斎藤工や坂東龍汰が幼い頃に受けた“一風変わった教育”。注目俳優の意外な共通点とは

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2025年02月04日 16:10  女子SPA!

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坂東龍汰の公式Xより
 演技を学ぶためには、プロの俳優を育成する演技学校やワークショップを受講すれば、手っ取り早いかもしれない。

 一方で、俳優になる、ならない以前の段階で、初等教育からじっくり時間をかけて育まれた内面性を武器にした方が、長い目で見ると俳優としての才能は伸ばしやすいかもしれない。その意味で、斎藤工や坂東龍汰を輩出したシュタイナー教育の学校は興味深いものがある。

 イケメン研究をライフワークとしながら、映画の演技を専門的に分析してきたコラムニスト・加賀谷健が、演技を学ぶ新たな教育機関だと感じるシュタイナー教育を解説する。

◆スター俳優の共通点

 これまでさまざまな俳優と仕事をしてきた経験上、わかってきた共通点がある。特にスターといわれる俳優たちの多くが、「演技とは……」云々など、必要以上のことは語らない傾向にあることだ。

 それは別に独自の演技論を言語化できていないわけではない。むしろ彼らには感覚的にも理論的にも構築された、確固たるスタイルがある。必要以上のことを言葉で補足するのではなく、演技の形としてあっけらなんと可視化できてしまう。

 スターだろうがなんだろうが、最初は誰かに演技を学ぶ。学んだことを言語化しながら、いつしか不要なことが削ぎ落とされる。自分の中に独自の演技が不意に見つかる瞬間があるはずである。そのためには、まずは誰でも学びのスタートラインに立つ必要がある。

◆演技を学ぶ新たな教育機関

 今の時代、演技を学ぶ場所は、演劇や映画が専科としてある大学だけに限らない。さまざまな形式や目的をもつワークショップなど、広く一般にまでひらかれている。最初から劇団や撮影現場で経験を積む選択肢だってある。あるいは、必ずしも演技を学ぶことが前提とはされていない新たな教育機関もある。

 映画を専門職とする筆者は、黒澤明や三谷幸喜などを輩出した日本大学芸術学部で、いわゆる日芸生として映画の演出や演技を専門的に学んだ。そのため、どこか映画の知識に偏って物事を思考する癖が身についてしまった。その一方で、そうした専門性にとらわれない場所のほうが、柔軟な思考力を得られる利点がある。

 たとえば、ドイツの教育者であるルドルフ・シュタイナーが提唱した教育理論「シュタイナー教育」に基づくシュタイナー学校である。フリースクールの先駆けでもあるシュタイナー学校は演技を専門的に学ぶ学校ではないが、実際に斎藤工や坂東龍汰などの才能を輩出している。一般的な教育過程よりは専門性がありながら、フレキシブルな教育方針が、俳優という自由な才能を育んでいるのだと思う。

◆初等教育を学んだ斎藤工と坂東龍汰、村上虹郎

 シュタイナー教育が、何より重んじるのは、子どもたちの個性である。ただ、この個性とは、世界に一つだけの花的なノリで、安易に個々人に才能があるんだということを喧伝するものではない。

 それは、それぞれの内面からあふれるものであり、内面的な手続きによって引きだす個性である。斎藤工は東京シュタイナーシューレ2期生として6年生までシュタイナー教育下で学び、坂東龍汰は北海道のシュタイナー学園いずみの学校高等部までみっちり学んだ。

 しかも坂東は、同じシュタイナー教育を学んだ村上虹郎に俳優としての進路を相談し、現在所属する事務所の情報を得ている。坂東のXアカウントを確認すると、東京国際映画祭で村上と斎藤とのスリーショットが投稿されている(2020年3月31日)。

 いずれも、個性が内面的に引きだされやすい初等教育でシュタイナー教育を経験している。国語や算数などの特定科目を並行して学ばず、ひとつの科目を一定期間、集中的に学ぶ。各科目のインストールに時間をかけながら、自分で考え、物にする力を養う。他にも絵画や木工など、特にアート系科目に注力して、内面性をレッスンする特徴がある。

◆内面的アプローチによる役作り

 受験まっしぐらの一般的な教育に比べ、たっぷり余白を用意することで、子どもたちは自ずと興味・関心の幅を自由に広げていける。すると選択肢も増える。時間はかかる教育方法だが、この内面的な手続きはそのまま演技の役作りに似ている。

 代表的な役作りの方法として、メソッドと呼ばれる、ニューヨークの演技学校であるアクターズ・スタジオ由来の演技論がある。この学校で指導していたリー・ストラスバーグが俳優の内面的アプローチによる役作りを実践していた。

 門下としてロバート・デ・ニーロのようなスター俳優を輩出している。内面への過剰な掘り下げによって映画俳優としてはやや軽やかさ、しなやかさを欠く欠点がある演技論だが、日本を含む世界中で未だに有効な方法論のひとつではある。

◆“総合芸術としての教育”とされるシュタイナー教育

 斎藤工と坂東龍汰の場合、当然俳優としてメソッド的な手法が視野にあったと想像できる。でも彼らは初等教育の段階からすでにメソッド以前の内面的アプローチを実践していた。

 シュタイナー教育とメソッド演技の関連性についてはより詳細に検証する必要があるが、いずれにしろ、現在の斎藤と坂東の演技は、内面性の先に踏み込んだところで演技しているように見受けられる。

 青山真治監督によるオムニバスドラマ『最上のプロポーズ』(BeeTV、2013年)での斎藤は、内面に裏打ちされながらも外面とのバランスが均衡するクリアな演技である。阪本順治監督の『冬薔薇』(2022年)に出演する坂東は、一見平凡な塾講師の見た目と内面に秘めた暴力性を矛盾なく端正にアウトプットしていた。

 いずれもシュタイナー教育が実質的にも潜在的にも作用して、生みだされた名演の代表例といって差し支えないだろう。“総合芸術としての教育”とされるシュタイナー教育を具現化したスター俳優たちだ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu

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