ルッキズムの観点からは適切ではないことは十分理解したうえでだが、橋本環奈の最大の武器、それはその「ルックス」だと思う。
橋本環奈、ハシカンにはものすごく華がある。それは多くの人に異論はないだろう。
そもそもが、地方のグループアイドルのメンバーとして活動していたなかで撮られたいわゆる「奇跡の1枚」と呼ばれる1枚のライブ写真がきっかけとなり「1000年に1人の逸材」として大きな注目を集めたことからも、その突出具合は明らかだ。
◆コメディエンヌとして才能を開花させた橋本環奈
2015年3月公開の映画『暗殺教室』で橋本が演じたのは「自立思考固定砲台(律)」という、人工知能搭載の新型兵器というバーチャルな存在。女優としてまだ未知数でありながら存在感を放つ彼女にとってぴったりな活かし方だったように思う。
多くの人に「女優・橋本環奈」の存在感を示したのがアイドルグループ卒業後の17年7月に公開された映画『銀魂』での神楽役だろう。
ところどころに挟まれるキレ顔や変顔は、本来の顔立ちからのギャップが見事に活かされたもので、コメディエンヌとしての魅力が大きく開花した作品だ。
そして、その後も映画『斉木楠雄のΨ難』やテレビドラマ『今日から俺は!!』と、『銀魂』の監督でもあった福田雄一監督作品に次々出演、福田作品との相性のよさもあいまって、名コメディエンヌとしての実力や実績を着々と積み重ねていった。
◆『おむすび』での橋本環奈はなぜ不評なのか
そんななかでの現在放送中のNHK連続テレビ小説『おむすび』である。連日メディアやSNS上では作品への不評が絶えないことを知っている人は少なくないだろう。
ヒロインである橋本の役どころも批判されることが多く、ときにはそれが演技にまでおよぶ風当たりの強さを連日感じている。
『おむすび』は、「平成元年生まれのヒロインが、栄養士として、人の心と未来を結んでいく“平成青春グラフィティ”」(番組公式サイトより)だが、時折コメディタッチな演出も盛り込まれ、コメディエンヌ・橋本環奈の魅力がおおいに発揮できると期待する向きも大きかった。
しかしこの現時点での不評ぶり。橋本も、時には妄想しながらニヤけてみたりするなど「顔芸」を披露したりするが、どうにもこれまでの魅力が発揮できていないままここまできているようにしか見えない。
なぜなのか。
もちろん『おむすび』は福田雄一作品ではなく、それらの作品における橋本環奈を期待するのは間違っている。
しかし、『おむすび』の脚本を担当する根本ノンジ氏は、あるインタビューで「コメディエンヌぶりも素晴らしいと思います」「コメディの感覚に優れた女優さんだと思います」と、コメディエンヌ・橋本環奈を絶賛していることからも、本来の狙いはそこにあったと思う。
◆「ギャル魂を秘めた栄養士」では引き出しきれない魅力
『おむすび』は、橋本の過密なスケジュールの中から時間をなんとか捻出しのぞんだ作品であるということは明かされている。
作品中でも前半の目のクマのように見える雰囲気を心配する視聴者も多かった。求められているものはわかる。しかし、実際に疲れていたり、本来のテンションでのぞめないことが重なっていたのかもしれない。
そして、たとえば『銀魂』の神楽や『今日から俺は!!』の京子は、原作の通り顔立ちの綺麗なはずのヒロインが突如キレたりするなどといった極端なギャップ感も魅力のひとつだった。
そのギャップ感が橋本環奈のルックスと顔芸の振り幅によって魅力を何倍にも増幅させていった。
いっぽう『おむすび』のヒロイン米田結は、ギャル魂を秘めた栄養士ではあるものの、ごくごく普通の女の子ではある。
しかも朝ドラという枠の中での作品だ。ごくごく普通の女の子が急に「なめとんか、ゴラァ!」とキレたりする極端な顔芸はなかなかできないであろうこともわかる。
脚本や演出の都合もあるだろうが、結果的にへの字口や眉をひそめる、そしてニヤけるなど、極端でなく微妙な顔芸演技になってしまうことも仕方ないところだろう。
演技プランの参考になるような原作ナシのオリジナル作品でもある。何かあったらキレまくるギャルという振り切ったキャラ設定にするなどすればあるいはという気もするが、それは勝手な妄想だ。
ギャルとしてパラパラを踊るハシカン、育児をがんばるママとしてのハシカンなどなど、かわいい橋本環奈、今まで見たことのない橋本環奈という部分は見られているものの、見せたかったコメディエンヌとしての橋本環奈の魅力は現時点まで引き出せないままきてしまった気がする(本筋から少しズレるが、お酒好きとしてよく知られるだけあってか、作中でビールや焼酎を飲む姿はとてもナチュラルで楽しそうで、魅力的に映る気がする)。
◆「さすがハシカン!」といった“華”を感じられるか
もっとも、冒頭に記したとおり、橋本環奈が持つ、そこにいれば「絵」になるような存在感、本来の「華」の部分は健在のはずだ。
それは昨年大晦日の『NHK紅白歌合戦』でも強く感じられ、豪華な出場歌手たちを前に華やかな衣装に身を包み、進行する姿は連日サゲられている女優と同一人物に見えない見事な姿だった。
『おむすび』の結は、脚本家根本氏が期待を寄せた「コメディエンヌぶり」を発揮できぬまま3月末まで進んでしまうのか。または、終盤に「さすがハシカン!」といった“華”を感じさせてくれるのか。
それともギャルと栄養士というキャラのもと、全く新しい橋本環奈がこの先待っているかもしれない。
とかいうものの、やっぱりあのハシカンを、朝ドラの枠で見たい!(見たかった!)それが本音ではある。
『おむすび』の放送は、残りまだ3分の1も残されている。この先どんな橋本環奈が見られるか、見守っていきたい。
<文・太田サトル>
【太田サトル】
ライター・編集・インタビュアー・アイドルウォッチャー(男女とも)。ウェブや雑誌などでエンタメ系記事やインタビューなどを主に執筆。