地方書店 売れ筋は都心部と異なるの? 農村にある本屋に聞く、意外に売れているものと返品が多いもの

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2025年01月13日 13:20  リアルサウンド

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秋田県羽後町になる書店ミケーネの様子
■秋田県羽後町に唯一残る書店に話を聞く
 

 秋田県羽後町は人口1万3056人(2024年11月末現在)の農村である。この町に唯一残った書店「ミケーネ」は、現在70歳になる阿部久夫さんと妻の祥代さんが営む個人経営の書店だ。羽後町には20年前、チェーン店を含め3軒もの書店があったが、残るのはミケーネだけになってしまった。



 ミケーネは2階で「ガロア」という学習塾を営んでいる。そのため、地域の子どもたちが集まるコミュニティの場にもなっており、かつては塾帰りの子どもが漫画や雑誌を買い求める光景が見られたものだ。しかし、羽後町は急激な少子化も進んでおり、学習塾の経営も決して盤石とはいえなくなりつつある。


 地方の書店の在り方を考える意味で、リアルサウンドブックではミケーネにたびたびインタビューを行ってきた。漫画界では『鬼滅の刃』『SPY×FAMILY』『【推しの子】』などのヒットがあるが、ミケーネではそういったヒットをどのように感じているのか。今回、ミケーネで漫画の仕入れを担当している祥代さん(68歳)に話を聞いた。



■アニメ化された漫画が売れ筋


――現在、ミケーネで売れ筋になっている漫画は何でしょうか。


祥代:子どもたちの間では、テレビアニメ化されている『ダンダダン』『呪術廻戦』『チェンソーマン』『【推しの子】』などの集英社の作品が人気です。今まで静かだった『はたらく細胞』(講談社/刊)がアニメになると突然売れ始めるなど、田舎でもメディアに左右される傾向があるようですね。40〜50代の人たちには『ゴールデンカムイ』など、やはり集英社の漫画が人気があります。


――やはり大手出版社が出す漫画はメディアミックスの相乗効果もあって、人気が高いですね。ほかの出版社で売れ筋はどこでしょうか。


祥代:アルファポリスが出している漫画の単行本も売れていますね。ネットで読んで、続きを読みたい、現物を買いたいという人が増えているのでしょう。アルファポリスのように私たちの世代が知らない出版社の本が動くのも、最近の傾向です(笑)。本屋をやっていると、知らない世界がいっぱいあるなと感じます。


――都心では池袋の「アニメイト」などが若者でごった返していますが、ミケーネにも若者が押し寄せていたりしますか。


祥代:それは……ないですね(笑)。私自身が歳をとってしまって、漫画の売れ筋を勉強できていないので、若い人たちは別の本屋に行ってしまうんじゃないかな。あと、最近は疲れていることもあって、棚をきれいに整えることができないんです。できれば、新しい感性をもつ若い人たちにバトンタッチしたいという思いはあります。


――若い人たちが書店をやりたいという思いは感じますか。


祥代:ミケーネの場合は私の息子がいるので続いていますが、本屋をやりたい人は田舎にもいるんじゃないかなと思います。農業は魅力があるので、新規参入している若者が増えているでしょう。今、田舎で本屋をやっても儲かりはしないかもしれませんが、魅力がある商売だと気付き始めた若者は増えていると思います。


■子どもは漫画に関心があるか

――私が子どもだった30年前は、「週刊少年ジャンプ」を発売日に買いに行く子どもがたくさんいました。現在、漫画雑誌を買っているのはどのような層でしょうか。


祥代:「ジャンプ」「マガジン」「サンデー」「チャンピオン」、あと「ビッグコミック」は昔からの常連さんで、毎週買いに来る人はいます。けれども、若い人たちは来ないですね。若い人たちはネットやコンビニで買うのが普通になっているからだと思います。今は、漫画は雑誌の連載がきっかけではなくネットで知って、単行本を買いにくるパターンが多いですね。長いタイトルの、例えば侯爵令嬢などの異世界物などを買いに来ますね。ただ、その分野は私自身がハマれないのでうまく仕入れられないし、そろえられない(笑)。お客さんに言われたものをそろえるくらいになっているのが、歯がゆいですね。


――ミケーネは2階に学習塾がありますが、塾帰りの子どもたちは漫画を買いに来たりはしませんか。


祥代:昔は塾の休憩時間や帰りに必ず立ち読みや買いにきていましたが、今はもう、そんなことはないですね。なぜなのかはわかりませんが、時代なのかな。もうみんな、塾は塾という感覚でまっすぐ塾に上がっていくし、終わればまっすぐ帰っていく感じです。そして、帰ったら自分のパソコンやネットに入り浸るのかもしれない。本屋で楽しむとか時間をつぶすという光景は、見られなくなりました。


――羽後町の場合、人口減少と少子化が深刻です。そういった影響を大きく受けているのが書店なのかなと思います。


祥代:それは、本屋に限らず、理容業や飲食店、田舎のすべてのビジネスで言えることだと思います。ただ、本屋をやっていると、こんなに子どもたちが経済を動かしていたというのがわかりますね。


■人気ある小説や雑誌は?

――漫画以外の雑誌の売れ筋はどうでしょうか。


祥代:雑誌は昔みたいには売れないね。特に、料理のレシピはネットに上がっているから、『きょうの料理』のテキストも年末のおせち特集のときはバンバン売れたのが、今では一切動かなくなりました。女性誌はいろんな付録がいっぱいあって、山のように積み上げられていても売れるものは少ないです。よくこれで出版社がやっているなあ、と思うくらい動かないですね。


――そんななかでも売れている雑誌はあるのでしょうか。


祥代:むしろ、期待できるのは趣味に特化した雑誌。オカルトが好きな人は「ムー」を買いますよね。そういうマニアックな雑誌は動くけれど、一般の人が買っていたような雑誌はネットで代替できるので、売れなくなってきています。


――ミケーネでは病院や美容院などの定期購読の需要もあると思います。


祥代:ミケーネは定期購読のお客さんをたくさん持っているので、なんとかやっていけています。定期購読を抱えていない本屋はきついんじゃないかな。ただ、最近は雑誌の値段が軒並み上がってきているでしょう。お店でも定期購読の見直しが図られています。だから、顧客としてのつながりは切れないけれど、「家庭画報」を止めてもっと手軽な雑誌にしたいとか、安いものを求める傾向はありますね。それだけ、美容院なども少子高齢化の影響で売り上げが落ちているのかもしれませんが…。


――ミケーネは役場などに雑誌を配達していましたよね。そういった需要はどうですか。


祥代:教員や役場職員など、官公庁の職員も最近はネットで雑誌を買っています。昔は役場や病院の職員が定期購読してくれていたから、かなりの量を配達していたんですよ。今ではそういった需要は数人。官公庁の個人と繋がりが薄れているなと感じます。本当は、そういった人たちが地元の本屋で買ってくれるだけでかなり違うんだけれど、とはいえ、私たちも営業努力ができていなかったのは否めませんね。


■意外に売れるのは図書カード

――ミケーネはかつて年末年始も休まず営業していました。


祥代:今は、元旦だけ休みになりました。というのも、自分たちが歳を重ねてしまったので、元旦は休もうという話になったのです。昔は、元旦にガーッとお客さんが来ていました。周りに開いていない店が多かったので、若い人たちが行こうと思ってくれたんでしょうね。あと、お年玉をもらった子どもたちが漫画を買っていくのは新年の風物詩でした。


――年末年始の売れ筋として、手帳やカレンダーなどが挙げられますが、ミケーネではどうですか。


祥代:うちはカレンダーと手帳はもう返品があまりに多いので、お客さんの注文分だけを入れるようになりました。ずっと同じ日記や手帳を使っている人たちが、毎年同じものを注文してくれる感じです。小さな出版社が出す手帳だと、委託ではなく、買い切りでとらないといけないので、うちのような本屋は冒険できないんですよ。


――図書カードなどの販売はどうですか。


祥代:図書カードは普通に売れますね。クリスマスプレゼントなどの需要もあり、時には30組などの大口が動きます。今の時代はモノが増えすぎて、一つに絞るのが難しいので、むしろ「図書カードで好きな漫画を買いなさい」とプレゼントするのかもしれませんね。安定して人気があります。


■ミケーネは地域の交流の場

――ミケーネはこれまで閉店の話もありましたが、最近では存続させる方向に方針変換したように感じます。


祥代:地域のみんなが集う場所として開いている感じです。遊ぶ場所になっています。と言っても常連さんがただ雑談をするだけなんだけれど、話をするだけの場が今の時代は求められているんじゃないかな。ミケーネには移住者や学生、規制してきた人が毎日のようにやってきます。そういった顔なじみの人にはバックヤードでコーヒーを提供してくつろいでもらっていますが、きちんと本屋にお金が落ちる仕組みを整備して、赤字にならないでやっていけるようにしたいと思っています。


――最近、本を読みながら喫茶ができるブックカフェが人気です。ミケーネにカフェがあってもいいのではないですか。


祥代:カウンター形式にしてくつろげる感じにしたいとは思うけれど…、残念ながらそこまでの予算はないので、思いを抱いているだけです(笑)。若い世代がぜひやってくれないかなと思っています。


 



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  • 2階の学習塾「ガロア」に通ってる子は「僕にはもう時間がない」とか言いそうw「ミケーネ」といいネーミングセンスが素敵なので消えないで欲しいなあ
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