経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。
さて、今回は本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)の歴史について紹介したいと思います。
本田宗一郎氏が創業したホンダは戦後、オートバイメーカーとして台頭し、60年代から四輪車市場に参入しました。ヤマハとの「HY戦争」に勝つと、二輪ではシェアトップを独走し、現在も首位の座を維持しています。四輪では90年代にヒット車を次々に生み出し、低調な日産をよそに存在感を示してきました。将来的には日産との経営統合を進める方針ですが、事実上、時価総額で大幅に上回るホンダが主導する形です。ホンダの歴史と近年の動きについて、振り返りたいと思います。
◆ヤマハとの間で勃発した「HY戦争」
ホンダを設立した本田宗一郎氏は戦前、自動車修理工場を営んでいました。競合が増えたため、1938年にエンジン部品メーカーを設立し、トヨタへの納品を始めました。戦後の1946年に旧本田技術研究所を設立。47年に発売した原付「ホンダA型」はヒット商品となりました。1949年に「ドリーム号D型」、58年に「スーパーカブ」を発売し、当時から世界的二輪メーカーとしての地位を確立しました。
四輪事業に参入したのは1962年以降です。64年には早くもF1に初参戦。69年に同社初の小型自動車「1300」を、72年には「シビック」を発売しました。
1979〜83年の間、ヤマハとの間で熾烈な「HY戦争」が起きました。当時、二輪で既にシェアトップだったホンダに対し、ヤマハは女性受けを狙ったスクーターの投入や価格競争でホンダのシェアを奪おうとしたのです。しかしホンダの優位性は変わらず、ヤマハの過剰在庫と業績難でHY戦争は終結しました。ちなみに本田宗一郎氏は83年に取締役を退いています。
◆海外拠点を拡充し、90年代は四輪でヒット車続々
日本国内における二輪の販売台数は82年の329万台をピークに減少が続き、現在では僅か40万台しかありません。所得増加による車へのシフトや公共交通機関の整備、交通事故への忌避が二輪離れの主な要因です。しかし世界では二輪市場の拡大が続き、ホンダは国内外で生産拠点を拡充しました。近年の二輪販売台数は年間約6,000万台。うち3分の1をホンダが占めます。
なおホンダは80年代以降、四輪でも頭角を現すようになりました。F1では好成績を収め、1990年にはスポーツカー「NSX」を発売しました。90年代、日産はヒット車を生み出せず苦戦しましたが、ホンダは「オデッセイ」や「CV-R」、「ステップワゴン」などのヒット車を次々に投入しました。99年には初のハイブリッド車「インサイト」を発売しています。
2001年には「フィット」を発売、2006年には3種類あった四輪のディーラー網を「Honda Cars」に統一しました。業績への影響は小さいですが、86年からの開発を経て2015年に発売した「HondaJet」はホンダのブランド力向上に貢献しました。
◆売上高は四輪が上回るも、収益性は…
近年の業績を見てみましょう。2020年3月期〜24年3月期の実績は次の通りです。24年3月期の販売台数は二輪1,882万台、四輪411万台。20年3月期の1,934万台及び479万台を下回りますが、円安効果や値上げにより増収増益となりました。
二輪事業-売上収益:2.06兆円→1.79兆円→2.19兆円→2.91兆円→3.22兆円
二輪事業-営業利益:2,857億円→2,246億円→3,115億円→4,887億円→5,562億円
四輪事業-売上収益:10.19兆円→8.78兆円→9.36兆円→10.78兆円→13.79兆円
四輪事業-営業収益:1,533億円→903億円→2,362億円→▲166億円→5,606億円
この他にも金融サービス事業で年間3,000億円弱の利益を生み出しています。金融サービス事業は車の購入者に対する貸付事業です。二輪は今後の成長が見込まれる一方、四輪は中国で苦戦し、国内外の生産拠点を次々に集約しています。
◆“メリットが少ない”経営統合の行方は…
なお、現時点でホンダは2040年までのエンジン車撤廃を進める方針です。生産する全ての四輪車をEVまたはFCVに置き換えるとしています。とはいえホンダが初のEV「Honda e」を発売したのはたった5年前。同車は昨年の生産終了まで僅か1万台しか売れませんでした。ソニーとの共同開発EV「AFEELA 1」を年内に発売する予定ですが、1,400万円と高級車であり、シェア獲得には至らないでしょう。難航すれば脱エンジン宣言を撤廃するかもしれません。
そして昨年末に話題となったように、ホンダは日産との経営統合を進める方針です。日産を狙う鴻海による買収を防ぎたい経産省が主導したとの憶測も出ていますが、いずれにせよホンダ側のメリットが少ない経営統合といえます。世界シェアトップを握る二輪事業に専念し、軟調な四輪事業は他社と協力しても良いという考えなのかもしれません。
<TEXT/山口伸>
【山口伸】
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_