2020年以降の出演作の一部を挙げるだけでも、ドラマ『真犯人フラグ』(日本テレビ系)や『リバーサルオーケストラ』(同)、『きのう何食べた? season2』(テレビ東京系)などの話題作に次々と出演してきている坂東龍汰さん(27歳)。
そして、柳楽優弥さんが主演を務めた昨年10月期の『ライオンの隠れ家』(TBS系)では、自閉スペクトラム症の青年“みっくん”こと小森美路人(こもり・みちと)を演じて大評判を集めました。
そんな坂東さんの初の単独主演映画となった『君の忘れ方』の公開が始まりました。
映画のことはもちろん、実は『君の忘れ方』や『ライオンの隠れ家』に通じていたという、坂東さんが高校時代に制作したクレイアニメについての話などを聞きました。
◆単独主演映画に家族も「ええやん!」と祝福
――『君の忘れ方』は初の単独主演ですが、ニュース解禁されたのは1年以上前。目にしたときに「先!」と思ったのをよく覚えています。
坂東龍汰さん(以下、坂東):思い出しました。そうでしたね。
岐阜での撮影中の解禁だったんです。実家の家族から連絡が来ました。「おお、主演やるんや! ええやん、ええやん」って。
「繊細な作品で大変なんだよ」と話したら、父から「煮詰まらないように、ちゃんと息抜きしながら頑張って」と言ってもらいました。
――「繊細な作品」と言われたとおり、坂東さんが演じるのは、結婚予定だった恋人・美紀(西野七瀬)を、交通事故で失った主人公・昴。彼が東京から故郷へと帰り、出会いをきかっけに前へと進もうとしていく物語です。
坂東:僕には経験したことがないことなので、大変な役だなと。知らない感情と向き合わなければいけない。作道(雄)監督のオリジナル脚本なので、監督とちゃんと話し合って、しっかり作っていかなきゃと思いました。
◆恋人役の西野七瀬と丸1日かけて“思い出”の写真を撮影
――美紀は本編スタート後、すぐに亡くなってしまいます。演じる西野さんとは、美紀が生きていたころのふたりの写真を撮影するため、丸1日かけてロケしたそうですね。
坂東:「初めまして」でしたし、美紀と昴としてその日過ごせたことは、僕のなかですごく大きかったです。その気持ちを頼りに、昴の感情を作っていくことができました。
写真をもらってからは、クランクインまでちゃんと想像というか、イメージを膨らませていきました。
――西野さんはどんな方でした?
坂東:すごく物腰が柔らかくてフラットでニュートラルな方。とても接しやすくて安心しました。西野さんが美紀で本当によかったです。
――実は、岐阜のシーンにも西野さんは登場します。
坂東:そうなんですよ。この作品って、ミステリーも入っていて、そこにヒューマンも入って、ラブストーリーもあって、エンタメとしてもすごく面白いつくりになってると思うんです。でもそこから感じる匂いはやっぱりとても映画的というか。
西野さんがほとんどセリフのない難しい役を引き受けてくださってすごくうれしかったし、岐阜に来てくださるのも、とても楽しみでした。
◆『君の忘れ方』『ライオンの隠れ家』とのつながりにビックリ
――坂東さんは、高校の卒業制作でクレイアニメ作品『目の雫』をひとりで作り上げています。そこにも“死”にまつわるテーマが入っていたと聞きました。
坂東:婚約者を失うという経験は僕にはありませんが、過去に身内との死別を味わったことはあります。だから今回、そこに僕自身が向き合う旅の始まりでもあるのかなと感じていました。
高校時代に作ったクレイアニメは、戦争へと徴兵された婚約者のことをずっと待っている女性が主人公なのですが、恋人は亡くなってしまうんです。
自分自身が死別を経験したことも、クリエイティブな行為の中でずっとつきまとっているというか、その制作のときも影響があったのだと思います。大切な人が急にいなくなったら、人はどうなるのかということをテーマにしようと。
――今回の作品ともリンクしますね。
坂東:びっくりですよね。あと、実はそのクレイアニメに関しては、僕の最近の活動と、もうひとつ通じるところがありました。昨年の『ライオンの隠れ家』で、僕は自閉スペクトラム症の青年・小森美路人という役を演じました。
――はい、拝見してました。ミステリー色の強い幕開けから、兄弟愛、家族愛、自立の物語へと繋がっていく作品も、みっくんそのものも支持されていました。
坂東:みっくんは自閉スペクトラム症の特性からこだわりが強くて、ルーティーンがはっきり決まっていました。
『目の雫』の主人公も朝起きて、ベッドをキレイにして、お湯を沸かしてお茶を入れて、リンゴを食べてと、毎日ルーティーンを繰り返します。
――ドラマでも、みっくんの朝起きてからのルーティーンが描かれていましたね。
坂東:恋人を徴兵に駆り出されたあとの待ってる姿とか、急に亡くしたあとの混乱みたいなものは『君の忘れ方』に繋がってるし、彼女の動きやルーティーンの感じはみっくんのよう。
少し前に見直してみて、今に繋がっていることにとても驚きました。
◆ドラマでの反響は“One Up”になる
――あらためて『ライオンの隠れ家』放送時、反響は感じましたか?
坂東:周りの人はみんな見てくれてましたし、普段、僕の作品を観ない友達や、シュタイナー(坂東さんはシュタイナー教育の学校出身)の友達なんかも「いいじゃん」と言ってくれてました。
もちろんすべての作品を良い作品にしたいと思って作っていますが、こうやって世の中からの反響をちゃんともらえたのは、僕にとってはOne Upになりました。
今後、いろんな役をやっていく架け橋になればいいなと思います。
――このタイミングでの主演映画公開も。
坂東:ドラマをきっかけに知ってくれた人にも、「もしよかったら映画館で2時間ほど僕にください。損はさせません」と伝えたいです。
◆ぬいぐるみに囲まれていた幼少期
――ちなみに、『ライオンの隠れ家』では、兄弟のもとに突然現れる“ライオン”こと愁人くん(佐藤大空)の持っていたライオンのぬいぐるみも大切なキーアイテムでした。坂東さんは小さなころ、ぬいぐるみなどは持っていましたか?
坂東:ぬいぐるみ、めっちゃ大切にしてましたよ。犬を2匹飼ってたんですけど、その犬に似ているゴールデンレトリバーの大きなぬいぐるみだったかな。結構リアルなやつで、それに乗って遊んでました。
あと『ファインディング・ニモ』に出てくる大きなシャークに、それから『ハリー・ポッター』のヘドウィグっていうフクロウで、首をくるくる回せるやつ。結構、ぬいぐるみだらけでした。
――小さなころからぬいぐるみを動かして物語を作ったり。
坂東:してましたね。
◆未来の自分のためにも今はガムシャラに忙しく
――最後に。現在27歳。30歳が見えてきましたが、ライフワークバランスを考えたりしますか? それとも今はとにかく仕事に邁進したい?
坂東:役者にとって現場があるのはすごく幸せなことなので、仕事をしていると安心します。ただそれだけだとインプットの時間がないんですよね。
今は観たい映画があっても映画館には行けてなかったりするので、そういう時間を作ることも大切だと頭の中では思ってます。
――思っているところ。
坂東:たとえば1カ月の使い方っていろいろあって、前の役を忘れる期間や勉強する時間、プライベートでリフレッシュしたり、旅をしたり映画を観たりする時間。そして次の役と向き合っていく。
それが全部の役にできたらこんな幸せなことはないですけど、今はガムシャラに挑戦して、自分で忙しくしていくべき時期だと思っています。
©「君の忘れ方」製作委員会2024
映画『君の忘れ方』は新宿ピカデリーほかにて公開中
<取材・文・撮影/望月ふみ、ヘアメイク/後藤泰(OLTA)、スタイリスト/李靖華>
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi