鬼才・三池崇史監督、窪田正孝さん主演、共演に大森南朋さん、染谷将太さん、内野聖陽さんら豪華キャストが集結し、2020年に公開された映画『初恋』。
日本公開より先に北米、ロシア、フランス、イギリスで公開されたこの話題作で、ヒロインを演じて大きな注目を集めた小西桜子さん(26歳)。
その後も順調にキャリアを重ね、2025年は年明けから『風のふく島』(テレビ東京)、『まどか26歳、研修医やってます!』(TBS)と2本の連続ドラマ出演が控えています。
スクリーンでは、一見、ボーイミーツガールものと思いきや、意外な展開を見せていく『ありきたりな言葉じゃなくて』が公開中の小西さんに話を聞きました。
◆大学時代はキャリアのない無名俳優だった
――『初恋』公開から約5年です。改めて当時の反響を振り返るといかがでしたか?
小西桜子(以下、小西):その前の自分が無名で、情報解禁された時点でもキャリアがまだ全然なかったときだったので、周りからビックリされました。
たくさんの方に知っていただくきっかけになりましたし、お仕事もいただくようになって、すごく変わりましたね。当時、大学に通っていたので、周囲からもすごく反響がありました。
――大学の友達も驚いたでしょうね。
小西:ちょうど少し前に友達と会って当時のことが話題になりました。あのときは、カンヌ国際映画祭の監督週間でカンヌに行っていたタイミングでの情報解禁で。
「明日、大学来る?」という連絡に、私が「今、カンヌなんだよね」と答えたらしくて。「カンヌ? どこ?」と思ってすごく覚えてる、と言ってました。
次の日に情報解禁があって「それで“カンヌにいる”と粋がってたのか!」と友達は理解したみたいです。粋がってたんですかね(笑)。
――カンヌ国際映画祭への参加は、すごい体験ですから。
小西:当時は、お仕事を始めたばかりで全然分かっていませんでした。カンヌ国際映画祭に来ているというよりも、「カンヌという外国の地に来ている」ということのほうに緊張していたと思います。今になってその重大さが分かります。
◆インターネットにあることがすべてだとは思わない
――小西さんは、もともとInstagramでの発信が芸能活動へと繋がっていったとか。SNSは今も続けていますね。
小西:発信することや表現することが好きなんです。
ただ、いまの私は一番に役者であって、観てくださる方にも役として見ていただきたいので、パーソナルな部分を出し過ぎても変なノイズになってしまうかなとは思っていて、その塩梅は意識しています。
SNSをまったくやらない役者さんもいますし、そうしたスタンスに憧れもあります。ちょっとミステリアスな俳優さん。でも今は時代が変わって、私たち世代はSNSが日常だし、知っていただくきっかけになって、それがお芝居の仕事につながることもある。
ちょうどいいバランスを目指しながら、ひとりでも多くの人にいいなと思ってもらえるような表現をしていけたらと思っています。
――個人としての利用で気を付けていることはありますか?
小西:インターネットにあることがすべてだとは思わないようにしています。当たり前のことやいい事って、あまり言わなかったり目を向けられなくて、悪い情報やセンシティブなことのほうがどうしても広がりがちなので。
SNSの評判だけに捉われずに、自分の目で見て判断したいと思います。
◆出演作『ありきたりな言葉じゃなくて』は予想できない展開
――現在、映画『ありきたりな言葉じゃなくて』が公開中です。小西さんは、脚本家デビューが決まったばかりの主人公・拓也(前原滉)の前に現れ、その後、いきなり姿を消す女性・りえを演じています。オファーを受けたときは?
小西:責任を持ってきちんと向き合って、みなさんと一緒に作り上げたいと思いました。
りえは、物語の重要な役回りを担う、いろんなことのきっかけになるキャラクターです。拓也が、りえと出会って、また周りとの関わり合いでどう変わっていくのか。
物語は拓也の視点で進むので、りえの明かされていない部分が、後半わかって一変します。予想できない展開を、私も楽しみながら脚本を読みました。
――確かに物語の展開におどろきました。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、りえを含め、“心の傷”が描かれる物語でもあります。
小西:りえの行動について話していたとき、「りえの気持ちが分からない」という人もいました。もちろんそうした人もいると思います。でも実際に彼女の取った行動は別として、私はりえの気持ちがすごく分かりました。
◆他人の言動に影響を受けて落ち込むことはしょっちゅう
――りえは一見、ファムファタール(悪女)のように映りますが、底に落ちてもがいている人です。小西さんも落ち込んだり、そこからもがいて立ち上がった経験はありますか?
小西:たくさんあります。しょっちゅうです。たとえば相手は悪気のない、自分でも分かっているひと言で否定されて、制御が効かないくらい影響されて気が狂いそうになったり、なんてことも理解できます。
こういう仕事をしていると、それこそSNSなどで傷つく言葉を目にすることもありますし。でもそれも、自分が変わればいいことなんじゃないかと思えるようになりました。
落ち込むんですけど、そこからポジティブに変換して、自分が周りを、その言葉を変えてみせるくらいの気持ちで頑張るしかないと思うようになりました。
――拓也についてはどう感じましたか? ワークショップのメンバーと飲み会に言ったときや、そのほかのシーンでも、拓也には「え?」と、突っ込みたくなる職業差別や女性軽視に感じる言動、単純に社会人として浅はかだと思える行動も見えます。
小西:ちょっと思慮に欠けている部分がありますよね。
人のことって、周りが単純に推し量れるものではないので、簡単に良い悪いという言い方はしたくないんですけど、それでも個人的には「なんだろうな」「ちょっと自分に甘いところがあるんじゃないかな」と感じました。
飲み会での言葉も、私だったら引っかかり続けると思いますし、この映画でそうしたシーンが入っているのは、ちゃんと意味があることだと思います。
◆男性なら称賛されることが女性だと「気が強い」となる
――派生しますが、小西さんは、女性であることで嫌な思いをすることってあると思います?
小西:ハラスメントを受けることは男女に限らずあるものだと思いますが、女性のほうが何を言われても笑顔で流さないといけないことが多いかなとは感じます。
男性だったら言い返して、「男らしい」とか「ちゃんとしてる」と称賛されることでも、女性が反応すると「気が強い」と言われたりする。
ちゃんと意識を持って何かを発信したりできる人が「気が強くて自己主張が強い人」となるのは、私はすごく嫌です。
――完成作を観て、どんな感想を持ちましたか?
小西:りえにもいろいろあって、自分のことばかりに矢印がいって、自分勝手になってしまったところから、人としてちょっと成長できて、これから変わっていけるんじゃないかと感じました。
それから、現場ではりえとしてしかいませんでしたが、本編を観ると、拓也に感情移入してしまうところもありました。全てがよくなるわけでは決してないけれど、何か小さな光みたいなものが見えるラストにはなったんじゃないかなと思います。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi