【映画大賞】山口馬木也「侍タイムスリッパー」大成功で小泉堯史監督と再タッグの願い/ロング版

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2025年01月01日 08:00  日刊スポーツ

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日刊スポーツ

日刊スポーツ映画大賞で主演男優賞を受賞した山口馬木也(撮影・宮地輝)

山口馬木也(51)が「侍タイムスリッパー」(安田淳一監督)で映画初主演を果たし、第37回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原音楽出版社協賛)で初の主演男優賞を受賞した。映画が好きで、俳優になりたいと右も左も分からず、芸の道に飛び込んで四半世紀…。手探りで進んできた中、自らの中に確立した1つの役作りと、劇中で演じた会津藩士・高坂新左衛門の、お手本としてきた人物の姿が、1つに結実したことで、遅咲きながら大輪の花を咲かせた。(前編から続く)


   ◇  ◇  ◇


新左衛門が、幕末から140年後にタイムスリップした現代で、生きていくために選んだ道“斬られ役”を演じるにあたって、山口がお手本にした人物こそ“5万回斬られた男”と呼ばれた斬られ役の名優・福本清三さんである。福本さんは、安田監督が17年の前作「ごはん」に起用し、役所広司(68)が現代にタイムスリップした侍を演じた同年の宝くじのCMとともに「侍タイムスリッパー」の着想の元となった。出演して欲しいと脚本を渡した福本さんは、21年元日に亡くなったが、所属の東映京都撮影所の目に留まり22年5月に企画は始動した。


その福本さんの背中を、時代劇の本場・京都の撮影現場で山口は見ていた。「最初に声をかけてくださったのは福本さんなんです。『そこは、そういうことをするんじゃないよ』と、ぼそぼそっと言ってくださったんです。福本さんを見ていると、誰かがどこかで見てくれているからやるのでは無くて、ただ、そこにポツンと座っていた人…そういう印象が強い」。新左衛門のいずまいを作るのに、イメージしたのは、福本さんだった。「タイムスリップで、どう生きていくか、という話で(新左衛門が現代の撮影所で自分が)斬られ役と分かった上で、じゃあ自分はどういう風に、そこにいるか、どこを明らかにして前に進んでいくかというのは、福本さんの居方に、すごいヒントをもらいましたね」。さらに、こう続けた。


「今回の作品では『諦める』という言葉が、福本さんの居方と直結したんですよ。悪い言葉に響きがちですけど、語源が『明らかにする』ということであるならば、福本さんにすごく当てはまるような気がして。斬られ役と分かった上で、じゃあ自分はどういう風に、そこにいるかとか…そういうことを、福本さんからすごく感じた。斬られ役として、それ以上でも、それ以下でもない…福本さんが、いつも、そういらっしゃったので」


演じる作品、役の背景、舞台となった時代における「時間の流れ方」を考え、かつ現代にタイムスリップし、斬られ役として生きていく侍を演じるに当たり、福本さんをベースに役作りをした。四半世紀の俳優人生で、地道につき重ねてきたものが「侍タイムスリッパー」で最高の形で結実した。


そんな山口だが、今後の俳優人生の目標など、具体的なことは語ってこなかった。「目指したいのは俳優であって、何かの役を、というのは僕の中で、違う道なんですよね」と繰り返してきた。受賞という目に見える結果を手にした今、ようやく口にしたのが、時代劇の所作を初めて教わった00年の映画「雨あがる」を手がけ、新作「雪の花ーともに在りてー」の公開を24日に控える、小泉堯史監督(80)の作品への出演だ。「(『雨あがる』から)20年たった今、自分が何ができるのか、もちろん接してみたいですし。非常に怖くもあるんですけど、もし、こういう賞をいただいて、またご一緒できる機会があるんだとしたら、こんなに光栄なことはないなと思います」。


日刊スポーツ映画大賞の受賞盾のレリーフ(浮き彫り)に使用されている絵柄は、1990年(平2)の黒澤明監督の映画「夢」の絵コンテだ。主人公の「私」が天使に手を取られて飛翔(ひしょう)するという構図。映画には登場しなかった幻のシーンだ。黒澤明監督の助監督を長年務めた、小泉監督との再タッグという夢…「夢」の絵コンテが刻まれたレリーフを手に、山口が2025年は前に向かって進んでいく。【村上幸将】


◆山口馬木也(やまぐち・まきや、本名槙矢秀紀=まきや・ひでのり)1973年(昭48)2月14日生まれ、岡山県出身。高校時代にレオス・カラックス監督の「汚れた血」を見て俳優を志し、京都精華大美術学部卒業後に上京。居酒屋でバイトしていた中、関係者を通じて俳優の道に進み、00年の映画「雨あがる」に出演。03年のTBS系「水戸黄門」で鳴神の夜叉王丸、「剣客商売」で秋山大治郎に抜てきされた。NHK大河ドラマは01年「北条時宗」、13年「八重の桜」、20年「麒麟がくる」、22年「鎌倉殿の13人」に出演。


◆侍タイムスリッパー 会津藩士・高坂新左衛門(山口)は幕末、長州藩士と刃を交えた瞬間、落雷で気を失う。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。江戸幕府の滅亡を知り、気を落とすが、剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として撮影所の門をたたく。

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