女性ドライバーだけのガチンコレースとして、近年注目度が上昇中のKYOJO CUP。そんなKYOJO CUP出場ドライバーたちの素顔を探るべく、2024年シリーズ最終戦前の富士スピードウェイにて、FIA-F4や鈴鹿クラブマンレースMEC耐久シリーズなどでも活躍する下野璃央(#86 Dr. DRY VITA)に、自身のルーツやKYOJO CUPならではの面白さ、難しさなどを聞いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
⎯⎯まずは2024年KYOJO CUPシリーズを振り返った感想について教えてください。
下野璃央(以下、下野):安定して3位以内に入れてはいますが、チャンピオンしか狙っていない自分にとっては、思っていたよりも悪いシーズンでした。前回(第5戦)は1位でゴールしましたが車両規則違反で失格になるなど、優勝できないレースが続いています。2024年シーズンは全戦勝つという勢いで始めましたが、なかなか結果を出すことができなかったシーズンでした。
⎯⎯これまでさまざまなカテゴリーに参戦されていますが、他のカテゴリーと比べてどのような部分にKYOJO CUPの面白さや難しさを感じていますか。
下野:VITAというクルマは、私がFIA-F4などで乗っているクルマに比べると限界が低く、誰でもある程度走れてしまうので、差が出にくいというところが逆に難しいです。レースの開催場所が富士スピードウェイということもあり、どうしてもスリップストリーム合戦になってストレートで抜かされてしまうので、圧倒的に速くないとダメなのですが、それがこのクルマだと難しいですね。
抜きつ抜かれつのバトルがあるというのは、観ている方からすると面白いポイントではあると思います。ただ、レースをしている側としては、うしろのクルマに追いつかれてしまいますし、そういったバトルはあまり繰り返したくないのですけどね(苦笑)。あと、トップ3をいつも走行しているドライバーたちは無駄なバトルをせず、1コーナーで追い抜ける場面でも我慢して、最終ラップにバトルを持ってくるというやり方ができるので、戦略の幅が広がるという意味での面白さもあるかもしれません。
⎯⎯それではご自身のモータスポーツのルーツについて教えてください。最初にレースを始めたきっかけ、そして職業として関わりたいと思ったタイミングはいつだったのでしょうか。
下野:私は大阪に住んでいるのですが、11歳のときにレース好きの父と生駒のカートサーキットに行き、そこでレンタルカートに初めて乗ってハマったのがきっかけです。始めたころはレースに出たい気持ちはそこまでなかったのですけど、レースに出れば出るほど『勝ちたい』『上にいきたい』という思いが強くなり、気づいたらここまで来てしまいました(笑)。いまもそれほどクルマには興味がないのですが、カートを始める前もまったく興味がなかったです。私はクルマより、走ること、レースをすることが好きなのだと思います。
⎯⎯レースそのものが好きなのですね。ではご自身のキャリアについて、いちばんのハイライトとなったのはいつでしょうか。
下野:TCRジャパンシリーズという、土曜日と日曜日でシリーズが分かれていているカテゴリーがあるのですが、土曜日のサタデーシリーズでチャンピオンを獲ったことと、FIA-F4の2023年第1戦で7位を獲得して女性ドライバーの最高順位タイ記録に並んだことです。本当は記録を更新したかったのですが、FIA-F4ではプライベーターチームがポイント圏内に入ることはすごく難しいので、入賞圏内の10位以内を目指して戦っていました。
⎯⎯自分自身のドライバーとしての長所、そして課題はどのような部分にあると考えていますか。
下野:長所は気合いと根性が他の人よりもあることと、冷静なことです。以前はスターティンググリッドに並ぶと泣きそうになるくらい緊張したりもしましたけど、レース歴が長くなり、雰囲気に慣れてきたこともあり、最近は少しずつ冷静になれてきています。とはいえ、まったく緊張しないというわけではなく、ほどよい緊張感があるので、メンタル的にはすごく良い状態でレースができていると思います。
逆に短所は、データを長時間みて研究するということがあまりできないところですね。(自身が)感覚派であるのと、VITAのレースではクルマが決まっていることもあり、ほぼデータを見ずに完全に自分の感覚だけでやっています。しかし、ステップアップすればするほど、それが通じなくなるので、もっとデータを見て分析できるようにならないといけません。そこが課題です。
⎯⎯では、女性のレース参戦における難しい点や、メリットはどのようなところにあると思われていますか?
下野:メリットはスポンサーが集まりやすいと感じるところですかね。男性だと話題にならないことでも、女性だと話題になったりしますし、そういった部分は女性であることのメリットだと思います。難しい点は、男性と互角に戦うために、かなりのトレーニングをしなければいけない部分です。また、女性特有の生理的な現象も難しい点のひとつだと思います。薬などで調整できたりもしますが、レースウイークと被ってしまうと、体感はなくても何かしらの影響は出ていると思います。
⎯⎯下野選手は、ふだんはどの程度トレーニングをされているのでしょうか?
下野:週1回パーソナルジムに行き、あとは時間があるときに普通のジムでトレーニングをしています。平均すると週に2、3日くらいですね。もちろん筋力が必要ということもあるのですけど、私の場合は単純に『痩せたい』という目的もあります(笑)。お酒とごはんが好きでビールを飲むのですが、ビールは太るじゃないですか。だから運動しないと太っていってしまうんですよね(苦笑)。
⎯⎯私も下野選手を見習って運動しないと……(苦笑)。では最後に、同じドライバーとして、理想としているドライバー、憧れのドライバーがいましたら教えてください。
下野:リスペクトしているのは小山美姫選手です。(12月11〜13日に鈴鹿サーキットで行われた)全日本スーパーフォーミュラ選手権の公式テストにも参加されていて『すごいな』と尊敬しています。
⎯⎯ということは、下野の選手も小山選手のようにスーパーGTなどのカテゴリーに出場することが今後の目標となるのでしょうか?
下野:そうですね。スーパーフォーミュラやスーパーGT GT500クラスに参戦することは難しいかもしれませんが、GT300クラスに出られたらいいなと思っています。フォーミュラレースでは、先日スーパーフォーミュラ・ライツのテストに参加したので、まずはスポット参戦から始めて、いつかはフルエントリーで出られるようになりたいですね。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
KYOJO CUP第5戦ではレース後に車両規則違反が見つかり失格となったが、第2戦で2位、第1戦、第4戦、そして12月22日に行われた最終戦で3位を獲得し、シーズンを通して上位争いを繰り広げた下野。インタビューでは物静かに受け答えをしていたが、レースのことになると大阪府出身らしく関西弁が出る場面もあり、内に秘める熱さを感じ取ることができた。また、フォーミュラレースの参戦経験がある下野は、新型フォーミュラ車両の導入が予定されている2025年KYOJO CUPでも上位を争うことが予想される。今季は悲願のチャンピオン獲得なるだろうか。
⚫︎Profile
下野璃央(しもの・りお)大阪府出身、5月25日生まれ。
2021年からKYOJO CUPに参戦。2023年はFIA-F4に集中するためエントリーを見送ったが、2024年はDr. DRY VITAからふたたびKYOJO CUPに参戦。高いドライビングスキルと堅実なレース展開で表彰台に4度登壇し、ドライバーズランキング3位でシーズンを締めくくった。