フォーミュラE、レース中の急速充電を遂に導入へ。次戦からの新ルール“ピットブースト”の概要が公開

　1月23日にABB FIAフォーミュラE世界選手権は、かねてより2024／2025年“シーズン11”内の導入を予定していたレース中の急速充電システム“ピットブースト”の概要を公式に説明した。

　今季シーズン11より新型マシンGEN3 EVOを導入しているフォーミュラEは、2月14～15日にサウジアラビアで開催する第3／4戦ジェッダE-Prixにて、決勝レース中の急速充電技術を取り入れ、各ドライバーへそれぞれ1度のピットインを義務化する規則を採用する。

■ピットブースト導入で戦略はさらに複雑に

　このピットブーストは、前世代マシンのGEN3導入時から実践テストを重ねてきたもので、決勝レース中に600kWの超高速充電を30秒間行うことで10パーセント（3.85kWh）のエネルギー供給を図るシステムだ。

　これから実際の決勝レースで見られるようになるこのピットブーストについては、レースごとに適用の有無が分かれることになる予定だが、該当するレースにおいてチームは、事前に（各レースの21日前）伝えられた周回数のうちにクルマをピットへ呼び戻し、30秒間の急速充電を実施することになる。

　この際、給電に関連する作業を行うことができるのはふたりのみで、そこにロリポップマンが加わる。なお、フォーミュラEに参戦しているチームは全エントラントが2台体制を敷いているが、2台同時にピットインすることは規則で禁じられるという。

　そして、以前まではこのピットブーストをアタックモードのアクティベーションとして取り入れるのではという噂もあったが、今回明かされた情報には『既存のアタックモードとは関係なく実行される』と明記された。

　そのため、チームとドライバーは義務化されている2度のアタックモードの使用タイミングとは別に、ピットブーストのエネルギーメリットとピットストップでポジションを下げるリスクについて検討する必要が生じ、戦略はさらに複雑になることが予想される。

■シリーズ責任者は「ピットブーストは大きな変化をもたらし得る」と自信

　フォーミュラEはピットブーストの導入へ向け、安全性および信頼性、レース強化の可能性を保証するために広範囲にわたるテストとシミュレーションを実施しており、導入時期と方法の制限などについても厳格な規格によって実装を管理しているという。

　今回行われた詳細の発表に際し、フォーミュラEの共同創設者兼最高チャンピオンシップ責任者であるアルベルト・ロンゴ氏は、次のようにコメントを述べている。

「徹底的なテストとシミュレーションのプロセスを経て、この画期的なテクノロジーをついに世界に発表できることを嬉しく思う。これは、当社のシリーズだけでなく、現代のモータースポーツにとってもっとも野心的で影響力のある追加機能のひとつだ」

「ピットブーストは、チームとドライバーの両方に、強いプレッシャーのもとで重要な決定を下すよう要求する。劇的な追い越し、予期せぬ展開、人間の創意工夫の可能性はファンの興奮を高め、フォーミュラEとFIAのイノベーションへの絶え間ない取り組みを示すものとなるだろう」

「レーストラックから実際の道路への技術移転を強化するために生まれ、“レース-トウ-ロード”を掲げているFIAシリーズとして、ピットブーストの導入は一般向け車両とEVパフォーマンスの将来の可能性について、大きな変化をもたらし得るだろう」

　選手権創設から11年目を迎えているフォーミュラE。当初はマシンのバッテリー量に限界があったことからレース中のマシン乗り換えを行っていたが、回生技術の向上によって1台で1レースを走り切ることが可能になった歴史があり、シーズン11では一般向けスーパーチャージャーの2倍以上のパワーを発揮する給電システムを導入するに至った。

　これからは、ダブルヘッダーレースの片方にのみピットブーストのルールを適用するなど、イベントにバリエーションを持たせることにも寄与するとされており、5月の東京大会でも実装されることになるかもしれない。まずは、ピットブースト導入後の緒戦となるジェッダE-Prixの模様を楽しみにしたいところだろう。

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