日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、株式会社石原音楽出版社協賛)で、今年4回目を迎えたファン参加の賞「ファンが選ぶ最高演技賞」にSixTONES松村北斗(29)が選ばれた。パニック障害を抱えた青年が、少しずつ希望を宿し前進していく姿を温度感を持って演じた。「ファンが選ぶ最高作品賞」にも、上白石萌音(26)とダブル主演を務めた映画「夜明けのすべて」(三宅唱監督)が選ばれ2冠を獲得した。 ◇ ◇ ◇ 松村はファンの声を受け止めるように、花束を抱いた。「生きづらさや無自覚に何か苦しさだけを感じている人に届いて、時々思い返して見たりする“お守り”のような作品になると良いなと思っていました。投票という形で思いを表現してくれて、本当にうれしく思います」。生きることに少しでも楽になれたら−。キャスト、スタッフ一丸で込めた思いが結実した。
同作はそれぞれ“生きづらさ”を持つ山添くん(松村)と藤沢さん(上白石)が、友達でも恋人でもない、同志のように支え合う姿が描かれた。
難役に「覚悟」を持って臨んだ。道しるべになったのは、患者やそれを支える周囲がSNSなどで発信する体験談の投稿や動画。今作と出会う前は「遠い世界の話のように感じていた」病。それが「さっきまで散歩していたようなところ」や渋谷といった、誰にでもなじみのある街、日常の延長線上で撮影され、発信されていた。
この現実のどこかで、確かに誰かが苦しむ病を表現することは、易しくはない。「そういった方のおかげでこの作品と向き合えた。それがなかったら、僕が触れて良い生きづらさではなかった」。そう回想すると、時折言葉が詰まった。「本当に難しい話」。痛みに触れたからこそ、安易な言葉は選べない。向き合った証しだ。
作中でよき“相棒”となる上白石とは、夫婦役を演じたNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」以来のタッグ。劇中、藤沢さん(上白石)が山添くん(松村)を散髪をするシーンは名シーンの1つ。松村の地毛を実際に切り、しかも一発勝負での撮影だったという。抱える病の重さをにじませず、温かくもありコミカル。2人が同志となる呼び水のような重要な一場面だ。
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特別な関係性を表現できたのは「それ(朝ドラ)が全てくらいの感じに思っていますね。夫婦としてせりふを交わしている時の距離感がすごく生きていた。失礼、失礼じゃないを越えてたりとか、近い遠いを越えてたりとか。それは朝ドラがあったからかなって感じてますね」。今作への出演オファーはくしくも朝ドラの撮影期間に舞い込んだ。「何を見てこんなに被ったんだろう(笑い)。当時はびっくりしましたね」。不思議な巡り合わせは、必要な縁だった。
SixTONESでのアイドル活動、俳優業、両面での躍進が続く。アイドルグループに憧れたことをきっかけに、09年に事務所に入所。20年にCDデビューを飾った。同時に役者としてのキャリアも積み、朝ドラ「カムカム−」の雉真稔役で一躍注目を浴びたことは記憶に新しい。25年も映画2本の公開が控え、1月クールの連続ドラマには主要キャストで出演。若手実力派俳優としてもその名前が浸透している。
俳優業は個人仕事の中で「最も熱量と憧れがあるもの」というが、自己評価は謙虚で控えめ。「僕は職業でいうとアイドルだと思うんですよ。お芝居をする必要がある人間ではないというか、そもそも資格は最初は用意されてない人間であるが故に、熱量が無くなったらやらない方がいいなと思っているので」。シビアな発言は、芝居の世界に敬意があるからこそ。「映画というものは作品に入る度に、今の自分の熱量や思いを再確認する場。僕は技量とか経験が同年代の俳優の方と比べても浅いでしょうし…、熱量を出すことを努力していくというか。そういう向き合い方なんだろうなと思っています」。スクリーンも、観客も、松村を待っている。【望月千草】
◆松村北斗(まつむら・ほくと)1995年(平7)6月18日、静岡県生まれ。12年日本テレビ系「私立バカレア高校」で俳優デビュー。同年、同作劇場版で映画初出演。主な出演作にNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」など。待機作に映画「ファーストキス 1ST KISS」(25年2月7日公開)「秒速5センチメートル」(同年秋公開)や、25年1月期日本テレビ系「アンサンブル」。176センチ。血液型B。
◆夜明けのすべて 月経前症候群で月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さん(上白石萌音)は、同僚の山添くん(松村)に怒りを爆発させるが、彼もパニック障害を抱えていた。周りに支えられて過ごす中で、2人には同志のような感情が芽生え始める。
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◆パニック障害 強い不安や恐怖感が特徴の精神疾患の1つ。突然起こる激しい動悸(どうき)や発汗、頻脈、ふるえ、息苦しさ、めまいといった体の異常とともに強い不安感を覚える。繰り返される発作への不安が増し、外出などが制限される。原因は解明されていないが、強いストレスや心的外傷にあるとされ、100人に1人ほどの割合で起きるといわれている。
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