【おでんだしうどん】赤坂の繁華街で見つけた奇跡のような屋台で、おでんと酒に浸る:パリッコ『今週のハマりメシ』第168回

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2025年01月10日 11:50  週プレNEWS

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ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

【写真】うどん出汁で食べるシメのうどん

* * *

すっかりおなじみとなった、TBSラジオの人気番組「アフターシックスジャンクション2」からのゲスト依頼を、またまたいただく。スタジオがあるのはハイソなイメージのある赤坂だが、行けば行くほど自分好みの大衆酒場がざくざく見つかる街でもあり、出演前のひとりふらり飲みも、もはや完全にセットになっている。

さて今日はどんな店と出会えるだろうか。と、あてもなく歩いていると、我が目を疑う光景が視界に飛び込んできた。なんと、一等地である繁華街の道端に、トラックを改造した立ち飲みのおでん屋台があるのだ。あったっけ? こんな場所に。これは吸い込まれないわけにはいかない。


店内(というのだろうか)は、ビニールシートで覆われた空間に長テーブルがふたつ並んでいるだけのごく簡素なスペース。だが、足元のストーブがなかなか強力でぽかぽかと暖かく、とても居心地がいい。


メニューはひとつ税込200円のおでんが数品と、おつまみが少し、それから「だし巻玉子」の各種バリエーション。同じく赤坂にある「創や まるひさ」というだし巻き玉子専門店が出しているキッチンカーで、冬の間だけおでんを提供しているらしい。


なにはともあれ、こんな時間にこんな場所で屋台酒が飲めるとは嬉しい。さっそく芋焼酎のソーダ割り(600円)をいただきます。


おでんは「ちくわぶ」と「厚揚げ」と、珍しい「半熟玉子」、それから、今日のおすすめを聞いて「もち巾着」を選んでみる。熱々の小鍋で出してもらえるのが、雰囲気抜群でとてもいい。


マイベストおでんだねであるちくわぶは、まだ若いハードめの食感。それはそれでとても好きなのだった。厚揚げはふわとろ絹豆腐タイプで、かつお系の上品な香りにあふれたほんのりと甘いだしとあいまって絶品。もち巾着の美味しさは、説明するまでもないだろう。

また、おでんの玉子といえば黄身までかちかちなのが常識で、半熟は初めて食べたが、これが新鮮なうまさ。半熟玉子を冷たいだしにつけておいて、提供前にさっとおでん鍋で煮て出すらしい。ちゃんとおでん味なのに黄身はとろとろな味わいが、クセになりそうだ。 酒がぐいぐいすすみ、今度は芋のロックをおかわりする。


ところで、この店の母体はだし巻き玉子屋さんだそうなので、せっかくだからそれも味わっておきたい。単品もあるが、おでんだねにもある。ここはおでんでいってみるか。


届いた瞬間、えっこれで200円!? と驚いたが、実はさっきおすすめを聞いた時に「手羽もと」も推してもらって注文していたんだけど、「あ、手羽もとなかったです、すいません!」とのことで、そのおわびにふだんの倍量で作ってくれたそう。そんなことでおわびもなにもないんだけど、そりゃあ嬉しいし、もう完全にこの店のとりこだ。

で、そのだし巻きがさすが看板メニュー。めちゃくちゃうまい。とろとろつるつるぷりぷりでなめらかな食感の玉子は絶妙なだしの風味で、それがおでんのだしに浸っているという、だし×だしの贅沢なハーモニー。焼き上げた際の油の感じもほのかにあり、そこがまたいい。

さて、そろそろラジオ収録に向かう時間だが、最後にどうしても味わっておきたい一品がある。「お出汁で作った〆のうどん」。なんと驚愕の300円だ。


すぐにやってきたうどんが、あまりにも自分好みのシンプルさでたまらない。麺は市販品だろうけど、しっかりとコシがあってうまい。やや厚切りの生のねぎが、熱々のだしに浸ってすこしずつとろりとしてくるのもいい。それらがほんのりと甘く上品なだしを味わうための媒介となり、すすればすするほどに幸福感が極まってくる。


特に東京都内においては、屋台そのものが絶滅危惧種的な存在。しかし、キッチンカーを使ったこういう営業のしかたもあるんだなというのは目から鱗だったし、なによりそこで飲む楽しさ、居心地の良さは、庶民が昔から慣れ親しんできた屋台の空気そのもののように感じた。

さて、そろそろラジオ局に、酒を飲みにいくか。

取材・文・撮影/パリッコ

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