新シーズン開幕前企画! 脅威の11勝を挙げたバニャイアの敗因とは。数字で読み解くマルティンが王者に輝いたワケ

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2025年01月22日 13:40  AUTOSPORT web

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ホルヘ・マルティン(プリマ・プラマック・レーシング)とフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)/2024MotoGP第20戦ソリダリティGP
 2025年が始動し1月も半月が経過したが、モータースポーツは未だオフシーズンが続いており、やや寂しさも感じているファンも多いのではないだろうか。ロードレース世界選手権のMotoGPクラスは続々とカラーリングなどを発表し、2月からは公式テストも始まり楽しみも少しずつ増えつつある。そこで、シーズンが始まる前に新王者が誕生した2024年のMotoGPを振り返りつつ、数字のデータを元に読み解いてく。

 計2本仕立てでお届けするが、今回は新チャンピオンに輝いたプリマ・プラマック・レーシングに所属していたホルヘ・マルティンと、惜しくもタイトル防衛に敗れたフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)の勝敗はどこにあったのかをテーマに分析した。ふたりの熱いバトルのハイライトとともに、MotoGPファンと読者の方々にお届けしよう。

 2024年は新たな刺客として、ルーキーのペドロ・アコスタ(レッドブルGASGASテック3)が序盤戦から活躍を見せた。さらには、ホンダからドゥカティに移籍したマルク・マルケス(グレシーニ・レーシングMotoGP)が中盤戦以降に優勝を飾り、終盤戦までタイトル争いの希望もわずかに残すなど、スプリントと決勝を合わせて6人のウイナーを筆頭に様々なライダーが活躍したシーズンでもあった。

 そのなかで、2023年同様にタイトルを争っていたのは、自身初の王者を狙うマルティンと3連覇に臨んだバニャイアだ。ほぼ一騎打ち状態でありながら、抜きつ抜かれつと順位を入れ替えるだけでなく、ポイント差も縮めるなど熾烈なタイトル争いが繰り広げられていた。2023年度同様に最終戦バレンシアGP(今年は代替のソリダリティGP)まで王者決定戦は持ち越しとなり、最終的にはマルティンが自身初のMotoGPチャンピオンに輝いて幕を閉じたが、彼らふたりの勝敗はどこにあったのだろうか。まずは下の表をご覧いただきたい。

■フランセスコ・バニャイア
sessionRd.1Rd.2Rd.3Rd.4Rd.5Rd.6Rd.7Rd.8Rd.9Rd.10予選5番手4番手4番手7番手2番手2番手2番手PP4番手2番手スプリント4位4位8位リタイアリタイアリタイア優勝優勝3位リタイア決勝優勝リタイア5位優勝3位優勝優勝優勝優勝3位

sessionRd.11Rd.12Rd.13Rd.14Rd.15Rd.16Rd.17Rd.18Rd.19Rd.20予選2番手3番手PPPP4番手2番手5番手PPPPPPスプリント優勝9位2位優勝優勝優勝4位3位リタイア優勝決勝優勝リタイア2位リタイア3位優勝3位優勝優勝優勝

■ホルヘ・マルティン
sessionRd.1Rd.2Rd.3Rd.4Rd.5Rd.6Rd.7Rd.8Rd.9Rd.10予選PP3番手6番手3番手PP7番手PP2番手PP4番手スプリント優勝3位3位優勝優勝4位リタイア2位優勝2位決勝3位優勝4位リタイア優勝2位3位2位リタイア2位

sessionRd.11Rd.12Rd.13Rd.14Rd.15Rd.16Rd.17Rd.18Rd.19Rd.20予選PP4番手4番手2番手PP11番手PP3番手2番手4番手スプリント2位2位優勝2位10位4位優勝2位優勝3位決勝2位2位15位2位優勝2位2位2位2位3位

 この表はふたりの予選、スプリント、決勝の各成績をまとめたものである。予選においては、ふたりとも一度も予選Q2ダイレクト進出を逃したことはなく、王者を争う者としてふさわしいと言える。ポールポジション獲得回数ではマルティンが7度、バニャイアが6度であり、あまり差はなかった。

 ただ、思い返せば2連覇経験のあるバニャイアはプラクティスでは序盤にあまりタイム出しをせず、セッション終盤にかけてゆっくりとアジャストさせつつアタックしていた様子があったように思う。シーズン途中はチャタリングやタイヤの問題に苦悩を抱えていた場面もあったが、20戦中で第4戦スペインGPのみ7番手だったものの、他19戦はすべてトップ5内のグリッドを獲得していたのは、2連覇を成し遂げた王者としての実力だろう。

 一方マルティンは、プラクティスでも序盤からトップあるいは上位につけていたこともあり、走り出しから比較的スムーズにウイークを進めていたような印象がある。予選でも唯一トップ10以下に沈んだ第16戦日本GPおよび、第3戦アメリカズと第6戦カタルーニャGP以外は2列目までを獲得している。そのことから予選においては“両者ほぼ互角”と言えるのだが、年間予選最速者を決定する『BMW M Award』は、累計369ポイントを獲得したバニャイアが2022年から3年連続で手にした。マルティンとの点差はわずか10ポイントだった。

 では、どこに差があったのかというと、読者の皆様もお気づきであると思うが、スプリントおよび決勝での獲得ポイントの差だ。

■マルティンvsバニャイアの勝敗を分けた入賞率
 まずは、スプリントについての勝利数を見てみると、マルティンの強さは2024年も健在で7勝、バニャイアも序盤戦で3連続リタイアなど大苦戦を強いられたものの、同様に7勝を飾っている。勝率で見ると両者ともに勝利回数は同じであるため勝率は35%と同様だが、3位までの入賞率で見るとマルティンは80%に対して、バニャイアは50%とその差は歴然。

 リタイアは第7戦イタリアGPの1度きり、ノーポイントは第15戦インドGPのみと残り18戦は優勝を含みすべてトップ3入りとマルティンの成績は驚くものがある。それに対して、バニャイアは5度のリタイア、ポイントを獲得こそしているもののトップ3入りができなかった計5戦、ここが獲得点数に大きく影響していると言えるだろう。

 しかし、バニャイアは2023年と同様に決勝での強さも持ち合わせていた。開幕戦カタールGPで優勝を挙げると、2024年は11勝および5度の表彰台を獲得。マルティンをわずか3勝に抑え、勝率は55%と圧倒的だ。スプリントより約2倍のポイントが手に入る決勝で、20レース中11勝と過半数を上回る脅威の戦闘力を発揮していたのにも関わらず、王座にあと一歩届かなかったのにはトップ3への入賞率にあると思う。

 マルティンは優勝回数こそ届かなかったものの、優勝を除いて13度の表彰台を獲得しており、互いのトップ3入賞率を見ると80%と並んでいる。“両者ほぼ互角”の争いではあったが、決勝に関してもバニャイアは3度のリタイアに対してマルティンは2度であるため取りこぼしが少ないことが表からも見て取れる。

 現にランキング3位のマルケスも、決勝ではマルティンと同様に3勝、スプリント1勝、両レースを合わせて16度の表彰台を獲得しているが、ランキング2位のバニャイアとは最終的に106ポイントもの差が生まれていた。このことから、ふたりの勝敗は“地道なポイント稼ぎと少ないミス”にあったと言えるのではないだろうか。

 タイトルを争う上で当たり前のことではあるが、プレッシャーも相まって後半戦になればなるほどその場にとどまり続けることは難しい。追われる立場であれば尚更だ。そのような状況下でもプレッシャーを跳ね除け、スプリントおよび決勝でコツコツとポイントを積み上げてリタイアやノーポイントなどミスを最小限に抑えたマルティンに軍配が上がったと言っていいだろう。すべてが彼の影響ではないとは思うが、上位走行時におけるバニャイアの転倒が少々多かったのは、前年度王者にプレッシャーをかける位置で常に争っていたマルティンの影響もあるのかもしれない。

 ちなみに、公式セッションが開始する木曜日にはプレスカンファレンスが毎戦行われるのだが、そちらにおいてもふたりは皆勤賞だった。2023年に引き続き注目させていたふたりは、開幕戦から最終戦まですべての会見に出席し、王者を争うもの同士ともに出席率は100%であった。

 2023年はタイトル争いの望みを自ら最終戦まで繋いだものの、決勝レースでまさかの転倒を喫して王者獲得の可能性が潰えるなど、非常に無念が残るものとなった。おそらく「今年こそは!」と誰よりも強い思いを抱いて、2024年に臨んでいたに違いない。

 雪辱を晴らすべく昨年をはるかに上回る技量と強さを兼ね備え、なおかつメンタル面においての大きな成長と遂げてきたマルティン。彼の成長ぶりが見て取れる一年だったように感じるが、彼のそのすべてにおけるレベルアップと強い思いが初のMotoGPチャンピオン獲得に結実したと言っていいのではないだろうか。

 また、チャンピオンとして2連覇に挑むマルティンにとって2025年は一念発起の年となる。ドゥカティからアプリリアに乗り換え、ファクトリーチームのアプリリア・レーシングより参戦が決まっており、新天地でのスタートを切る。すでに体制発表会が行われ、2025年型RS-GPおよびカラーリング、そしてゼッケンはチャンピオンナンバーの『1』を使用することが発表された。

 その際にマルティンは「アプリリアで勝利するという新たな挑戦にとても興奮しているし、それを成し遂げるのに最適な場所にいると思う。刺激的な挑戦になるだろうけど、僕を含めた全員がとても強い決意を持っているよ」と2025年における意気込みも語っていた。

 対するバニャイアは、引き続きドゥカティ・レノボ・チームから参戦する。彼も体制発表時には「今季は強くて競争力のある新しいチームメイト、マルク・マルケスがいるから一緒にバイクの開発をさらに高いレベルへ引き上げることができるだろう」とコメント。2025年はアプリリア対ドゥカティのタイトル争いも期待できるかもしれないので、開幕が待ち遠しいところだ。

 タイトル争いはこのふたりの一騎打ちとなるのか、はたまたファクトリーチームに加入したマルク・マルケスやアコスタ、バスティアニーニが牙を剥くのか……。約1ヶ月ほどで幕が開ける2025年シーズンのMotoGPも目が離せない数々の展開が待っているのではないだろうか。

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