「就職をきっかけに初めての一人暮らしを始める」という方は、今も昔も少なくありません。社員寮や会社が指定する借り上げ社宅ではなく、住宅手当を利用して自分で物件を探して契約する場合、家賃や通勤時間をどの程度に設定するかが悩みどころです。その選択によって、知らぬ間に「大損」してしまったケースもあるのです。
はじめての一人暮らし「遠くても安くて綺麗なワンルームがいいな」
関東在住のAさん(20代・会社員)は大学を卒業後、広告制作会社に就職しました。憧れの職種に就くため、地元を離れて春から一人暮らしをスタート。
会社の規定では「交通費は月5万円まで全額負担」「一人暮らしをする場合は住宅手当として月3万5000円支給」となっており、家賃負担を軽減したいと考えて物件探しを始めました。
しかし、会社のオフィスがある都心から30分程度の通勤圏内で借りられるワンルームマンションを探してみると、高額な物件ばかり。選べるのは「風呂なし4.5畳」や「3畳の極小物件」といった、条件の厳しい部屋ばかりでした。
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そこでAさんは「通勤手当は月5万円まで全額会社負担だから、通勤時間が少々長くなっても郊外で探そう」と考え、会社の最寄り駅から地下鉄乗り入れ直通運転をしている私鉄沿線まで検討エリアを広げました。
そこで見つけたのは、乗車時間は1時間ほどになりますが、乗り換えなしの駅にあるワンルームマンション。家賃も6万円台で、これなら無理なく負担できそうです。通勤定期代は6カ月で16万円以上と高くなりますが、会社の規定である「月5万円」の範囲内で、自己負担はありません。納得の物件に出会えたAさんは無事物件の契約を済ませることができました。
新卒同期で同職種なのに手取りが違う!?
始発駅のおかげで座ることもでき、スマホでメールやSNSをチェックしているうちに1時間ほどの通勤時間はあっという間に過ぎてしまいます。選んだ部屋に十分満足していたAさんですが、入社から2年ほど過ぎたある日、同期入社の社員と給料の話をしているうち、自分の「手取り」金額が、ほかの同期より少ないことに気付きました。
当初は「実家暮らしの人はお金がかからないから余裕があっていいなあ」とうらやましく思う程度でしたが、よくよく聞くと「健康保険料・厚生年金保険料」や「所得税」などの控除額に差があることが判明。
職種が同じほかの同期社員と給与明細を確認したところ、基本給や営業手当の支給額は同じにもかかわらず、Aさんの社会保険料は8000円ほど、さらに所得税や住民税もAさんの方が多く引かれていたのでした。
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しらなかった社会保険料の落とし穴
「同じ給料なのになぜ!?…ひょっとして計算間違いなのでは??」と疑問をいだいたAさん。給与支払いを担当する人事総務部の先輩社員に確認すると、意外な理由を聞かされます。
「Aさんの方が、通勤手当と住宅手当の分が多い分にも、保険料や所得税住民税がかかるからよ。住宅手当の金額に所得税と住民税がかかるし、通勤手当は税だけではなくて健康保険料と厚生年金保険料の算定にも含まれるの。住宅手当がなくて月の定期代が数千円の同期と比べると、Aさんは合計で6万円近く「収入が多い」ってことになって、その分税金と保険料の負担額あがっちゃうからね」
通勤手当は「実費負担」で、住宅も仕事のために借りているにも関わらず、それが社会保険料や税金の対象になると聞き、Aさんは驚きました。
「家賃を下げようとして遠くに住んだ結果、保険料や税金をより多く負担することになるなんて知りませんでした。もし知ってたら、交通費を抑えるため、複数路線を使わない範囲で物件を探すとか対策ができたかもしれないのに……」
月に数千円程度の違いでも「チリも積もれば」。社会人になる前に、保険や税金の仕組みについてもっと詳しく学ぶ機会があればいいですね。
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【参考】
▽日本年金機構/標準報酬月額の対象となる報酬に、通勤手当は含まれるのですか。
◆沼田 絵美(ぬまた・えみ)人材業界や大学キャリアセンター相談業務などに20年以上携わる国家資格キャリアコンサルタント。