「本当はアイドルになりたかった」バイプレイヤー升毅、デビュー50周年への思いと意外な素顔

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2025年02月02日 07:10  週刊女性PRIME

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升毅 撮影/近藤陽介

 多くのドラマや映画だけでなく、舞台でもさまざまな役で作品を盛り上げてきた名バイプレーヤー。デビュー50周年という節目の年を迎え、改めてこれまでの半生を振り返る―。

僕も時代にあまりついていけないタイプ」

本当に早いですね……。あっという間に半世紀が過ぎていた。この道に入った当初は、50年先のことなんてまったく想像すらしていませんでした。でもふと気づけば50年がたっていて、70の年になっていました(笑)

 そう話すのは、俳優の升毅(69)。今年で俳優生活50周年を迎え、感慨を口にする。

 その記念すべき年の幕開けを飾るのは、舞台『殿様と私』。名作『王様と私』を下敷きにしたウェルメイド作品で、マキノノゾミが脚本を手がけ、第15回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞するなど、高い評価を博してきた注目作だ。

マキノ君とはお互い関西の劇団で頑張っていたころからの古い知り合いで、彼らしい楽しい作品だなって思いましたね。とりあえず腕を組んでドンとしていれば殿様っぽくなるということで、役作りはまずそこからでしょうか(笑)。世間知らずの偉い人に見えればいいなと思っていて……

 物語の舞台は明治19年の東京。升が演じるのは主人公の白河義晃子爵で、時代の急激な西洋化になじめずにいる頭の固い殿様として描かれる。

「最初はなんて頑固な殿様なんだろう、そんなに時代に抗あらがわなくてもいいじゃないか、と思っていたんですけど。でもよく考えたら、自分にもすごく当てはまっている。

 まったく別人格を演じるものだと思っていたけど、実はすごく共感できる人物だった。というのも、僕も時代にあまりついていけないタイプ。デジタルは得意ではなくて、ガラケーからなんとかスマホにはしたけれど、いまだにiPhone8を使っていますから(笑)

 稽古は1月からスタート。演出のマキノや共演者と共に公演地・松本市に泊まり込みで稽古をし、本番に臨む。

アンナを演じる水夏希さんはじめ、共演者のみなさん、初めましての方ばかり。僕としてはこの出会いを大切にしていきたいという気持ちがあって。楽しみと不安があるけれど、いずれにせよ僕にとっては50年目を迎える非常に大きな節目になる。だからすごく新鮮です

 20歳で俳優デビュー。役者を目指したきっかけはと尋ねると、何とも意外な答えが返ってきた。

動機はかなりミーハーで、本当はアイドルになりたいと思っていたんです(笑)

 子どものころは目立ちたがり屋で、小学校では演劇部に入り舞台にも立った。アイドルへの憧れが芽生えたのは、中学生のときのこと。

自分で言うのもなんですけど、中学生のとき、すごくモテたんです。休み時間にベランダに出れば、下からキャーッて女の子たちの歓声が聞こえてくる。家に帰って2階から外を見ると、下から女の子たちが窓を見上げていたりする。“うわ、なんだこれ、めっちゃモテてる!”と思って(笑)

「アイドルを選ばなかっただけエラいなと(笑)」

 当時は郷ひろみ、西城秀樹さん、野口五郎が新御三家と呼ばれ、アイドルとして絶大な人気を博していた時代。3人とは同い年で、彼らの活躍に漠然とした憧憬を抱いていたという。

高校3年生になって、卒業後の進路を決めなければいけなくなったとき、大学へ行って普通に就職をするのは何か違うと思った。そうじゃない人生を選びたいと考えて、“何だろう、アイドル?”と思ったけれど、“いや、違う、違う”と考え直して。“じゃあ、俳優かな”という感じのノリでした。勘違いして、アイドルを選ばなかっただけエラいなと(笑)

 高校卒業後、NHK大阪放送劇団付属研究所に入所。役者の道を歩み始める。

 デビュー後は瞬く間にスターになり、世間の大きな注目を浴びる。そんな姿を夢見ていたが、現実は甘くない。大阪と東京の隔たりもあった。

20代のころ大阪制作の朝ドラにそれなりの役で出たけれど、一切注目されなかった。やっぱり東京じゃないとダメなんですよね。でも劇団『MOTHER』を旗揚げすると、地元ではそれなりに知られるようになって。関西のバラエティー番組や情報番組の司会など、いろいろやらせてもらえるようになりました

 転機は40歳のとき。東京から声がかかり、ドラマ『沙粧妙子-最後の事件-』(フジテレビ系)に出演が決定。主演の浅野温子の恋人で、快楽殺人者役を演じることに。

初めての東京のドラマで、しかも大きい仕事だったので、やっぱりすごく緊張しました。自分が通用するかどうかわからなかった。そんなとき現場で突然“セリフの変更があります”と言われて、1行のセリフが5行に増えたんです。“東京は怖いな、これが東京の洗礼なのか!”と思いましたね。でも周りは“あんた誰?”みたいな空気がすごかったから、なんとかこれを乗り越えなければいけないと思って……

 本番で一発OKを出すと、その瞬間、現場の空気が変わった。東京で認められた瞬間だった。

「あのとき、その追加のセリフがなければ、ずっと居心地が悪いままだったかもしれません(笑)」

 と振り返る。

以降、東京に本格進出。シリアスからコミカルまで確かな技量で幅広くこなし、数々の作品でバイプレーヤーとして存在感を発揮してきた。名バイプレーヤーであるために、常に心がけていることがあるという。

「バイプレーヤーとして参加しているときは、座長のしたいことを酌みながら、うまく進めていくようにする。その現場にとって、より良いであろう自分の居方があると思っていて。そのために、常に座長の動向を注視するようにしています。

 その人が何をしようとしているのか、何をしたいのか、何を考えているのか。発した言葉に対して、どういう意味なのか考える。それぞれの現場の進め方があるので、空気を見ている感じでしょうか

 作品のバイプレーヤーとして、座長のサポートに徹していく。一方、自身が座長を務める場合はまた違う。

どちらかというと舞台で座長をするほうが慣れてはいて。誰か座長がいると、やっぱり座組の空気もその人次第になるじゃないですか。でも自分が座長のときはあまり周りに気を使わせたくないし、気を使わせないやり方をこれまでの経験で学んできた。だから自分が座長でいるときのほうがそこは楽ではありますね

常に新しいことにチャレンジしていきたい」

 現場ではムードメーカーで、共演者を誘って飲みに繰り出すこともたびたびだ。そこはバイプレーヤーでも座長でも変わることなく、率先して役者仲間と交流を持つ。旅公演で地方へ行けば、現地の人間とも気安く打ち解ける。

「影響を受けたのは俳優の小野武彦さん。前に地方の仕事で小野さんとご一緒したとき、“飯食いに行こう!”と誘ってくださったことがあって、以前仕事で来たとき、なじみになった店があるからと。

 そのとき地元のお店の方々が“お帰りなさい!”と言って、ものすごく歓迎してくれたんです。そうやって分け隔てなくいろいろな人と関係性を築ける俳優さんってすごいなと、自分も小野さんを見習わなきゃと思うようになりました

 今では日本各地に「お帰りなさい!」と言われる店ができた。その数、全国で10か所以上、と話す。

松本もすごくいいところで、おいしいお店がいっぱいある。この公演期間中に、“お帰りなさい!”と言ってもらえるお店ができたらなと思っています(笑)

 主演舞台『殿様と私』は2月に松本、その後、大阪を巡る。本作で始まる50年の大きな節目、どんな思いで過ごすのか。

「“50周年おめでとう!”ではなく、その次の60年に向けた年になればいいなと思っていて。殿様同様、自分もいろいろ時代にはついていけないところはあるけれど、やっぱり役者として常に新しいことにチャレンジしていきたいという気持ちが強くある。

 そこで新たに得たものを、この先につなげていきたい。また次の10年に向かって進んでいく、その一歩目となる大切な年にできたらなと思っています

舞台『殿様と私』

2月13日〜 2月16日、まつもと市民芸術館小ホール。2月28日〜 3月2日、近鉄アート館にて。詳細はまつもと市民芸術館チケットセンター

取材・文/小野寺悦子

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