新型コロナウイルスがヒトの気道の細胞に侵入するのに使うスパイクたんぱく質に強力に結合し、感染を防ぐペプチド(小型たんぱく質)を開発したと、東京科学大と大阪医科薬科大の研究チームが22日までに発表した。さまざまな変異株をヒトの細胞株やハムスターに感染させる実験で効果を確認しており、予防・治療薬候補として医師主導治験を行うことを目指している。
東京科学大の藤吉好則特別栄誉教授は「このペプチドは39個の天然アミノ酸で構成され、安価で容易に化学合成できる。スパイクたんぱく質だけに結合するため、副作用はないと考えられる」と話している。粉末化して室温で保存でき、将来患者に投与する際は生理食塩水に溶かしてネブライザーで霧状にし、吸入してもらう。論文は米科学アカデミー紀要電子版に掲載される。
ウイルスはとげのようなスパイクたんぱく質をヒトの細胞表面にある受容体たんぱく質「ACE2」に結合させて侵入、感染する。スパイクたんぱく質の結合面に薬剤を入れ込めば結合を阻害できるが、結合面はほぼ平らであるため、ピンポイントで薬剤を入れ込むくぼみがない。
そこで藤吉特別栄誉教授や中村駿・同大助教らは、クライオ電子顕微鏡などで結合面の立体構造を精密に解析し、結合面にぴったりと面状に接着するような形のペプチドを設計、合成した。スパイクたんぱく質は変異してもACE2に結合する主鎖(骨格)は変わらないため、この主鎖に合わせたペプチドなら、原理的にはどんな変異株にも対応できる。
インフルエンザウイルスの場合も「ヘマグルチニン」と呼ばれるスパイクたんぱく質があるため、同様の方法で結合して感染を防ぐペプチドの開発に取り組んでいるという。