日銀が追加利上げに踏み切った。これによって日本の政策金利は0.5%になった格好だ。今後も金利上昇が予想されるなか、預金、住宅ローン、投資など「お金の常識」をどう変えていくべきなのか。最新刊『金利で損しない方法、教えてください!人気FPが教える金利上昇時代の「お金の新ルール」』の著者でFP歴35年の深野康彦氏に、「利上げ時代の必須知識」を解説してもらった。
◆知らないと損する「金利」最新事情
振り返れば、’24年は日本経済にとって分岐点になるような年でした。3月には日銀がマイナス金利を解除し、7月には追加利上げを発表。それによって政策金利が0.25%に引き上げられ、株式市場が「令和のブラックマンデー」と呼ばれる大暴落に襲われたのは記憶に新しいと思います。
そして、今回の追加利上げによって政策金利は0.5%へと引き上げられました。これは’95年9月以来、約30年ぶりの金利水準ですから、多くの人にとっては「未体験ゾーン」に突入したことになります。
金利とは経済に大きな影響を及ぼすモノです。しかし、日本人にとって金利は長らく「無視してもいい存在」でした。ゼロ金利、もしくはマイナス金利政策だと、銀行普通預金の金利は0.01%〜0.001%程度。100万円を預けても利息は1年間に10円つくかつかないかという水準ですから、どの銀行に預けようが気にならないのも当然です。恐らく、自分の預金口座の金利がどれくらいか知らない人も多いと思います。
◆これから先は「金利がある世界」へ。マインドセットを変えるべき
しかし、それはもう過去の話だと考えたほうがいいです。
これから先の「金利がある世界」では、今までのお金の常識は通用しなくなると思うべき。預金、保険、投資といったさまざまな金融領域において、一日でも早くマインドセットを変える必要性が出てきます。しかも、年齢は関係なく、どの世代に対しても全方位で影響が出るのです。
なぜなら、金利とはありとあらゆる金融領域に関係するからです。銀行預金や住宅ローンがわかりやすいですが、ほかに株価や保険などあらゆる金融商品やサービスにも徐々に影響が出てきます。
例えば生命保険です。これからの金利上昇局面では、保険会社が掛け金の一部で運用する債券などの利回りが上がり、運用利回りが改善した結果、各種保険の「予定利率」(保険会社が契約者に約束する運用利回り)が引き上げられるからです。
◆日本生命も40年ぶりに予定利率を引き上げた
実際に、日本生命保険は’25年1月から一部の年金保険や終身保険、学資保険などを対象に予定利率を引き上げると発表しています。この予定利率上げは約40年ぶりのこと。金利のある世界の到来によって、我々を取り巻く環境は確実に変わりつつあるのです。
そのように広く影響を及ぼす金利ですが、「そもそも金利とは何か?」と問われれば、私は「お金を貸し借りするときの手数料」だと答えます。そう考えると、金利という存在の本質がわかりやすくなるからです。
例えば、住宅ローンを借りて家を買う際には、借りた人は銀行に金利を支払います。銀行側から見れば、貸し出しているお金に加えて金利を「手数料」として数十年かけて返してもらう。その手数料が銀行の収入になるわけです。
反対に、私たちが「銀行にお金を預ける」というのは、銀行から見たら「私たちからお金を借りている」という状態になります。銀行は集めたお金を原資にしてまた別の人に貸し出し、さらに手数料を得るという「預貸ビジネス」を行っています。ですから、私たちには借りているお金に対して「預金金利」をつけて利息を払ってくれるわけです。
◆金利とはあくまで「貸し借りの手数料」
では、銀行預金は「普通預金」と「定期預金」がありますが、定期預金のほうが利息を高く設定されているのはなぜだと思いますか?
それは、「決められた期間はお金を引き出せない」からです。普通預金の場合、預けた人が引き出しを求めれば銀行はすぐ応じなければいけません。一方、定期預金は急な引き出しに応じない分、銀行としては「長く他の人に貸し出せる資金」が手に入ることになります。だから銀行は「制限を課す分、普通預金よりも高い金利をつけます」と条件をつけているのです。
このように、金利とはあくまで「貸し借りの際の手数料」でしかありません。その構図は日銀の利上げでも同じです。一口に利上げと言っても、実際にはどのようなメカニズムで我々に影響を及ぼすのか、きちんと説明できる人は少ないです。ここで改めて振り返ってみましょう。
◆日銀の利上げがどのように我々に影響を及ぼすのか
まず、日銀が利上げをする際に操作するのは、現状の政策金利の誘導目標である「無担保コール翌日物金利」というもの。これは銀行と銀行が貸し借りをする際の金利を指します。この「無担保コール翌日物金利」が上がると、同時に、主に銀行が企業に短い期間でお金を貸す際の金利である「短期プライムレート」にも影響が出ます。さらに「短期プライムレート」は住宅ローンの変動金利タイプと連動するので、各行が引き上げの動きを見せているんです。
つまり利上げとは、日銀が大元になる「無担保コール翌日物金利」を上げたことによって、連鎖的にほかの金利も上がっていく現象のことです。ある貸し借りの金利が上がれば、それに続く貸し借りの金利も上がる……といった具合に、時間差で徐々に影響が広まります。
◆「政策金利1%」に今から備えておく
物価上昇のように直接的な変化ではなく、間接的に、しかも時間をかけて影響が出てくるので「自分にどんな影響があるのか?」という点が実感しづらいのです。しかし、貸し手と借り手が違うだけで、結局は金利が手数料であることには変わりありません。どんなケースでも「根本的に行われている取引は同じ」と思えばいいのです。
さて、皆さんが気になるのは「金利はどこまで上がるのか?」ということだと思います。日本の政策金利がアメリカのように4〜5%まで上昇するのは難しいでしょうが、私は現時点では「1%は想定しておいたほうがいい」とアドバイスを送ります。
なぜなら、ほかならぬ日銀の審議委員が「’26年度中に1%に」という目標数値を発言しているからです。日銀の動向を長く見てきた私からしても、近年の日銀は以前は考えられないくらい“踏み込んだ発言”をしているように思えます。これまでは金融政策を司る審議委員らは、市場関係者などに言質を取られないようにするのが基本的な考え方でした。しかし、’24年9月には田村直樹審議委員が「’26年度後半までには少なくとも政策金利は1%程度くらいまで引き上げておくことが必要だ」と述べています。
◆お金の常識を変えるべき時が来た
審議委員が具体的な目標数値まで出して発言するのは異例ですし、それだけ本気度が高いと感じられるのです。
だからこそ、近い将来に「政策金利1%の日本」になることを想定して、我々は「お金の常識」を変えていかなくてはいけません。
「お金をどこに預けるのが得になる方法なのか?」
「どんな投資をすればお金を増やしやすいのか?」
「住宅ローンはどうすればいいのか? 変動でいいのか?」
正しい知識を身につけることこそ、金利上昇時代を賢くサバイブする方法なのです。
構成/秋山純一郎(週刊SPA!編集部)
―[短期集中連載 知らないと損する「金利」最新事情]―
【深野康彦】
ファイナンシャルリサーチ代表。大学卒業後、クレジット会社を経て独立系FP会社に入社。その後、1996年に独立し、現在の有限会社ファイナンシャルリサーチは2社目の起業。FP業界歴35年(2024年10月現在)を誇り、そのキャリアを通じて日本経済の浮沈を見守ってきた。メディア出演やセミナーを通じて、資産運用や住宅ローン、生命保険、税金、年金など幅広く「お金の知識」を発信している