新シーズン開幕前企画!数字で読み取く2024年MotoGPライダーとメーカーの色。復活にかけた日本メーカーの高い完走率

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2025年01月23日 13:50  AUTOSPORT web

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2024MotoGP:第20戦ソリダリティGPのスタートシーン
 ロードレース世界選手権のMotoGPクラスは続々と体制発表を行いカラーリングなどをお披露目しており、公式テストも近づき開幕が待ち遠しくなってきた。シーズンが始まる前に2024年の振り返りとして、ちょっとした企画をMotoGP好きな読者の方々にお届けしている。1本目では『脅威の11勝を挙げたバニャイアの敗因とは。数字で読み解くマルティンが王者に輝いたワケ』をお届けしたが、今回はMotoGPクラスのライダーたちにおける完走率のデータを基にシーズンを振り返るとともに、2025年のちょっとした予想も交えてお届けする。

 いきなりだが、まずは下記の完走率をまとめた表をご覧いただきたい。

ゼッケンライダースプリント決勝1フランセスコ・バニャイア75%85%5ヨハン・ザルコ70%90%10ルカ・マリーニ90%85%12マーベリック・ビニャーレス90%85%20ファビオ・クアルタラロ95%90%21フランコ・モルビデリ90%75%23エネア・バスティアニーニ90%95%25ラウル・フェルナンデス95%75%30中上貴晶90%85%31ペドロ・アコスタ80%75%33ブラッド・ビンダー75%90%36ジョアン・ミル70%45%37アウグスト・フェルナンデス85%65%41アレイシ・エスパルガロ75%75%42アレックス・リンス70%70%43ジャック・ミラー95%75%49ファビオ・ディ・ジャンアントニオ65%75%72マルコ・ベゼッチ75%85%73アレックス・マルケス90%80%88ミゲール・オリベイラ65%60%89ホルヘ・マルティン95%90%93マルク・マルケス85%90%
 2023年シーズンはMotoGPクラスに初めてスプリントレースが導入された年で怪我人が続出し、フル参戦ライダーが一度も揃ってレースをすることなくシーズンが終了した。しかし、2024年はスプリント導入2年目ということもあってか、怪我を負ったり欠場するライダーは非常に少なかった。ただ、スプリントと決勝の両方においてリタイアは相次ぎ、完走率100%を記録するライダーはいなかった。

 まず、スプリントにおいて注目したいのは、フル参戦ライダー計22人の完走率が60%を超えているということ。決勝の約半分の周回数で争われる短期決戦だが、レース距離が短い分バトルも非常に凝縮しているため、波乱な展開も多い。ポイントこそ約半分の付与となるが、ホルヘ・マルティンがチャンピオン獲得に向けても差をつけたスプリントはライダーにとっても重要なものとなる。

 そんなスプリントで全員の完走率が60%を超えていることは、さすが最高峰のMotoGPクラスに参戦するライダーだと感じる。王者マルティンは完走率95%をマークしているが、ラウル・フェルナンデス、ジャック・ミラー、ファビオ・クアルタラロも同率で並んでいる。また、90%を見てみると、エネア・バスティアニーニやマーベリック・ビニャーレス、ホンダ勢の中上貴晶とルカ・マリーニの姿も。

 また、惜しくもタイトル防衛とはならなかったが、ランキング2位のフランセスコ・バニャイアは完走率75%にとどまっている。さらにホンダ、ヤマハ勢で見てみると、ヨハン・ザルコとジョアン・ミル、アレックス・リンスの完走率が比較的高い70%だが、全体で見ると少々低いことにも目がいく。

■一強のドゥカティが誇る完走率
 続いて決勝に目を向けると、一番完走率が高かったのは王者争いを繰り広げたマルティンでもバニャイアでもなくバスティアニーニだった。彼は今年のレースにおいて終盤の追い上げが印象的であり、リタイアは第15戦インドネシアGPのみの一度、ポイント獲得を逃したのは第6戦カタルーニャGPのみと圧倒的だ。ただ、この完走率を持ってしてもランキングは4位で首位マルティンとは122ポイントも差があるというのは、チャンピオン争いがいかに熾烈であったかがわかる。

 王者マルティンは、スプリントに次いで決勝も完走率は90%と非常に安定していることがわかるが、圧倒的な勝率を誇っていたバニャイアの完走率は85%と王者獲得の勝敗はここにもあったことがわかる。また、ランキング3位のマルク・マルケスはマルティンと同率の90%であり、前年度は転倒も目立っていたが、ドゥカティに移籍して1年目はやや安定していることも見て取れる。

 ただ、ドルナが発表した2024年における転倒回数は24回と、MotoGPクラスでは2番目に多かったようだ。そんなマルク・マルケスは2025年からドゥカティのワークスチームに加入しバニャイとともに戦うことになる。すでにタイトル争いへの自信も示しており、まさに勢いある強豪チームとなり、引き続きチャンピオン争いでも脅かす存在となることは間違いだろう。

 同じくドゥカティ勢は完走率には少々ばらつきがあるものの、スプリントと決勝においてどのライダーも完走率は60%越え。参戦台数が多いこともあるが、コンストラクターズにおいては計722ポイントと、2位のKTMと395ポイントもの差があり、強さは圧倒的でありまさに一強と言える。一同揃って60%越えの完走率を誇るだけでなく、それを勝利や入賞に繋げられており、ドゥカティ勢の強さがデータからも読み取れる。

 ただ、完走率で見るとドゥカティ勢を上回るライダーも多い。完走率90%のライダーを他にも見てみると、ブラッド・ビンダーの名前がある。KTMではミラーがスプリントで高い完走率をマークしていたが、ビンダーは決勝に強くランキングも5位で終えているため、獲得ポイント数が多いことがわかる。ミラーは2025年にヤマハのサテライトチームに移籍がすでに決まっているが、レッドブルKTMファクトリー・レーシングがビンダーを継続起用する理由はこのあたりも関係しているのかもしれない。

 同じくKTM勢で見ると、2024年における唯一のルーキーであったペドロ・アコスタは決勝における完走率はミラーと同様の75%だった。スプリントにおいては完走率が80%と劣っているものの、新鋭ながらもポールポジションを獲得したりランキング5位で終えた。MotoGPクラス昇格1年目における転倒回数は28回と最多ではあったが、躍進した姿を見せていただけに今後の成長も期待できる若手ライダーだ。そんな彼の活躍が、レッドブルKTMファクトリー・レーシングへの昇格に繋がったと言えるのではないだろうか。

 また、KTMは2025年からファクトリーチームとしてレッドブルKTMテック3が新たに加わる。高い完走率を誇るバスティアニーニに加え、マーベリック・ビニャーレスが参戦する。ビニャーレスは2024年までアプリリア・レーシングで戦っていたが、スプリントと決勝ともに完走率は80%越え。また、ビニャーレスはタイトルを争ったマルティンとバニャイアに次いで予選Q2進出率も100%を誇っている。完走だけでなくポイント獲得率も高いふたりのタッグは今からも非常に楽しみであり、新鋭としてチャンピオン争いにも加わる存在となるかもしれない。KTM勢は1月30日にカラーリングがお披露目となるので、こちらも注目したいところだ。

 続いて新たな体制を敷くアプリリア勢だが、こちらも完走率だけで見ると全体的に落ちついていると言える。2024年限りで引退となったアレイシ・エスパルガロはスプリントと決勝ともに75%を記録。サテライトチームのトラックハウスMotoGPチームから参戦したラウル・フェルナンデスとミゲール・オリベイラもともに60%越えであり、コンストラクターズでは302ポイントを稼いだ。

 アプリリアしては、2025年はファクトリーチームに王者マルティンを迎え入れ、2年連続チャンピオン獲得を目指すことになる。バニャイアに加え、マルク・マルケスの加入でより一層体制を強化するドゥカティ・レノボ・チームに挑むこととなり、決して簡単な挑戦ではないと言える。だが、ドゥカティ経験のあるマルティンが加わることで、アプリリアの開発も促進し、タイトル争いも見えてくることになるだろう。

 また、トラックハウスMotoGPチームには日本勢の小椋藍も加入し、ラインアップも注目されている。すでにカラーリングもお披露目されているアプリリア勢、新しいエッセンスが加わることによって、今後のさらなる戦闘力向上およびチャンピオンシップ争いにも加わる存在となってくることを期待したい。ここ数年を見ているとKTMとアプリリア勢が、一番ドゥカティ勢を脅かす存在に近いと言えるのではないだろうか。

■完走率から読み取れる日本メーカーから参戦するライダーの思い
 ドゥカティを脅かす存在に続くべく、必死に再起を図っているヤマハとホンダ勢。コンストラクターズではヤマハが124ポイント、ホンダは75ポイントと全体としてはかなり点差が開く結果となった。ただ、今回の完走率におけるデータを見てみると、彼らの想いも少し読み取ることができると思う。

 完走率90%〜85%のライダーに目を向けると、日本メーカーであるホンダとヤマハのライダーの名前がある。クアルタラロはスプリントと決勝で90%越えと非常に高い完走率を誇っている。ホンダ勢で好調さを見せていたザルコもスプリントこそ70%だが、決勝は90%をマーク。

 低迷が続く日本メーカーだが、ホンダではファクトリーライダーのジョアン・ミルが唯一50%を下回っているのが気がかりだが、中上とマリーニも85%と高い完走率を誇っている。ヤマハではリンスも欠場が相次いだ影響もあるが、それでも70%を記録。日本メーカー勢は2024年シーズンからコンセッション(優遇措置)の対象であり、中盤から終盤にかけて下位争いから少しずつ脱却している様子も垣間見えた。

 再起を図るためにテストを重ねること、新パーツやエンジン等の開発やパフォーマンスの向上も重要だが、まずは各サーキットでより多くのデータを収集するために完走に繋げることがとても重要になってくる。より良く少しでも速く、上位争いに加われるように復活に向けた彼らの意思が、高い完走率に繋がっているのではないだろうか。

 もちろん完走率がすべてではなく、チャンピオンシップやコンストラクターズを争う上では入賞してポイント獲得に繋げることも必要である。ヤマハとホンダはそこに結びつける戦闘力をまだ取り戻せていない状況にあるが、引き続き2025年もこの高い完走率で得たデータを基に、さらにコンセッション(優遇措置)も利用して上位争いに加われる姿を見られことに注視していきたいところだ。

 ヤマハは3年ぶりにサテライトチームが復活し4台体制へ強化され、KTMからミラーとアプリリアからオリベイラを迎え入れる。台数が増えることで、より多くのデータを収集し共有することができ、他メーカー経験のあるライダーのノウハウも活かすことで、より開発を促進できるだろう。ホンダはルーキーのソムキャット・チャントラ以外の3名に変わりはないが、アプリリアからアレイシ・エスパルガロをテストライダーに、ホンダで経験と知識が豊富な中上を開発ライダーに任命。両メーカーともより一層のパフォーマンス向上が見込めそうであり、変革を臨める体制を敷いている。

 また、既報のとおりMotoGPクラスは2027年の850cc化に先立ち、2025年から2年間はエンジン開発が凍結されることが決まっている。コンセッションのランクDであるヤマハとホンダ以外はエンジンの開発が許可されないため、日本メーカーはこの2年間が再起のチャンスおよび勝負時と言える。かつてのアプリリアもそうであったように、海外メーカーに牙を剥けるような強さを取り戻してほしいところだ。

 今回は完走率のみにフォーカスしてみたが、データからはまさに一強と言われるドゥカティの強み、それを脅かす存在となるKTMとアプリリア勢の安定さ、ヤマハとホンダの再起を図るための強い想いやさまざまなことが読み取れた。2025年はチームだけでなく、メーカーを変えるライダーも大勢いる。2024年は全体的に完走率が高かったが、ここからどのような変化や影響が生まれるのか、また1年をかけてじっくりと見守っていきたい。

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