王者・丸亀製麺を挑発? はなまるうどんの「香川マウント」は成功するか

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2025年01月15日 06:31  ITmedia ビジネスオンライン

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はなまるが本社を香川県に移転、背景に何が?

 はなまるうどんを運営する「はなまる」は2025年1月1日、発祥の地でもある香川県高松市に本社を移転した。


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 創業25年を経て原点回帰ということで、この地から讃岐うどんの魅力や多様性を発信するためだという。その第一弾として、香川県とともに「おいでまい!さぬきプロジェクト」も始動した。


 このニュースを聞いた讃岐うどんファンの中には「王者・丸亀製麺を引きずり下ろすために香川マウントを取ってきたな」と感じた人も多いだろう。


 今や日本を代表する「讃岐うどんチェーン」にまで成長した「丸亀製麺」は、実は香川県丸亀市と何の縁もゆかりもない。


 兵庫県で居酒屋を経営していたトリドール(現・トリドールホールディングス)が、県内でうどん業態に参入する際に付けた商標に過ぎない。そういう後ろめたさがあるからか、全国で約850店舗も展開している丸亀製麺は、香川県内では1店舗(高松レインボー通り店)しかない。


 「え? 昨日も丸亀製麺に行ってきたけれど店内には讃岐富士(丸亀市にある飯野山)の写真とか飾ってあったし、バリバリ讃岐うどんイメージ押し出しているでしょ?」と思う人もいらっしゃるかもしれないが、そのイメージこそが丸亀製麺をここまで成長させたといっても過言ではない。香川にまったく無縁であるにもかかわらず、巧みなブランド戦略で「香川に縁のある讃岐うどん店」というイメージを世間に定着させることに成功したのだ。


●丸亀製麺は「コンセプトレストラン」


 分かりやすいのは、公式Webサイトに讃岐富士の写真とともに掲げられた「丸亀製麺が憧憬(しょうけい)する風景」という言葉だ。「憧憬」とは「憧れ」である。


 丸亀製麺は香川にルーツがあるわけでもなく、讃岐うどんの伝統を継承している立場でもなく、単なる「讃岐うどんファン」ということを、趣のある表現で宣言しているのだ。つまり厳密にいえば、丸亀製麺というのは「讃岐うどん文化」をリスペクトして、製麺所の味や世界観を忠実に再現した「コンセプトレストラン」なのだ。


 しかし、一般消費者はそんなややこしいものの見方はしないので、「丸亀製麺=香川に縁のある讃岐うどんチェーン」といまだに思っている人も少なくない。香川発祥のはなまるうどんからすれば、これは耐え難い屈辱だ。しかも、店舗数や海外展開でも大きく水をあけられている。


 そんな絶対王者を引きずり下ろすため、本社の香川移転によって、丸亀製麺が口が裂けても言えない「われこそ本物の讃岐うどん」というメッセージを強く打ち出し始めたのではないか。


 その強い決意を読み取れるのが、はなまるうどんが『四国新聞』の1月1日朝刊に掲載した「全ては讃岐うどんとともに。」という新聞広告だ。そこには「移転に関する思い」として、こんなメッセージがつづられている。


「本当」の香川生まれであるはなまるが、


「本物」にこだわった一杯の讃岐うどんを、


「正直」に真心を込めて、お届けしたい。


 「香川生まれではない讃岐うどん」に対して、マウントをとっているようにも見えなくない。しかもこの文章の中には数えてみたら「香川」「讃岐」というワードがそれぞれ5回も繰り返されている。2025年のはなまるうどんは、「香川」と「讃岐」でリブランディングしていこうという意気込みが伝わってくる。


●「はなまるうどん」と「丸亀製麺」の決定的な違い


 ……という話を聞くと、「香川発祥とか讃岐うどんかどうかなんて消費者には関係ない、安くてうまいうどんを提供したほうが勝つだけだろ」というコスパ重視の方はシラけてしまっているかもしれない。


 ご指摘はごもっともだが、一方ではなまるうどんが、同時期に創業した丸亀製麺とここまで大きく差が開いたのは、「安くてうまい」だけを愚直に追い求めてきたことが敗因ともいえる。


 食べ物なので個人の好みはあるだろうが、はなまるうどんも丸亀製麺もともに熱烈なファンやリピーターがいるように「味」でそこまで大きな差はない。「コスパ」に関しても優劣つけ難い。「小」や「並」の量が両者で異なるので一概に比較しづらいのである。ぶっちゃけこちらも「個人の好み」の問題だ。


 ただ、はなまるうどんと丸亀製麺では決定的に違う点がある。それは「店舗のスタイル」だ。


 丸亀製麺の路面店などに行く人は分かるだろうが、開放的なオープンキッチンで調理している従業員が目の前に見えたり、湯気が立ち上ったりしていて活気がある。店の看板やカウンターには木札メニューもぶら下がっていて、厨房にものれんがある。落ち着いた茶系のカラーで統一されているので、本当に田舎の製麺所のような雰囲気だ。しかも、実際に店で打ったうどんを提供している。


 この「こだわり」は、先ほども述べたように丸亀製麺が「コンセプトレストラン」だからだ。公式Webサイトの中でもちゃんと説明している。


「うどんの本場、讃岐の製麺所さながらのたたずまい。のれんをくぐると製麺をする麺職人の姿。目の前の釜から立ちのぼる湯気と茹であがった麺。積み上げられた国産小麦、麺を切る音。(中略)そんなライブ感のある店内で食べる、できたてのおいしさ。本場・讃岐の活気を五感で楽しめる場所、それが丸亀製麺です」(丸亀製麺の公式Webサイト)


●はなまるうどんのスタイル


 では、その「本場の讃岐の活気」をルーツに持つはなまるうどんの店内はどうか。こちらもよく行く人は分かると思うが、丸亀製麺とはまったく異なる。


 キッチンは特に開放的ではないカウンター式で、明るいベージュ色のイスとテーブルが並んでいる。いかにもフードコート内にあるファストフード店という雰囲気で、オレンジのロゴも相まってグループが同じ「吉野家」のような印象を受ける。また、こちらのうどんは「手打ち職人の製法を忠実に再現」した工場から送られてきている。


 なぜこのようなスタイルになったのか。答えは、はなまるの「経営理念」を見れば理解できる。


「将来にわたってお客さまから支持されるためには、商品だけでなく、われわれそのものが『本当』『本物』『正直』でなければならない。表面だけを着飾ったようなモノはいらない」


 自分たちは「本物」なので、無理に店内に「讃岐うどんの製麺所」の世界観を再現する必要はない。そんな表面を着飾るようなことに力を入れるより、味や価格にこだわったほうがいい。それぞれの店で打ちたての麺を提供するよりも、工場で品質を安定させたほうがいい、という考え方だ。


 断っておくが、どっちのスタイルが正しくて、どっちが間違いだなどといいたいわけではない。飲食店経営というのは、これさえやっておけば「正解」などといった簡単なものではないからだ。


 ただ、事実として、この2つのうどんチェーンを比較すると、「本当に香川発祥の店のほうがファストフードっぽくて、香川発祥じゃない店のほうが老舗の讃岐うどん店っぽい」というブランドイメージの「逆転」が起こっていることを指摘したいだけだ。


●はなまると丸亀製麺、成功したのは……


 そして、もう1つの動かし難い事実として、「香川発祥じゃないほう」が成功をおさめ、今や日本を代表する「讃岐うどんチェーン」にまで成長し、海外にも広く展開していることである。


 誤解を恐れずにいうと、消費者にとって「本物」かどうかはそれほど重要ではない。それよりも大事なのは「本物っぽい世界観」をいかにしてうまく伝えられるか否かだ。丸亀製麺はそれをしっかりとやってきたことで、香川にルーツがなくても「日本を代表する讃岐うどんチェーン」にまで上り詰めることができた、という見方もできる。


 それを踏まえると、今回のはなまるうどんの「香川マウント」だけでは、丸亀製麺の牙城を崩すことは難しい。


 これまで述べてきたように、一般消費者は「本物の讃岐うどんか否か」という点はそれほど気にしていない。香川を拠点にして「われらが本物であっちは偽物だ」と訴えたところで、そこまで響かないだろう。


 ただ、勝機があるとしたら、はなまるうどんが今、大きく掲げている「多様性」だ。


 「おいでまい!さぬきプロジェクト」の記者会見で、同社マーケティング本部CMOの高口裕之氏はこの25年で、ローカルフードだった讃岐うどんが全国区になった半面、「讃岐うどんの画一的なイメージが広がっている」という懸念を指摘した。


 本場香川の讃岐うどんは店ごとのバラエティーに富んでいて、味付けも喉越しもまったく違う。そのように「個性」の強いソウルフードなので、香川では讃岐うどんの名店をハシゴしたり、製麺所巡りをしたりする人もいるのだ。


●「はなまるうどん」が不動の地位を築くには


 はなまるうどんが丸亀製麺に決してまねのできないことをやろうと思ったら、この「個性」を前面に押し出すのも1つの手だ。すでに閉店した讃岐うどんの名店の味を再現するなどの取り組みも始まっているが、さらに踏み込んで、店舗ごとのオリジナルメニューや、店のスタイルもバラバラにしていく。


 「チェーンなのに各店が個性で勝負」というのは、既に「大阪王将」や「餃子の王将」などでも実践している。ただ、個人的には本当に丸亀製麺に対抗するのなら、「個性」どころではなく「カオス」くらいにすべきだと思う。店ごとにメニューはもちろん、店内の雰囲気も統一感ゼロにする。地方展開の場合、それくらい針を振り切ってやったほうが「利点」もあるからだ。


 北海道・函館の「ラッキーピエロ」というご当地ハンバーガーがある。ラッキーピエロは現地で、マックやモスバーガーよりも強い。秘密は市内にある店舗がそれぞれ「個性的」なので、地元の常連客だけではなく、函館にやって来た観光客も立ち寄る観光スポットになっているからだ。


 はなまるうどんは既に香川県と手を組んでいるので、地元の讃岐うどん店はもちろん、地元観光企業ともコラボをしやすい。これから県内の店舗を順次改装していくそうなので、ここを「うどんも食べられる観光スポット」となるように生まれ変わらせることができれば、ラッキーピエロのような不動の地位を築けるかもしれない。


 丸亀製麺の影響がほぼない香川で、このような「地域観光拠点型店舗」というモデルケースを確立すれば、全国にも順次、展開していける。人口減少で地方が疲弊していく中で「観光」は今後ますます地域経済を支える役割となっていくからだ。「香川と讃岐うどんのアンテナショップ」的なコンセプトは、丸亀製麺の「讃岐の製麺所」というコンセプトとも十分に渡り合える。


●「はなまるうどん」の逆襲が始まるか


 いずれにせよ、これまで「表面だけを着飾ったようなモノはいらない」といってきたはなまるうどんが、「香川」「讃岐」という表面的な要素にこだわり始めたのは、企業としては喜ばしい変化だと思っている。


 讃岐うどんの本場・香川から、はなまるうどんの逆襲が始まるのか。それとも世界でも「UDON」を広め始めた丸亀製麺が王座を守り続けるのか。


 北九州からは、すかいらーくグループの傘下となった「資さんうどん」も勢力を広げてきた中で、うどん王を巡る熱い戦いから目が離せない。


(窪田順生)



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