恋人(西野七瀬)が交通事故で亡くなってしまい、愛する人を突然失った主人公の昴(坂東龍汰)。彼は岐阜へ帰郷し、母との再会や新たな出会いを経て、再生への道を歩んでいく……。
大きな悲しみを抱えてスタートする昴の人生を描いた本作『君の忘れ方』は、坂東さんにとって初の単独主演作。まず出演の経緯と決め手についてお話を聞きました。
『君の忘れ方』主演・坂東龍汰さんにインタビュー
――『君の忘れ方』は坂東さんにとって単独初主演の映画ですが、出演の決め手について教えてください。坂東龍汰さん(以下、坂東):とても引き込まれる物語だったので、「ぜひ出演させていただきたい!」とお伝えしました。
――坂東さんが『君の忘れ方』の物語で惹かれた部分とは?
坂東:物語が始まってすぐに恋人の美紀が亡くなってしまうことに驚きました。「恋人の死から始まるんだ」と。昴が喪失感と向き合い、いろいろな人々との出会いを経て、どのような表情で終わるのか……。そんな昴の物語に思いを巡らせることができる脚本だったんです。
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西野さんとの写真撮影で役作りのヒントをもらった
――昴は急に恋人を失ってしまうので序盤から悲しみを抱えている状態ですが、どのように役作りをしましたか?
坂東:この映画の衣装合わせのときに、美紀が亡くなる前の昴についてスタッフの皆さんといろいろディスカッションしました。昴はきっと服を美紀に選んでもらっているんじゃないか、美紀と出会ってオシャレになったのではないかなど、スタッフさんとさまざまな話をしながら昴の役作りに生かしていきました。
また、クランクイン前に美紀を演じた西野さんと劇中用の写真を撮影する日があり、その時間も昴の役作りを助けてくれました。その日が西野さんと初対面だったのですが、西野さんは物腰が柔らかくてとても親しみやすい方だったので、楽しく写真撮影ができました。
写真撮影時しか生前の美紀と一緒にいる時間がなかったので、そのときの写真はカメラマンさんから送ってもらい、昴としてずっと持っていて、ときどき眺めては、美紀との時間について考えていました。
――その時間以外、美紀は幻のような存在でしたから、貴重だったんですね。
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飛騨のロケ撮影でどっぷり役に染まれた!
――飛騨でのロケ撮影は、いかがでしたか? 大変だったのでしょうか?
坂東:飛騨の空気のおいしさ、食事のおいしさは格別でした。東京で撮影したパートは美紀を失ったシーンなので精神的にもつらかったのですが、昴の故郷、飛騨に来てからは、気持ちを切り替えることができたし、「いい映画にするぞ」とスタッフとキャストが改めて一丸となって臨めたのはよかったと思います。
――いい環境で撮影できたんですね。
坂東:主演ということもあり出演シーンが多い中で、共演の俳優さんたちといい関係を作っていこうと意識していました。最初は、やはり主演が一番全体を客観的に見ないといけないのではないかと思っていたんです。
ただ作道監督から客観的に考えることはやめてほしいと言われました。監督はずっと「主観的でいい」と。周りの人のことは気を使わなくていい、「赤ちゃんのような存在でいてほしい。迷惑をかけてもいい、甘えてもいいから、ずっと真っすぐに昴のことだけ考えて演じてほしい」と言われました。
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坂東:そうですね……。「昴の気持ちと一緒になっていていいから」と言われたので、その通りに芝居をしていったら、どんどん昴に引き込まれていきました。混乱したときは監督に自分が感じた気持ちをぶつけて、話し合いながら撮影していました。
――昴の負の感情を撮影が終わっても引きずることはなかったのでしょうか?
坂東:僕は引きずっているつもりはなかったのですが、作道監督から、撮影中、感情の浮き沈みが激しかったと言われました。確かに昴の感情と自分の感情が重なる瞬間があったかもしれない。でもそれは役に入り込んでいたということなのかもしれません。僕はあまりそういう経験がないのですが。
――珍しいことなのですね。
坂東:やはり飛騨に1カ月滞在して、寝ても覚めてもスタッフ、キャストと一緒にこの映画の撮影に没頭していたので、どっぷり昴の気持ちになれたんだと思います。ご飯もおいしくて、飛騨牛の焼肉が最高でしたし(笑)。素に戻ったときは、いい感じにリフレッシュもできました。
やはり現場の雰囲気は、作品を作る上でとても大切だと思うので、そのような意味でもこの映画の現場は最高でした。みんなプロ意識が高くて、意見交換も活発で、いろいろな映画制作の現場で腕を磨いてきたスタッフの皆さんがしっかり支えてくれたので、僕は単独初主演作でも安心して全力で演じることができました。
シュタイナー教育の卒業演劇で芝居に目覚める
――坂東さんのキャリアについてもお聞きしたいのですが、ニューヨークで生まれて、北海道育ち。シュタイナー教育(※)で演劇を経験してから芝居に目覚めたそうですが、今の坂東さんのお芝居にシュタイナー教育での演劇はかなり影響を与えているのでしょうか?
※ドイツのルドルフ・シュタイナーが提唱した芸術教育
坂東:間違いなく影響を受けていると思います。「卒業演劇」というのがあり、その舞台に立ったことが芝居に目覚めたきっかけです。それまで演劇は嫌いだったんですよ。人前に立って芝居をするなんて恥ずかしいじゃないですか。
でも小学生から高校生までの教育カリキュラムに演劇が入っていて、その教育の集大成が卒業演劇。その舞台で経験したことのない充実感と高揚感を得たんです。恥ずかしさを超えて「これだ!」と思い、自分は絶対に俳優になれると信じて上京しました。
――まずは卒業演劇で舞台の世界に魅了されたんですね。
坂東:舞台は苦痛と快楽がはっきりしている気がします。僕は本番までの時間はとても苦手。プレッシャーに負けそうになって、セリフが入ってこなくなって、逃げ出したくなります。
ただ、震えながらでも舞台に1歩出たら、お客さんと一体化できて、自分を取り囲んでいたすべてのネガティブな感情から解き放たれて、快感に変わる……。その瞬間が最高です。
昨年、『う蝕』という舞台をやったとき、卒業演劇の感動を再び味わうことができました。とても楽しかった。やっぱり俳優・坂東龍汰の本質を作っているのは、シュタイナー教育で学んだ演劇なんだと思います。
――映像とは手応えが違うということですか?
坂東:映画やドラマはまた違うよさがあります。舞台は最初から最後まで一気に展開していきますが、映像作品はシーンごとにカット割りがあるし、物語の順番通りに撮影するわけではない。でもシーンごとにどうしたらよりよくなるか相談できますし、撮影が進むにしたがってステップアップしていく楽しさがあります。
「映画っていいなと改めて感じました」
――これまで舞台と映像作品への取り組みについてお話を伺いましたが、映画鑑賞はいかがですか。All Aboutでは取材をした方に劇場で見るときの“ベスポジ”を聞いているのですが、坂東さんはありますか?坂東:『DUNE/デューン 砂の惑星』の第1作目を友達と見に行ったとき、僕はど真ん中の席で映画の世界を浴びたかったのですが、友達は一番後ろの席がいいと言ってけんかになり、別々の席で見ました(笑)。ユーロスペース、ヒューマントラストシネマなどのミニシアター系で見るときも、比較的真ん中で見ることが多いですね。
――最後に完成した映画を見た感想を教えてください。
坂東:実は自分が出演した作品で初めて泣きました。撮影していたときのことを思い出して、客観的に見られなかったのかもしれません。試写には美紀役の西野さんやお母さん役の南果歩さんも来ていて、みんなとてもいい顔をしていて、すごくホッとしたのを覚えています。映画っていいなと改めて感じました。
――ぜひ映画館で見てほしいですね。
坂東:『君の忘れ方』は“余白”の多い映画なので、没入して見てほしいです。映画館という集中して映画鑑賞できる環境だからこそ見えてくる特別な世界がこの映画にはあります。ぜひ劇場のど真ん中で僕を見ていただきたいです!
坂東龍汰(ばんどう・りょうた)さんのプロフィール
1997年5月24日、ニューヨーク生まれ。北海道出身。2017年に俳優デビュー。2022年『フタリノセカイ』で映画初主演。第32回日本映画批評家大賞の新人男優賞を受賞。舞台、ドラマ、映画で幅広く活躍。主な出演作は『春に散る』『バカ塗りの娘』(いずれも2023年)『一月の声に歓びを刻め』『若武者』『シサム』(いずれも2024年)。劇場アニメ『ふれる。』(2024年)では声優に初挑戦した。最新作は映画『雪の花 ーともに在りてー』(2025年1月24日公開)、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の舞台『ベイジルタウンの女神』(2025年5月6日〜18日)がある。撮影・取材・文:斎藤香
ヘアメイク:後藤泰(OLTA)
スタイリスト:李靖華
『君の忘れ方』2025年1月17日(金)より全国ロードショー
監督・脚本:作道雄
出演:坂東龍汰、西野七瀬、円井わん、小久保寿人、森優作、秋本奈緒美、彩凪翔、ジャン・裕一、みつき愛、早咲、山本修夢、井上奈々、深川澄雄、伊藤修子、山崎(※たつさき)翠佳、津田寛治、岡田義徳、風間杜夫(友情出演)、南果歩
エンディング歌唱:坂本美雨
(C)「君の忘れ方」製作委員会 2024
(文:斎藤 香(映画ガイド))