暗闇のなかで耳を澄まして、音の世界に入り込む。個展『evala 現われる場 消滅する像』をレポート

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2025年01月08日 10:10  CINRA.NET

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Text by 生田綾

新たな聴覚体験を創出するプロジェクト『See by Your Ears』を主宰するサウンド・アーティスト、evalaの集大成となる大規模個展『evala 現われる場 消滅する像』が開幕した。2025年3月9日まで、東京・初台にあるNTTインターコミュニケーション・センター [ICC] で開催されている。

目で見るだけではなく、「聴くこと」によって新たな知覚体験を届ける8作品が展示されている本展をレポートする。

立体音響システムを駆使し、個人としても様々な作品を発表しながら、コラボレーションなど幅広い分野で活躍するevala。

会場となったNTTインターコミュニケーション・センター[ICC](以下、ICC)は、evalaが立ち上げたプロジェクト『See by Your Ears』の原点として位置付けられている2013年の作品『大きな耳をもったキツネ』を発表した場所でもある。

サウンドアートのパイオニアである鈴木昭男と協働し制作された同作品では、鑑賞者はICCの無響室(音の反響がまったくない空間)に入り、「耳から新しい世界を視る」体験ができる。

evala《大きな耳をもったキツネ》2013-14年 撮影:木奥恵三

本個展でも、『大きな耳をもったキツネ』、『Our Muse』をはじめとする無響室での立体音響作品シリーズが展示されている。数分間のあいだ、たった一人きりで密閉された無響室にとどまり、耳を澄ませることで、まるで時空が変容するような音体験を堪能できる繊細な作品だ。体験人数が限られているため、事前予約をしてから訪れることをおすすめする。

ギャラリーBの入り口付近には、形状の異なるオリジナル・スピーカーを大量に用いた大規模なインスタレーション、『Sprout“fizz”』(2024年)が展示されている。

evala《Sprout“fizz”》 2024年 撮影:冨田了平

2024年3月に旧Bunkamura Studio(渋谷)で発表されたシリーズ第1作を発展させた本作では、無数のスピーカーからさまざまな自然環境音が鳴り響き、新しい生命の息吹を感じさせる作品となっている。

鑑賞者は作品のなかに入り込み、スピーカーのあいだを自由に歩くことができ、場所によって変化していく音の世界を味わうことができる。

ギャラリーBには、ほかにも、特殊印刷や平面パネルスピーカーなどの最新技術を使い、パネル自体が音を発する「音の出る絵画」シリーズの『Score of Presence』(2019年)や、暗闇のなかでうなるような低音が響き、微かな映像が映し出される新作『Embryo』(2024年)などが展示されている。

evala《Score of Presence》2019年 撮影:清水はるみ

最も広い展示室であるギャラリーAでは、中央に設置された波打ったようないびつな形状の構造体に登り、思い思いの体勢をとりながら鑑賞することができる新作インスタレーション作品、『ebb tide』(2024年)が展示されている。

evala自身の記憶に残る私的な場所の環境音や、さまざまな音具の音によって構成されており、evalaにとって「死を迎えた人々へのレクイエム」でもあり、「生命への畏怖」も込められているという。暗闇のなかで曖昧に浮かぶ光を眺めながら音に身を包まれることで、時の流れを忘れ、神秘的な感覚を味わうことができる。

evala《ebb tide》 2024年 Photo: Yutaro Yamaguchi 写真提供:SbYE

暗闇のなかで繊細な音響世界を体験できる本展について、evalaは「耳を澄まして、静かに、しばらく佇んでいただきながら体験いただけたら」と語る。

「アートの文脈では、視覚的な造作があるなかで何らかの音が出されているような作品がサウンドアートと呼ばれ、展開されていると思います。要するに、目で見ながら聞くという『目で聞く』体験だとしたら、僕の場合は視覚要素を極力までなくして音だけで展開する作品です」

「例えば、夢は目を使わないで見るものです。目を閉じて見ているものなのに鮮明に覚えていたり、現実に戻ると満足していたりする。それに近いところがあります。イマジネーションのように、目では見えず、耳でしか見えないものをどうやってつくれるかということをずっと思考しています」

「写真も真っ暗で撮れないし、ビデオでも撮れないし、音を録音しても実際とは違うものになってしまう。空気振動だけで体験するような作品をつくり続けて、その集大成となるのが今回の個展です」

日常から離れ、聴くことと見ることが融け合うような新たな感覚をぜひ体験してほしい。会期は2025年3月9日まで。

evala Photo: Susumu Kunisaki

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