初めて聴いたときは耳を疑った。カーペンターズの「Close To You(邦題:遥かなる影)」をTori Holub(トリ・ホルブ)がカバーした動画だ。彼女の歌声は、まさに故・カレン・カーペンターそのもの。「カレンが生き返ったのか?」と思うほどだ。ボーカルだけでなく、バンドもコーラスも、きわめて完成度が高い。「オリジナルの音源を流しながら口パクしているだけじゃないのか?」と疑うほどだ。注意深く耳を澄ませば、わずかにオリジナルとニュアンスが異なる部分がある。そのおかげで、口パクではないことが、かろうじて分かる程度だ。こうも完璧に仕上げられると、なぜか涙が出てくる。すごいとしか言いようがない。カバーとかコピーとかを超えた、別の次元の何かに達しているように思える。カーペンターズを知っているなら、ファンだった人も、そうでなかった人も、是非聴いてみてほしい。
もう一つ、紹介したいカバー曲がある。「10cc - I'm Not In Love 完全再現レコーディング」だ。70年代に結成されたイギリスのバンド、10ccの代表曲の一つを「完全再現」。複数のミュージシャンと録音エンジニアが集まって結成した「スタジオ・レダ×ササニシカ with フレンズ」なる制作集団がつくりあげた。オリジナル版の最大の特徴は「マルチトラック・ボイス」と言われるコーラスだ。人の声がまるで楽器のように整然と奏でられている。多重録音したコーラスの録音テープをループ再生しながら、ミキシングコンソールのフェーダーやチャンネルのON/OFFスイッチを駆使して「演奏」することで実現させた。きわめて実験的な作品でありつつも、幻想的で美しい楽曲に仕上げたことで「録音芸術の金字塔」とも呼ばれている。