富士通社長に聞く「組織変革の真意」 AIエージェントの未来は?

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2025年01月18日 14:50  ITmedia ビジネスオンライン

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富士通の時田隆仁社長(撮影:武田信晃)

 2025年の新春トップインタビューでも、前年に引き続き富士通の時田隆仁社長(正式表記:「隆」は生きるの上に一)に話を聞く。


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 今年はドナルド・トランプ氏が大統領に再び就任する。ウクライナやガザでの紛争は解決の糸口が見えない。韓国でも戒厳令の余波が続くなど、ビジネスを取りまく状況は、ますます混迷を極めている。


 富士通は2021年から社会課題を解決する事業モデル「Fujitsu Uvance」(Uvance)をビジネスの中心に据えていて、2025年度は2023〜2025年度中期経営計画の最終年度だ。


 2023年度(2023年4月〜2024年3月)の決算を見ると、売上高は前年比1.1.%増の3兆7560億円、営業利益が同52.2%減の1602億円と増収減益だった。理由には欧州での事業再編、デバイス関係の売上減などを挙げている。ただし、Uvance単体でみると売上高2000億円から同84%増の売上高3679億円に増加。Uvanceを中心としたサービスソリューション事業全体では、売上高1兆9842億円から同7.7%増の売上高2兆1375億円に増加している。


 難しい経営環境の中で今後をどう展望しているのか。AIエージェントへの考えは? 富士通の役割の変化は。時田社長に話を聞いた。


●「改革には多くの事柄がリンクする。個別には捉えられない」


 富士通は、2025年度のUvanceの売上高で7000億円を目標に掲げている。これは全体の売り上げ4兆2000億円の17%、サービスソリューションというセグメント(2兆4000億円)では30%を占める規模だ。意欲的な目標に対して、時田社長は達成に自信をみせる。


 「Uvanceという新しい事業モデルのみならず、従業員の行動変容、顧客へのオファリング開発などに取り組んできました。商品、サービス、組織体制、事業の進め方など、あらゆる面で成熟度が増してきたと思っています。その結果、この数字を掲げました」


 この目標を達成するカギは何かと聞くと「(組織内の)横のつながりを広げること」だと話す。


 「今まで当社が手掛けてきたSI(システムインテグレーション)を中心としたビジネスモデルは、1業種や1顧客に向き合いながら要件を忠実に構築していくものでした。しかしUvanceは(複数の産業をまたぐ)クロスインダストリーなので、1対1ではなく、横のつながりを広げることが重要です。顧客にもそれを促し、理解してもらう必要があります」


 この意味で同社の営業担当者は、従来の能力に加え、コンサルティングへの素養も必要になる。それゆえに「ジョブ型人材マネジメント」を導入する必要があったのだ(富士通・時田隆仁社長に聞く「ジョブ型組織への変革」を参照)。Uvanceという事業モデルの変革と、自社内のジョブ型組織への変革は、絶え間なく地続きでつながっているのが分かる。


 この一連の変革には、同社が2020年10月に本格的に始めたプロジェクト「フジトラ」(Fujitsu Transformation)ももちろん絡む。フジトラとは、デジタル時代の競争力強化を目的として、製品やサービス、ビジネスモデルに加えて、業務プロセスや組織、企業文化・風土を変革する全社DXのことだ。


 「フジトラを通じて、新たな企業文化を作る活動も同時に進めることで、全社的な改革を成し得ることができます。(メディアなどの)皆さんは、よく取り組みを個別に捉えて質問をされますが、実は決して個別で語れるようなことではないのです」


 富士通の変革はUvanceに加えてジョブ型やフジトラなど、全ての取り組みがリンクしていることをあらためて強調した。世の中が変化を続ける中、商品開発でもその変化に対応しなければならない。さもなければ、時代遅れの商品を作ってしまうことになるからだ。さらに最近は「持続可能かどうか」という要素も加わってきた。そのような流れの中、時田社長は「変革にゴールはない」と言い切る。


●AIが引き起こす電力需給の逼迫 解決するには?


 生成AIが普及すればするほど、課題となるのが電力需給の逼迫だ。Uvanceは、社会課題を解決する事業であり、積極的にAIを組み込み使っている。つまりUvanceが広がれば広がるほど、電力消費も増えることになるのだ。一種の“二律背反”ともいえる。富士通は、どのように消費電力を減らしていく考えなのか。


 「AIがこれだけのブームになったのは、圧倒的なコンピューティングパワーがあったからです。計算能力の発展なくして、AIの発展はありません」と前置きした。その上で、富士通らが開発したスーパーコンピュータの富岳に搭載されているプロセッサ「A64FX」を挙げた。


 「高い電力効率を有するCPUです。省エネルギーについては、計算能力の向上と同じぐらい注力をしています。次世代高性能・省電力の国産プロセッサ『FUJITSU-MONAKA』も開発しました」


●「一極集中は不健全」 海外企業とも積極的に提携


 最近のホットトピックはもっぱらAI Agentについてだ。富士通も2024年10月に「Fujitsu Kozuchi AI Agent」の提供を開始した。


 AIが進化すれば、社員の役割にも変化が生じる。リスキリングが叫ばれている中、人材の再活用の方法についてはどう考えているのか。


 「人間がやる知的な作業も含めて、AIに代わってもらわざるを得ない領域があるとすれば、AIに自律的に動いてもらう必要があります。それがAI Agentです。ただAIは、人のためのものであって、あくまでも人が中心です。どの程度、置き換えるべきか議論するべきです」


 2024年の記事でも伝えた通り、富士通のAI活用では「Human Centric」(人間中心)の理念を掲げ、研究開発をしている。


 同社は2024年に入り、カナダの生成AI スタートアップCohereに加え、米SupermicroやAMDなどと戦略的技術連携をした。Cohereとは企業向けの大規模言語モデル(LLM)「Takane」(高嶺)も開発している。


 世界のITジャイアントがひしめき合う中、もはや1社だけで何かを開発し、GAFAなどと肩を並べていくのは限界があるのも事実だ。


 「富士通は通信、スーパーコンピュータ、量子コンピュータ、SI、AIなど、テクノロジー企業として何でもできる会社です。ただ当社だけで全てをやることが、社会や顧客にとって価値を生むかというと、必ずしもそうではありあせん。提携した一番の価値は、スピードアップにあります。この変化の激しい時代において、ゆっくりやるという選択肢はありません。Cohereと提携してわずか数カ月でTakaneを出せた事実は、素晴らしいことだと思っています」


 提携には、もう1つ狙いがある。富士通は米NVIDIA(エヌビディア)と協業する一方で、AMDとも協業している。AI向け半導体の業界構図が“エヌビディア1強”の様相を呈す中、そこにくさびを打ち込む形だ。


 「自由主義経済の中で、1つの企業や団体が何かを独占することは、決して健全ではありません。経済安全保障上の問題もあります。第3極の存在は、テクノロジーの世界にとっては良いことですが、それができる企業は限られています。富士通は、その役割を果たすべき企業の1つだと信じています」


●「ヘルシーな摩擦」なら歓迎 キャリア採用を強化


 富士通は人材の採用計画、特にキャリア採用に関して積極的だ。キャリア採用で2023年度に1000人、2024年度に2000人以上の採用を計画している。


 時田社長は富士通を選んでくれることに感謝をしつつ、現実として内部で摩擦が起こる可能性があることを隠さない。「他の企業で働き、高い経験値を持ち、成功体験があっても、富士通というフィールドにマッチするかどうかは別の問題でもあります。ただし新しいアイデアや培った経験を、富士通にもたらしてくれるという事実は、新たな価値を生むドライバーになると考えています。そういう意味で、私はどちらかというと、ヘルシーなコンフリクトは歓迎なんです」


 健全な摩擦が組織変革に良く作用するか。これは、どれだけ風通しのよい社風を作り出せるかにかかってくる。時田社長は前述のフジトラが重要だと考えているという。


 「『なんでも言っていいんですよ』ということを会社として発信しているわけです。いいアイデアやみんながやりたいと言うものなら、積極的に取り組んでもらう。そうすることで、心理的安全性も確保し、おっかなびっくりで、ものが言えないという状況を防ぐのです」


●中計の最終年度 社長としての腕の見せ所


 2019年6月の社長就任以来、東京証券取引所でのシステム障害、マイナンバーカードを使って住民票をコンビニエンスストアで受け取れる「コンビニ交付サービス」のシステムトラブル、英国の郵便事業会社に納入した会計システムの欠陥など、さまざまな問題に見舞われながらも、富士通の変革に努めてきた。


 2025年度には、2期連続の減益は受け入れがたいだろう。中計の最終年度でもある。だが時田社長の多方面に渡る改革が機能すれば、目標の達成は可能だろう。それが実現できるかどうか、非常に重要な1年となる。


(武田信晃、アイティメディア今野大一)



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