Text by 森谷美穂
Text by 中島たくみ
新年明けて間もないなか、昨年末の話で恐縮ではあるけれど、「これは絶対観ておきたい!」というか「ぜひともレポートしたい!」と志願して、現場に立ち会わせてもらったコンサートがある。昨年の12月30日、そして大晦日の31日の2日間、同年の春にこけら落とし公演を行った場所でもある横浜BUNTAIで開催された、ゆず初のオーケストラコンサート、その名も『YUZU Orchestra Concert 2024 ゆず晦日(以下、ゆず晦日)』である。
周知のとおり、昨年の夏に約2年ぶりとなるアルバム『図鑑』をリリースし、同年10月から大規模な全国ツアーをスタートさせ、追加公演も含めると3月までびっしりとライブの予定が組まれているゆずが、全国ツアーのはざまにあたる年末に開催したオーケストラコンサート。それは果たしてどんなものだったのか。ゆずにとって、さらにはゆずのファンにとって、どんな意味を持つコンサートになったのか。以下、筆者の所感も含めてレポートしたい。
ゆずにとって「初」ということは、ファンにとっても「初」となる。さらに原則「立見禁止」ともあり、コンサートの内容はもちろん、そもそも「どんな服装で行けばいいのだろう?」など、筆者も余計なことを考えながら(結果的には、当日の物販で売られていた『ゆず晦日』パーカーを着用した人が多かった)向かった横浜BUNTAI公演2日目、大晦日の夕刻。
ステージ上に整然と並べられた椅子の多さにあらためて驚きつつ、ゆずのライブではお馴染み、開演前のラジオ体操の時間があることに少しホッとしていたら会場が暗転。粛々と登場したオーケストラの楽器奏者たちが奏で始めたその音色の豊かさに、まずは圧倒される。そして、遅れてステージに登場したゆずの2人と、いつのまにかステージ後方にズラリと並んだ「関東学院ゆず合唱団」の数十名が歌い始めたのは、代表曲のひとつ“虹”だった。いきなりのクライマックスである。
3ピースの盛装でゆずの2人が登場し、オーケストラをバックに楽曲を披露
そこから、“ビューティフル”“逢いたい”と続いた楽曲の豊潤な音色とスケール感に、うっとりと聴き惚れる観客たち。そのあと、北川の解説のもと「ゆずの2024年」をスライドで振り返り、今回のコンサートは「今年一年頑張った自分たちと、同じようにそれぞれの場所で頑張ったみなさんにとって、ご褒美のようなもの」であると宣言する。
|
|
北川によると、オーケストラコンサート着想の端緒は2011年までさかのぼるという。同年2月にアルバム『2‐NI-』をリリースするも、東日本大震災を受けて、そのあとのスケジュールや、何よりも音楽に寄せる「想い」が大きく変化した頃の話だ。その時期にオーケストラが生み出す音楽の「豊かさ」を再認識し、今回の指揮を務めるマエストロ、西山勝と知己を得た彼らは、いつかゆずの楽曲をオーケストラとともに奏でてみたいと思うようになった。
その願いは、翌年のゆず15周年記念ドーム公演で披露された“栄光の架橋”と“虹”の「シンフォニックオーケストラバージョン」として実現する。だが、いつの日かオーケストラと丸ごと組んだ特別なコンサートを開催してみたい。それをやるなら、やはり年末がいいだろう。かくして10年以上の歳月を経てようやく実現したのが、今回の『ゆず晦日』になるのだという。
とはいえ、それは決して堅苦しいものではない――気心知れたファンと久しぶりに一緒に年の瀬を過ごすのだから、やはりゆずがゆずであるところも、きっちりと見せたい。そんな思いもあるのだろう。岩沢の「まさに、そのへん(伊勢佐木町)の路上で歌っていた曲です」という口上どおり、2人の弾き語りで“地下街”“ところで”など初期の楽曲を披露。
さらには、オーケストラにもピアノで参加していた、最近のライブでお馴染み磯貝サイモンらを招き入れ、ピアノ、カホン、ウッドベースという珍しい編成で“いこう”“タッタ”を演奏した。
|
|
よくよく考えてみれば、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』の主題歌でもあったこの曲のリリースは2013年。ちょうどその時期、北川のなかでクラシックに対する興味が高まっていたのだろうか。いずれにせよ、その曲がこうして生のオーケストラとともに奏でられることは、ゆずの2人にとっても感慨深いものがあったに違いない。
中盤では北川によるスライドつきのオーケストラ楽器解説が挟まれ、気がつけば当初思っていたようなよそ行きの気取った会などではなく、北川による観客とのやりとりも含めて老若男女誰もが楽しめるような、アットホームな雰囲気になっていた。
そして、その空気感のままオーケストラを贅沢に使った軽やかなアレンジの“イロトリドリ”、それとは打って変わって真摯な願いが込められた“Hey和”を歌いあげ、再びポップな“少年”、さらには「やっぱりやるんだ!」「オーケストラと一緒にどうやるの?」という驚きも含めて大いに盛り上がったライブの定番曲“夏色”になだれ込む。いやはや、目元を潤ませながらステージをじっと見つめたり、カバンのなかにあるタンバリンをまさぐったり、観ている側の感情もなかなか忙しい。しかし、これがゆずのライブの醍醐味でもあるのだ。その意味で、じつにゆずらしいオーケストラコンサートだったといえるだろう。
“少年”の間奏では、恒例の「Y」「U」「Z」「U」ポーズを観客一体となって表現。同曲のほか、いくつかの曲ではほかのライブと同様に観客も立ち上がって音楽を楽しんだ
本編最後は「年末に、これを聴きたかった!」と多くの人が思ったに違いない“栄光の架橋”のシンフォニックオーケストラバージョンを堂々と披露。鳴りやまぬ拍手のなか、このスペシャルなコンサートの幕が閉じられた――かと思いきや、アンコールで再度登場したオーケストラが、年の瀬に相応しくベートーヴェンの“交響曲第9番”を荘厳な響きとともに奏で始める。そして、紋つき袴に着替えて再登場したゆずの2人が歌い始めたのは、2011年に発表された、知る人ぞ知る楽曲“第九のベンさん”だった。
|
|
わかりやすいロック調の楽曲に、「第9(だいく)」の第4楽章、いわゆる「歓喜の歌」が組み合わされた、ゆずのなかでも異色といえるだろうこの曲を、オーケストラ生演奏で高らかに歌いあげる日がくるなんて。これがホントの伏線回収ってやつなのか? まさしく10年越しの伏線回収である。
さらには、曲の途中で「もういくつ寝ると〜」という「お正月」のフレーズが挟み込まれるなど、年の瀬ならではのお楽しみも。この曲が終わるころには、もはやすっかり大晦日な気分になってしまった。セイッ、良いお年を!
とても満ち足りた気分でコンサート会場をあとにしながら思ったのは、『図鑑』というアルバムは、リリース時に筆者が考えていた以上に、ゆずにとって「画期」となるアルバムだったということだ。
その名のとおり、ページをめくるごとに色鮮やかな驚きが広がるような、とてもカラフルなアルバムではあった。ただしそれは、本棚に置かれて存在感を示す整然とした作品ではない。リリースというかたちで「陽光」のもとにさらされ、オーディエンスという名の「水」を得ることによって、めきめきと変貌を遂げてゆくような「音楽」。それが、アルバムの表題曲である“図鑑”の冒頭で歌われていた<めくるたび広がる / まだ知らない謎だらけの世界>というフレーズの意味するところであり、いまの彼らの「決意表明」だったのかもしれない。
そう考えると、この『ゆず晦日』も、まさしくそんな「まだ知らない世界」のひとつで――いやいや、2025年のゆずもすごそうだ。まずは、本コンサートの直前にサプライズで配信リリースされた新曲“flowers”が加わる『図鑑』ツアーの後半戦、およびKアリーナ横浜2デイズを含むその追加公演か。
古参のファンはもちろん、新参のファンも軽やかに巻き込みながら、「まだ知らない世界」を自身の「図鑑」に次々と描き出そうとしているゆず。引き続き追っていきたい。