【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは菅田将暉主演、宮藤官九郎脚本の『サンセット・サンライズ』(2024年1月17日公開)です。演出は菅田さん主演映画『あゝ、荒野』の岸善幸監督。試写で鑑賞しましたが、2025年のベスト3にすでに入りそう!
本当におもしろかったのでご紹介します。では、物語から。
【物語】
東京のサラリーマン、晋作(菅田将暉さん)は、新型コロナウイルス感染拡大のためリモートワークに。出社しなくていいのなら大好きな釣りができる場所に住もうと物件探しをしたら、南三陸にある眺めのいい一軒家、しかも家賃6万円(!)が見つかって即決。
大家さんの百香(井上真央さん)とその父(中村雅俊さん)に面倒を見てもらいながら新生活をスタートします。
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しかし、町の百香ファンの独身男たち(竹原ピストルさん、三宅健さん、山本浩司さん、好井まさおさん)が「アイツは何者だ」と騒ぎ出し……?
【菅田将暉とクドカンの相性が抜群!】
菅田将暉さんがクドカン脚本の作品に出演するのは初なのですが、相性バッチリでした! 釣りが大好きで海沿いの一軒家での生活にワクワクの晋作。人懐っこくて好奇心旺盛だけど、人のテリトリーに土足でズカズカ入るような男ではなく、さりげなく気を遣える好青年でもあるので、三陸の人たちとも自然と仲良くなっていくんですよね。
またそんな晋作を演じる菅田さんがいいんですよ〜! 海の見える一軒家が気に入りすぎてはしゃぐ姿は少年みたい。いつもかっこいい菅田さんですが、今回は無邪気で可愛くて、かつ、純情な一面も見せてくれて、ほんわかした菅田将暉もやっぱり魅力的です!
【“モモちゃんの幸せを祈る会” のメンバーの魅力】
大家さん百香に変な虫がつかないように見守る “モモちゃんの幸せを祈る会” の独身男たちも良き。最初は晋作に対し「なんじゃコイツ」と睨みをきかせているんですが、メンバーのひとりケン(竹原ピストルさん)の居酒屋に来た晋作に「食ってみろ」とご馳走をふるまったりして、実はめっちゃいい人たち!
男性陣のユニークなキャラクターの設定はクドカンならではだなあ、と思いました。
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中でもタケ役の三宅健さんは、アイドルのイメージが強かったのですが、本作では三陸で暮らす独身のアラフォー男を見事に体現していました。ちょっと斜に構えていて口調はきついんですけど、根は情の厚い男を見事に演じ切っていて、俳優・三宅健の新たな魅力に驚きました。
【田舎あるあるの問題をコミカルに】
本作は、東京から来た青年と地元の人の交流を描くとともに、コロナ禍でのリモートワーク、田舎の過疎化、空き家問題など、さまざまな社会問題を背景にしています。
でもそれを前面に押し出すことなく、晋作と三陸の人々の物語の中に散りばめることで観客にさりげなく伝えていくということに成功。これはもうクドカン脚本の巧さであると同時に、その巧さを活かした岸監督のベテランの技ではないかと。
ちなみに岸監督、コメディを手がけるのは初だそうで、びっくり! 初作品でこんなに面白いなんて、もう「さすが!」としか言いようがありません。
【晋作と百香の関係の変化は胸キュン?】
晋作と百香は、住人と大家さんの関係ですが、次第に惹かれあっていきます。でも情熱的にパッと燃え上がる恋じゃないくて、なんだか気になるという感じから「なんでこんなに切ないんだ」と晋作が感じるようになっていくという。
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そして迎えるラストシーン。ネタバレになるから書けないけど、最高に可愛かった〜。出会いのシーンとラストシーンの対比が素晴らしい。これはもう絶対注目していただきたいです!
ちなみに、この映画は飯テロ映画でもあります。百香の家庭料理やケンの居酒屋で出る料理の数々が美味しそうすぎるんです。イカ大根、どんこ汁、ハモニカ焼き……。百香が作るなめろうも美味しそうだったなあ。
舞台が三陸、悪人も出てこないので、ずっと幸せな気持ちで観られる作品『サンセット・サンライズ』、激推しです!
執筆:斎藤 香(C)Pouch
Photo:Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
『サンセット・サンライズ』
2024年1月17日(金)より全国ロードショー
監督:岸善幸
脚本:宮藤官九郎
原作:楡周平『サンセット・サンライズ』(講談社文庫)
出演:菅田将暉
井上真央
竹原ピストル 山本浩司 好井まさお 藤間爽子 茅島みずき
白川和子 ビートきよし 半海一晃 宮崎吐夢 少路勇介 松尾貴史
三宅健 池脇千鶴 小日向文世 / 中村雅俊