岩田剛典が比嘉愛未と初共演、W主演のドラマ『フォレスト』(朝日放送)が、毎週日曜日よる10時15分から放送されている。画面(映像)、音ともに主演の岩田を実にこまやかに際立たせている。
岩田は大きな謎を潜ませた役柄を演じ、登場人物たちの間でひそかに共有される「嘘」が、全編をスリリングに展開させる。その間、ひとつひとつの画面を点検するごとに、これまでの岩田剛典出演作が連動するように思う。
LDH俳優をこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、“フレーム内フレームの人”として奥行きがある本作の岩田剛典を解説する。
◆煙が少ない演出意図
『フォレスト』第1話冒頭、商店街を歩く幾島楓(比嘉愛未)が、焼き鳥の屋台に立ち寄る場面がある。何本も串が並んでじゅうじゅう音をならしている。でもどうもこの焼き鳥、あまり煙が立たないらしい。
実際の撮影現場では、火をいれていないからなのか、よくわからないのだけれど、いずれにしろ、すぐあとの場面を見ると、煙が少ない演出意図がはっきりする。
楓の帰りを待っている人がいる。クリーニング店「小林ランドリー」を営む店主・一ノ瀬純(岩田剛典)である。店内でアイロンをかけている彼をカメラが捉える。手元から蒸気が上がる。何度も上がる。この蒸気を際立たせるためのコントラストとして、上述した少ない煙のこまやかな演出が意図されていたのではないかと思う。
◆窓枠に縁取られる岩田剛典
純が作る手料理が並んだ食卓を囲む楓は幸せそうである。楓の「ずっとこんな日が続くと思ってた」というモノローグに対して、純は「ずっとこんな日が続くはずないと思っていた」と意味深。アイロンを操る手元から上がった蒸気は、純の顔にフォッグフィルターをかけているようだった。
純はその存在自体が、霧につつまれた謎の人物。大きな秘密をもった彼の役柄を映像的に説明していたのである。蒸気が画面上に充満しようというところで、楓が帰ってくる。作業場のすぐ目の前の窓を開く。
霧のような蒸気はどこへ。基本的にさわやかハンサムなクリーニング店主である純の屈託ない表情が写る。カメラは窓が開いて閉まる外、楓が立っている側にある。窓枠に縁取られる岩田剛典……。
◆『あなたがしてくれなくても』との共通点
主演ドラマとはいえ、こうも冒頭場面からいかにも岩田剛典的なワンショットが描かれるとは思わなかった。岩田が演じる役は、これまでの出演作品間であたかも連動しあうのが当たり前といった感じで類似することが多い。
夕食は必ずセイロで蒸し料理(蓋を開けるとここでも蒸気が上がる)を作る純だが、奈緒主演の不倫ドラマ『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ、2023年)では、妻・新名楓(田中みな実)とのセックスレスに苦悩する夫・新名誠を演じた。
誠が毎晩、楓の分まで食事を作っていた。楓という名前、そして愛するパートナーの帰りを待っている点では、『フォレスト』も『あなたがしてくれなくても』も共通している。でも誠のほうは、料理を全然食べてもらえない。それで楓の分をタッパーにつめて、作り置きしておく。そして冷蔵庫を開けては、作り置きを食べてくれたか確認する毎日。
◆演技もアートもフレーム内フレーム
あぁ、今日も食べてくれなかったか……。痛切な表情を浮かべる誠の表情をカメラは毎回、冷蔵庫内から捉える。するとちょうどのぞき込む誠がドア枠で縁取られる。新名さんには悪いけど、少しずつ変化をつけてのぞき込む彼の切ない顔を見るのが毎話の楽しみですらあった。
一ノ瀬純役と新名誠役の重要な共通点は、手料理作りに励む役柄だけでなく、画面というフレーム内に、もうひとつのフレームとしての枠(『フォレスト』では窓、『あなたがしてくれなくても』では冷蔵庫)が作られていることである。
岩田剛典の演技は、こうしてフレーム内フレームにあることで、演技そのものが重層化され、奥行きが生まれているのである。それはドラマだけの事実ではない。
LDHアーティスト(岩田剛典)がテレビ史上初めて帯企画に参加した『24時間テレビ47』(日本テレビ)でもそうだった。「三代目・岩田剛典が挑む 生アート制作 一流画家の作品をオークション」と題された企画で、自ら描いたライブペイント作品自体がひとつの枠(カンバス)である。それをテレビ画面越しに見れば、テレビ画面のフレーム内にもうひとつの枠があるように見える。
演技もアートもフレーム内フレームにしてしまう人。それが岩田剛典である。
◆三代目 J SOUL BROTHERSに持ちかえった主題歌
本作の画面自体にもしっとり豊かな奥行きが導入されている。テレビドラマ作品では、次話への経過となる場面(クライマックス)あたりに、主題歌をもってくる。
キャストやスタッフのクレジットを表示するための手続きでもあるのだが、三代目 J SOUL BROTHERSが歌う本作の主題歌「What Is Your Secret?」は、もっと純粋に作品の画面にコミットしている。
同曲イントロのうなるようなフレーズの響きが、店前で楓を見送る純がもらす「うん」と実につつやかに共鳴し、その息遣いを増幅するように曲へとシームレスにつながっている。
第1話冒頭近く、洗面所で楓をバックハグする純がもらす「ふふ」という鼻からぬける岩田剛典的な美麗の音も同じく呼応しながら、画面に豊かな奥行きをもたらしている。『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ、2017年)で使用された「HAPPY」以来、岩田剛典が三代目J SOUL BROTHERSに持ちかえったドラマ主題歌が、音と音までこまやかにリンクさせながら、主演の岩田をさらに際立たせる。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu