいました。ドイツ文学が好きなんですけど、登場人物たちがやたら深刻だなと思ったり。
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玄理:小学校高学年くらいのときに読みました。当時、最初は母から「その本を読むのはまだ早いんじゃない?」と止められたんです。理由を訊いたら、「この作品の影響で自ら命を絶つ若者が増えた時代があったから」と。そんなに社会に影響を与えた本なんだと思いつつ読んだので、まだ自分が経験していない恋愛の幸福感や絶望感などの描写が印象に残っています。今回の番組は、そういった、本と出会ったときの驚きを思い出すいい機会でもありますし、どんなふうに現代版アレンジされているかを知るのも楽しみですね。
「声優の芝居」に感じるおもしろさ
──ラジオドラマを聴いてみて、どんな感想を持ちましたか?玄理:まず、「俳優と声優では芝居がぜんぜん違うな」と、あらためて思いました。同じセリフを言うにしても、俳優は「いかに自然に話すか」を重視しますけど、声優さんは「元の絵に合わせる」というところが独特で。それがすごくおもしろいんですよね。
さらに不思議だったのが、声優さんの演技を聴いていると、頭の中でアニメが流れる感覚があったことです。実写だと「この役を演じるなら、この俳優さんかな」とイメージしたり、リアルな人物像が浮かんだりすることが多いですけど、声優さんの演技にはアニメのキャラクターが伴うような印象があって。それが本当に新鮮で、「声だけでここまでイメージを作れるんだ!」と感動しました。
俳優を志すきっかけも、本だった
──玄理さんにとって、本はどういう存在でしょうか? 普段、「この作品がおもしろいよ」などと語り合うことはあっても、本そのものをどう思っているかを聞くことが意外とないので、ぜひうかがってみたいです。玄理:子どもの頃の私にとって、本は友だち代わりでした。学校はもちろん、塾にも外食にも、どこにでも持って行っていましたし、今ほど人づきあいが得意じゃなかったので、寂しがりな部分を埋めてくれたところもあります。読みながら「この物語に入りたい」と感じていた気持ちが、俳優になった原点でもあると思います──という回答に行き着いた背景としては、こういう仕事をしていると、インタビューなどで「どうして俳優になったんですか?」とよく訊かれるんです。それこそ2000回くらい(笑)。
──たしかに、よく見かける質問です(笑)。
玄理:そういった質問を受けた際は、「中学、高校が渋谷だったので、通学時によくスカウトされていて興味を持ちました」とお話してきて、それは事実ではあるんですけど、もっと本質的な理由はないかと考えたとき、本や物語を好きだと思う気持ちが大きいと思ったんです。頭の中でキャラクターが動くことや、「このセリフいいな。自分も言ってみたいな」と子どものころに感じた経験が、俳優を志すきっかけだったと思います。
収録風景
「真実とは何か」を考えさせられる一冊
──最近はどんな本を読まれましたか?玄理:最近だと、ピューリッツァー賞を受賞したジョン ハーシーの著書『ヒロシマ』が印象的でした。映画『オッペンハイマー』のヒットを受けて、そこで語られなかった被爆者たちの声に世界的に注目が集まっているということで読んだんですけど、興味深かったです。これから、日米の共同制作で『WHAT DIVIDES US』と題して劇映画化されますよね。
──過去に読んだ作品の中で、おすすめを一冊あげるとしたら?
玄理:うーん……すごく悩みますが、芥川龍之介の『藪の中』。森の中で、男性が殺害され、女性が強姦されるという事件が起こって、関係者がそれぞれ証言するんですけど、みんな主張が異なっていて、話をきけば聞くほど真相がわからないという作品です。事実はひとつでも、どの側面から見るか、誰が語るかによって全く違うことってありますよね。本当に「自分は悪くない」と思っていたり、嘘をつくうちに記憶が改ざんされていったり……いつの時代でも変わらない人間の真理なんじゃないかと思って、すごく好きな作品です。
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玄理:オンエアは25時30分。寝る前に、ちょっと耳に集中する時間があるのも心地いいんじゃないかなと思っています。元の作品を知っている方は、どんなアレンジがされているかを楽しめますし、初めて物語に触れる方は、原案の本を手にとるきっかけになると思います。堅苦しくなく文学に接する時間をナビゲートしていくので、ぜひ楽しみにしていてください。
『JT TIMELESS THEATER – NeoClassica』公式サイトはこちら。
(取材・文=西田友紀)