「地獄の果てまで連れていく」脚本家イ・ナウォン氏、日韓で異なるドラマ制作方法語る「暗黙の了解とされている」

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2025年01月13日 11:49  モデルプレス

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佐々木希「地獄の果てまで連れていく」第1話より(C)TBS
【モデルプレス=2025/01/13】1月14日から放送開始するTBS系深夜ドラマ枠・ドラマストリーム「地獄の果てまで連れていく」(毎週火曜よる11時56分〜※一部地域をのぞく)。脚本を務める韓国出身のイ・ナウォン氏が、日本と韓国におけるドラマ制作の違いをはじめ、オリジナル脚本で描きたかった“人間賛歌”について語った。

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◆佐々木希主演「地獄の果てまで連れていく」

本作は、高校時代に父を殺され、人生を壊された橘紗智子(佐々木希)が顔を変え身分を隠し、自らを破滅に追い込んだ非情なモンスター女・花井麗奈(渋谷凪咲)へ壮絶な復讐劇を始める心理サスペンスドラマだ。同局ドラマ初主演となる佐々木と、同局ドラマ初出演となる渋谷が、復讐心を抱え葛藤する紗智子と狂気的で冷徹な麗奈をどう演じるのか注目が寄せられている。

◆イ・ナウォン氏、日本のドラマ現場で驚いたこと

ー 韓国のご出身ですが、日本と韓国のドラマ制作の違いを感じることはありますか?

韓国では、一度に複数の作品を同時進行することがほとんどありません。私がアシスタントを務めていた時期も、脚本家、監督、役者のすべてが一つの作品に専念するスタイルが基本でした。映画やドラマは、それぞれの現場に全力で集中するのが暗黙の了解とされているんです。韓国の同業の友人に「日本では同じタイミングで複数の作品に参加しているよ」と話すと「どういうこと?」と驚かれることが多いですね。

ー 制作スタイルの違いは、クオリティに影響がありますか?

どちらにもメリット、デメリットはあると思います。個人的には、一つの作品に専念するのは、丁寧に脚本作りが出来る、達成感が凄いというメリットがありますが、制作期間中に人間関係や制作環境に疲れたとき、逃げ場がないのはつらいかもしれない…と感じます。日本のように、ほかに関わっている作品があれば、気分を変えて仕事ができるメリットもあるのかもしれません。それはそれで作品ごとに執筆スタイルを切り替えないといけないので、結構大変なところもあります。

◆「地獄の果てまで連れていく」活用された“キャラクターシート”とは?

ー 本作の執筆プロセスを教えてください。

プロデューサーの天宮沙恵子さんからいただいた企画書に「復讐劇」というテーマが記されており、それをもとに物語を組み立て始めました。最初は漠然としたアイデアだったものが、モンスターのような人物とその復讐者の対決へと具体化していき、天宮さんと相談しながら第1話と第2話の構想を固めました。その後、3話以降の脚本は「自由に書いてください」と任され、プロデューサーの皆さんと練った全体プロットをベースに進めていきました。

ー 脚本の構成では、どのような工夫をされているのでしょうか。

本作に限らず、キャラクターシートを作成しています。どの作品でも作る資料で、私は脚本を書く際に必ず作ります。キャラクターシートとは、「この人はこういう人物像」という情報を具体的に伝えるための資料です。たとえば主人公・紗智子の場合、好きな料理や子どもの頃の夢など、彼女の背景や性格を細かく設定していきます。改めて考えてみると、私は人間が好きなんだと思います。登場人物の詳細を掘り下げながら、キャラクター設定を考えていくと「よっし、始まった」とドキドキするんです。

◆「その方に合う言葉を選び抜きたい」イ・ナウォン氏ならではのこだわり

ー 実際に演じる俳優陣のイメージは、執筆に役立てられていますか?

脚本を書き始めて中盤に差しかかった頃に、本作のキャストが決定しました。それからは、キャラクターイメージを役者さんに重ね合わせています。執筆する前に、その方の写真に話しかけてみたり、ですね(笑)。たとえば佐々木希さんだったら、いちばん紗智子に近いと感じる写真を探すんです。あくまでも、私の感覚ですが…。その写真からインスピレーションを受けて「この人は紗智子として、どう話すだろう」と想像しながらセリフを考える。それぞれの特徴や声のトーンひとつにも癖があって、動画も参考にしています。やはり、その方に合う言葉を選び抜きたいんです。演じることが難しくなるような話しにくい言葉やフレーズを避けて、キャラクターに合わせた脚本を書きたいし、そんなふうに脚本を作る工程はとても楽しいですね。

◆「地獄の果てまで連れていく」膨大なリサーチから生まれた“忠実な表現”

ー 復讐劇は初めてとのことですが、苦労された点はありますか?

復讐を計画する紗智子と、モンスターと化した麗奈。その2人の行動原理や感情のラインを描くことは非常に難しい作業でした。単なる復讐劇としての「見せ場」を意識するだけでなく、それぞれの感情が劇中の事件に説得力を持ってリンクしていなければ、物語が成立しないと考えたからです。キャラクターの感情と事件の展開が矛盾しないよう、何度も調整を重ねました。「事件はこう発生して、こう展開させていきたい」と思っても、人間の感情をどうリンクさせるか、その点で苦労しました。プロデューサーや犯罪心理の監修者と議論を重ね、「このシーンではどうしたら効果的に人を傷つける描写が成立するか」を徹底的に検討しました。その過程で、自分でも膨大なリサーチを行い、現実の犯罪事例や心理研究からヒントを得て脚本に落とし込みました。

ー 行動原理や感情のラインには、どのような軸を持たれたのでしょうか?

それぞれに軸がありますが、「この人にとって、何がいちばん大切なのか」を基準として考えていきました。紗智子は自分の大切なものを奪った麗奈への復讐がいちばんの目的。麗奈は、一見感情のないモンスターのように映りますが、彼女の中にも「大切なもの」があります。物語が進んでいくと、麗奈の内に秘めているものも少しづつ明らかになっていきます。それぞれの“大切なもの”に対して、どのように行動するのか。その主軸を常に意識しました。連続テレビドラマとしても、1話ではこういった感情が起こり、それが中盤ではどう展開して、さらに後半でどうなっていく…と、回を重ねることによる感情のゆらぎのラインを繊細に表現することを心がけました。

◆「人間を理解するための作業」イ・ナウォン氏が語る脚本論

ー 凄惨な事件の創作は考えるだけで病んでしまいそうですが…

感情の振れ幅を緻密に追いかける作業は、想像以上に困難でした。特に異常な心理や行動を持つキャラクターのリサーチでは、「こんな行動は現実にはありえない」と思うたびに、精神的な負担を感じることもありました。脚本を書く際、デスクトップに資料用のフォルダを作るのですが、今回は特に異様なフォルダ名が並びました。「殺し方1」「殺し方2」など、自分でも苦笑してしまうほどでした。

ー 脚本執筆時に、大切にされていることはありますか?

脚本を書くことは、人間を理解するための作業なのではないかと考えています。カッコいいセリフを書きたいとか、そういう気持ちはないんです。世の中には本当に多様な人がいますが、私は「この人はこういう人だ」と決めつけるのではなく、その奥深くにある本質を知りたいと思っています。上辺だけではなく、“もっと知りたい”と思って接すると、もしかしたら初めのイメージと違う人間的な一面に出会えるのかもしれないなと。私は人が好きなんです。

(modelpress編集部)

◆脚本家イ・ナウォン氏プロフィール

1988年韓国生まれ。父の留学で子供の頃、茨城県で5年間、アメリカ・ポートランドで2年間過ごす。韓国の中央大学演劇学科劇作専攻卒業。韓国放送作家協会教育院卒業。(脚本家のキム・ジウ氏に師事)その後、SBS連続ドラマ「お願い、キャプテン」をはじめ、韓国でドラマの脚本アシスタントとして働く。2016年、日本に留学。東京藝術大学大学院映像研究科脚本領域に入学し、脚本家の坂元裕二に師事。卒業後、日本を拠点に脚本を書いている。

・2019 Netflixオリジナルシリーズ「全裸監督」脚本チームアシスタント
・2019 テレビ東京ドラマ24「Iターン」脚本協力
・2019 「Iターン」スピンオフドラマ「犬たちの午後」脚本
・2020 Amazonオリジナルドラマ「湘南純愛組!」脚本
・2020 NHKリモートドラマ「Living」第2話 脚本協力  
・2020 第21回東京FILMeX New Director Award受賞作「熱のあとに」脚本
・2021 ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2021オープニング作品・短編映画「星屑の子」脚本
・2021 YouTubeソーシャルドラマ「惑星サザーランドへようこそ」脚本
・2022 MBS/TBSドラマイズム「明日、私は誰かのカノジョ」4話・5話脚本
・2022 映画「異動辞令は音楽隊!」(主演:阿部 寛)脚本協力
・2022 テレビ東京ドラマ24「雪女と蟹を食う」(主演:WEST.重岡大毅)3話・4話・10話・11話 脚本
・2023 MBS/TBSドラマイズム 「明日、私は誰かのカノジョSeason1」5話・6話 脚本
・2023 映画「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」(主演:JO1白岩瑠姫、久間田琳加)脚本
・2024 映画「熱のあとに」(主演:橋本愛、仲野太賀)脚本※2024年2月、新宿武蔵野館、渋谷シネクイント他にて全国公開
・第28回釜山国際映画祭・ニューカレンツ部門
・第24回東京FILMeXコンペティション部門
・第60回台北金馬映画祭
・第14回北京国際映画祭「注目未来(フォワード・フューチャー)」部門
・2025 映画「誰よりもつよく抱きしめて」(主演:三山凌輝、乃木坂46久保史緒里)脚本※2025年2月TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開予定

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