お笑い芸人・漫談家のねづっちが1月15日にXに投稿した“問いかけ”が反響を呼んでいる。
その内容は <「子供が謎かけして欲しいそうなのでお願いします」と言われ悩んだけどお子さんだからやりました。でもやりたくなかったです。謎かけは仕事です。出番の時に手を挙げて欲しかったです。この境界線ってわからないものなのですかね?最近多いので呟いてみました。> というもの。自身の武器とも言える謎かけを過去に何度も“無償依頼”されていることと、彼の葛藤が綴られていた。仕事とプライベートの境目がごっちゃになっている人が一定数いるようだ。
同投稿には「プロの立場として、その気持ちはとても理解できます」「ねづっちさんが謎かけの習得に費やした時間や努力を無視して、無償で要求するのは筋違い」など、ねづっちに対する同情や共感の声が多い。
◆有名作詞家も苦言「『目に見えないもの』を売ってる」
ねづっち同様に無償依頼に苦言を呈した有名人として、『残酷な天使のテーゼ』や『魂のルフラン』などの作詞を手がけた作詞家・及川眠子も挙げられる。及川は以前 <タダで書いて。タダで歌って。タダで演奏して。タダで踊って。プロに向かってそんな要求する人が多い。「目に見えないもの」を売ってる私たちは、つまり「原価のかからない」仕事をしてると思われがちで、だからタダでも構わないでしょ、なのか。今までの資料代に勉強代、結構金かかってんだけどな。> と投稿。目に見えないスキルや経験を活かしてお金を稼いでいるために、無償依頼を受けやすいクリエイターだからこその苦労がうかがえる。
◆料理研究家に「料理のアドバイスを無償でやって」
料理研究家・リュウジも2023年にとあるメディアから、料理に関する無償での依頼があったことをXで報告。べちゃっとならない焼きそばの焼き方を記事にしたいのでインタビューを受けてほしいとメールが届いたという。しかし、<あ、お仕事ですね、予算は?と聞いたら「記事に名前と活動載せるからタダでやれ」との返答>とのこと。
こうした態度に違和感を覚えたリュウジは <一応、僕もプロなので言いますが、それを生業としてる人に「宣伝」を引き換えにタダで知識や時間を貰おうとする仕事は受けないし、受けないでほしい><それがまかり通ると「プロの価値」が下がりますしその人にもその業界にもマイナスしかありません> と怒りをあらわにした。
著名人であれば、どれだけ理不尽な依頼であっても、断ればSNSにネガティブな書き込みをされかねない。著名人は好感度が仕事量に直結する職業の場合、そういった対応はとても難しいはずだ。好感度を人質に取られているため、モヤモヤ感を抱きながらも“搾取”を受け入れている人は少なくないのではないか。ねづっちの投稿をきっかけに、無償依頼が頻発している状況を考え直す機運が高まることを期待したい。
◆無償依頼という“搾取”はどこでも起こりうる
無償依頼の被害は著名人に限らない。実際ねづっちの投稿には、医師がプライベートの場で病気の相談をされた話、トリマーが近所の犬のカットを「タダでやって」と言われた話をはじめ、Webデザイナーや美容師、音楽家、農家など様々な職種の人から“搾取”についてのコメントが散見された。無償依頼は業種や知名度は関係なく、どこででも発生しているようだ。
こうした無償依頼が起きる背景には、依頼する側の想像力の欠如が大きい。そのスキルや経験を獲得するためには膨大な時間やお金を費やす必要があり、場合によってはメンタルを擦り減らしながら身につけているのだ。そういった事情への想像力が全く働いていないため、簡単に無償依頼できてしまうのだろう。
筆者自身も、ライターとして無償依頼をされることは珍しくない。「同窓会のスピーチ原稿を書いてくれない?」といった執筆依頼から、「取引先への謝罪メールを書いたんだけど変な文章になってないかチェックして」といった添削依頼まで幅広い。無料では引き受けないことを伝えるとなぜか“ケチ”扱いされる。
究極的に言えば文章は、質さえ問わなければ誰でも書ける。だからこそ、躊躇なく依頼できてしまうのだろう。とはいえ、当人は文章作成に難しさを覚えているから依頼してくるはずだ。書くことを生業にしている人はその苦労を多く経験したからこそ、今仕事をもらえているわけだ。しかし無償依頼してくる人にこうした説明をしても、納得してもらえないから歯がゆい気持ちになる。
◆「タダで受ける」ことが仕事の価値を下げてしまう
今回のねづっちの投稿によって浮き彫りになった“無償依頼”ではあるが、発言小町やYahoo!知恵袋でもたびたび話題になっており、以前から問題視されている。友人や同僚から依頼されるケースも珍しくなく、人間関係がギスギスすることを恐れ、依頼を渋々受ける人は少なくない。
とはいえ一方でそのスキルや経験にお金を払ってくれている人がいる以上、無償依頼を「仕方のないもの」とするわけにはいかない。リュウジのいうように、無償依頼がまかり通ってしまうと、その積み重ねが仕事の価値を下げてしまうことにもなりかねない。
仕事をしていれば誰しも、無償依頼のリスクにさらされてしまう可能性がある。多くの人が余計なモヤモヤ感を抱く機会を減らすためにも、改めてこの問題点は議論されるべきだ。今まで無償依頼をしてしまっていたという人は、これを機にぜひ考えを改めてほしい。
<文/浅村サルディ>
【浅村サルディ】
芸能ネタ、炎上ネタが主食。好きなホルモンはマキシマム ザ ホルモン。