富下李央菜(#225 KTMS VITA) 女性ドライバーだけのガチンコレースとして、近年注目度が上昇中のKYOJO CUP。そんなKYOJO CUP出場ドライバーの素顔を探るべく、2024年シリーズ最終戦前の富士スピードウェイにて、自身初の四輪レースである2023年KYOJO CUP開幕戦でデビューポールポジションを獲得し、注目を集めた現役高校生レーサーの富下李央菜(#225 KTMS VITA)に、自身のルーツや今後の進路などを聞いた。
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⎯⎯まずは2024年KYOJO CUPシリーズを振り返った感想を教えてください。
富下李央菜(以下、富下):2年目ということもあり、結果を出したい気持ちが大きかったのですけど、なかなか思ったようにいきませんでした。でも、今シーズンは2位を2回獲得して表彰台に登壇できたので、その点は良かったです。
⎯⎯富下選手はこれまでカートレースなどに参戦されていますが、他のカテゴリーと比べてどのような部分にKYOJO CUPの面白さを感じていますか。
富下:カートに乗っていたとき周りにいたのは男の子ばかりで、女の子だけのレースカテゴリーに出るのは初めてなので、なかなか比べられないのですが、KYOJO CUPはクルマに乗っている以外の時間でみんな仲良くしているので、そういった部分は“女の子ならでは”だと思います。
⎯⎯良い雰囲気でレースウイークを過ごされているのですね。プライベートでもドライバー同士の交流はあるのでしょうか?
富下:一緒にお出かけするというのは今のところないですね。でも、ご飯に行ったり、連絡を取り合うようになった人もいて、私でいうと佐々木藍咲(#38 LHG Racing DRP VITA)ちゃんは年齢が近いこともあるので仲良しです。レース後はその日のレースのことを話しますし、学校の話や流行っているものなど、ふだん友達とするような話もしています。
⎯⎯では、ご自身のモータースポーツのルーツについて教えてください。最初にレースを始めたきっかけはどのようなものでしたか。
富下:小学校4年生くらいのときにカートサーキットに行ったとき『乗ってみる?』と声をかけられたことがきっかけです。当時はモータースポーツのことをなにも知らなかったので、レースがやりたかったというわけではなく、なんとなくカートに乗りました。自転車のように足で漕ぐのではなく、ペダルを踏んでカートが進む感覚が面白かったので、モータースポーツを続けています。小学生だったこともあり、カートに対する恐怖心はなかったですね。
⎯⎯当時は毎日カートの練習をされていたそうですが、練習にのめり込めた理由を教えてください。
富下:私は小学生からカートを始めましたが、まわりの人は幼稚園くらいの年齢から(カートを)始めていたので、その人たちに『早く追いつきたい』という気持ちがありました。なので、学校が終わった後は家からクルマで1時間くらいのサーキットに行き、暗くなるまでカートに乗るという生活をしていました。今はレースウイークの日程が決まっているので、毎日カートを練習するということはなくなりました。
⎯⎯高校3年生ですと学業や進路活動もありますよね。ちなみに進路は決まっていますか?
富下:とりあえず進学はしないつもりですが、まだなにも決めていません(苦笑)。レーシングドライバーとして生きていけたら良いのですが、レース活動をしている会社に就職して、その会社でドライバーを続けていくことには少し抵抗があります。結局乗らずに終わってしまったりや、仕事ばかりになってしまったという人を知っているので……。勉強は苦手なので(今後の進路について)どうするべきか迷っています。
⎯⎯そうなのですね。ではご自身のキャリアについて、いちばんのハイライトとなったのはいつごろでしょうか。
富下:ハイライトがそもそもない気がします。同年代の人たちがどんどんと上のクラスにステップアップしてしまうので『私も(同じカテゴリーに)いかないと』という焦りが結構あります。しっかりとチャンピオンを獲る前に、どんどんと上のカテゴリーに進んでしまったので、良い印象のある出来事はない気がします……。
⎯⎯ということは、ドライバーとしての課題や短所については、明確に自覚されているのですか。
富下:全体的に改善すべき部分がありますが、強いて言えば“喋り”の部分です。話すことが上手なドライバーさんがたくさんいるので、私もうまく話すことができるようにしたいのですけど、人見知りもありますし、話すことは得意分野ではないので今後の課題です。ただ、どう改善していけば良いのか悩んでいます。
⎯⎯逆に、長所はどのような部分だと思われていますか。
富下:長所ですか……。(カートからどんどんと上のカテゴリーに進んでしまい)私はずっとパッとしない感じなので、ちょっと思いつかないです。逆に私が自分の良い部分を知りたいです(苦笑)。
⎯⎯『女子高生ミスコン2024』ではセミファイナリストに選出されていましたね。改めて出場の経緯と感想を教えていただけますか。
富下:Instagramのフォロワーの増やし方が分からなかったので(ミスコンに参加したら)『良いことがあるかも』と思ってエントリーを決めました。具体的に何をするのかはあまり分かっていなかったのですけど『配信をするだけならやってみよう』と挑戦しました。ですが、結果的にフォロワーはあまり増えなかったので『配信は難しい』と、あまり成長することなく終わってしまいました。
⎯⎯また、富下選手は2024年のTGR-DCレーシングスクールも受講されていたようですね。そのときの感想を教えてください。
富下:いつも乗っているVITAとは(クルマが)まったく違ったので難しかったです。スクールは走行して疑問点を講師に聞き、フィードバックを貰うという流れだったのですが、何か特別なことを言われたわけではなく、走りの基礎部分のことをフィードバックしてもらいました。
⎯⎯では、女性がレースに参戦することの難しい部分はどのような部分にあると考えていますか?
富下:体力面がいちばん大きいと思います。あとは今までの経験から言うと、やはり男の子側には『女の子には負けたくない』という思いがあるみたいですね。
⎯⎯最後に、今後どういったドライバーになりたいというビジョンはありますか。
富下:目標はスーパーGTに出場することです。“スーパーGTに出場する”というところまで進むことがそもそも大変なので、GT500でもGT300でも、乗れるのであればどちらのクラスでも乗ってみたいです。また、スーパーGT以外にはスーパーフォーミュラにも興味があります。このままステップアップして、そういったトップカテゴリーに乗ることができたら嬉しいです。
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KYOJO CUP第3戦、第5戦でそれぞれ2位を獲得し、12月22日に行われた最終戦では4位でチェッカーフラッグを受けた富下。レースでは高校生とは思えない走りを披露しているが、インタビューでは一転、これまでの経歴や高校生らしい悩みなどを赤裸々に語っていた。スーパーフォーミュラにも興味があると語る富下だが、2025年シーズンよりKYOJO CUPに導入される予定の新型フォーミュラ車両『KC-MG01』では、どのような走りをみせてくれるのだろうか。
⚫︎Profile
富下李央菜(とみした・りおな)千葉県出身、6月5日生まれ。
2023年にKYOJO CUP初参戦。自身初の四輪レースとなった開幕戦ではデビューポールポジションを獲得し、初年度をランキング6位で終えた。2024年は2年目となるKTMS VITAから参戦。第3戦と第5戦でそれぞれ2位表彰台を獲得し、ドライバーズランキング5位でシーズンを締めくくっている。