峰不二子・オスカルの人気声優に聞く「アニメ現場は舞台よりも“働き方”で遅れていますか?」

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2025年01月30日 16:00  女子SPA!

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沢城みゆきさん
 池田理代子さん原作による『ベルサイユのばら』といえば、宝塚歌劇団によるミュージカルや、テレビアニメ版でも人気を博し、累計発行部数も2000万部を突破。

 そんな少女漫画の金字塔が、完全新作により劇場アニメとして上映されます。

 女性に生まれながらも将軍家の跡取りになるべく“男性”として育てられた、男装の麗人オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ(以下、オスカル)役を務めた、人気声優の沢城みゆきさん(39歳)に話を聞きました。

◆オスカルという大役にも「ノープレッシャーです!」

――『ベルサイユのばら』のオスカルといえば、非常に有名かつファンの多いキャラクターです。決まった時にプレッシャーはありませんでしたか?

沢城みゆきさん(以下、沢城):ノープレッシャーです。

――おお!

沢城:というのも、「ルパン三世」シリーズの峰不二子をやらせていただくことになったとき、大変なプレッシャーを感じたんです。(※沢城さんは2011年の『ルパン三世 血の刻印』から三代目の声優を務める)

 でも誰かからのプレッシャーを感じてしまうことって、全然自分の力になってくれないし、それは私の課題ではありません。

 役をひとつでも多く理解していくことが課題。それもワクワクしながらその人物を知っていくほうが、映像に乗せたときにイキイキとしたものになります。

 十数年ほど前の、プレッシャーで素直に楽しめなかった経験が生きていると思います。

――そうなんですね。

沢城:宝塚歌劇団も「ルパン三世」を演目にされましたが、私からすると信じられないくらいの伸びやかさで演じられているようにみえて、これが必要だったんだと思いました。

 なので今回はまずオスカルという人物をひとつひとつ知っていくことへと、すぐに思考がシフトしました。……という意味で、ノープレッシャーです(苦笑)。

◆ニュース解禁時、自分の誕生日よりもLINEが来た

――もともと『ベルサイユのばら』やオスカルへの印象は。

沢城:宝塚のトップの方がオスカルと(マリー・)アントワネットの衣装を着ているポスターの、漠然としたイメージでした。最近だとLINEのスタンプの印象もありました。

 オーディションのお話が来てから、テレビアニメ版を拝見して、原作を拝読していきました。なのでしっかりと把握したのはオーディションがきっかけです。

――では発表になったとき、改めてファンの多さや熱さに驚かれたのでは。

沢城:たしかに自分の誕生日よりも連絡が来た気がします(笑)。タカラジェンヌの友達や、小学校のときの友達からも来たり。

 私にとっては、大作でもオリジナル作品でも向き合う姿勢に変わりはないのですが、こんなに反響のある作品に参加させていただくのだなとは思いました。

◆恋愛感情を抱くフェルゼンを前に、より男らしく

――沢城さんだからこそのオスカルとして、どんなところを目指しましたか?

沢城:原作を読んで、こんなにやんちゃなキャラクターなんだと驚きました。

 彫刻のように美しい(テレビアニメ版の)田島令子さんのオスカルもステキで大好きですが、今回の劇場アニメに関しては、「池田先生の原作の中にあるオスカルを、できるだけ映像の中に」というスローガンがありました。

 なので口が悪かったり、無鉄砲な感じのある、全然立派じゃない、イキイキと年相応なオスカルの雰囲気を入れ込んで、原作の伸びやかなオスカルのエッセンスを少しでも感じていただけたらと思いました。

――オスカルは男装の麗人ですが、声の変化で気を付けたところはありますか?

沢城:(ハンス・アクセル・フォン・)フェルゼン(加藤和樹)に対するオスカルの初めての恋と、いつの間にか芽生えていたアンドレ(・クランディエ、豊永利行)への愛の差を丁寧に意識しながら演じたので、シーンごとに音色が変わって聞こえるかなと思います。

 それから、アンドレへの声を聞くと、どこかで気を許しているのか少し女性っぽく、フェルゼンと対峙するときは、逆にものすごく男性的で対等な立場でいようと力が入った感じがあります。

――フェルゼンに対したときのほうが男性的なんですね。

沢城:「お前とは友であって」という説明を、ずっと自分にしているように聞こえるというか。

 音色の差を意識していたわけではありませんが、今回、アンドレ役の豊永さんと一緒にアフレコできたので、相手にも助けられながら移ろっていけたかなと思います。

◆表面に見える愛だけでなく、根幹にあるのはステルスの愛

――『ベルサイユのばら』は愛の物語でもあります。

沢城:アンドレへの愛やフェルゼンへの恋、アントワネット(平野綾)への愛情などが描かれていますが、私はその後ろにある“ステルスの愛”が、実は役の根幹に関わっていると感じました。

――ステルスの愛ですか?

沢城:母親から受けていた愛、父親から期待されていた愛、それから一番近くにいた乳母のマロン(・グラッセ・モンブラン、田中真弓)から受けていた愛情が、おそらく他者を理解するベースとして彼女を作っていったのだと思います。

 アントワネットにしても、フェルゼンとの恋が大きく描かれていますが、愛を知ったきっかけは彼女の子どもだったのかなと。

 立場としてもとても悲しい人だったと思うのですが、生まれたての子どもを抱いたときの子どもへの愛情が、きっと晩年のアントワネットを支えていたんだろうなと思います。

◆声優界ももっとのびのび力を発揮できる現場に

――声優というお仕事についても少し聞かせてください。映画やドラマの制作現場では、近年、俳優さんたちの働き方を見直そうという動きが高まっていると聞きます。男性社会における女性たちの働き方に関してもしかり。

沢城:舞台のほうの友人の話を聞いていると、今の演劇の現場は、そうした部分をとてもクリーンにしていこうという動きが大きいですよね。

 監督がいて、脚本家がいて、役者がいるのですが、クリエイティブな作業をするうえでは、権力の均衡が取れている状況を作ろうと取り組んでいる。

「同じクリエイティブな作業に関わる人間として、その場にいる全員が同等に存在しているんだという意識を持っていこう」といった動きがすごく大きいと思います。

 私もそこに賛同しますし、……自分の周りもそうなっていったらいいなと思います。

――芝居の現場よりは遅れを取っている?

沢城:……なんであれ“その現場による”とは思いますが、そう感じる部分はあります。最初から何でもかんでも自分の意見が通る場所が欲しいということではなく、もっと伸びやかに脇役や年下とか関係なく、全員が等しくクリエイティブな作業に参加しているとの意識を持てると、単純に作品にとってプラスなのではと思います。

――ご自身がキャリアを重ねてきたから、より感じることでもありますか?

沢城:そうですね。自分がいわゆる中堅に入ってきたこともあって、若い方たちにもなるべく縮こまって仕事をしてほしくないと感じるようになっています。

 なぜなら、下手だけど下手なりの全実力を出して帰りたいと、10代の頃思っていたから(苦笑)。現場で緊張してしまうと呼吸が浅くなるし、体が固まると伸びやかな声が出なくなる。

 瑣末(さまつ)なことは気にせず作品に集中できたらいいよねと思います。

◆足元に花びらが散った!究極の可憐な先輩とは

――ちなみに、声優のお仕事に人間力は関係しますか?

沢城:それは仕事を問わずそうだと思います。

――では最後に。技術も素晴らしいのだけれど、とにかくこの人は「人たらし!」とパッと浮かんだ先輩を教えてください。

沢城:池田昌子さん(『エースをねらえ!』お蝶夫人、『銀河鉄道999』メーテル、オードリー・ヘプバーンの吹き替えなど)でしょう……!

 お名前をあげるのも恐縮ですが、『宇宙兄弟』と言う作品でご一緒させていただく機会があったとき、扉の段差をぴょんと飛び越えるだけだったのに、足元に花びらが散ったのを見たことがあります……!

 人たらしとはちょっと違うかもしれませんが、可憐なんです。そうだ、ひとつ、自慢させてください。

――はい、ぜひ。

沢城:以前、池田さんがすごくステキなブローチを付けてらっしゃったことがあって、「とってもステキなブローチですね」とお話したことがありました。

 そしたら次にお会いしたときに、「みゆきちゃんがこの間褒めてくださったのって、このブローチだったかしら。みゆきちゃんに似合うと思うわ」と言って、そのブローチをくださったんです! 私の家宝になっています。

<取材・文・撮影/望月ふみ>

© 池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
劇場アニメ『ベルサイユのばら』は1月31日より全国ロードショー

【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi

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