グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回はフィグニーでXR(クロスリアリティー)エンジニアとして活躍しているAziz Alnasser(アジズ・アルナサ)さんにお話を伺う。日中は暑くて外で遊べないので、家の中でゲームをしていたというアジズさんは、どのような学生時代を経てエンジニアになったのだろうか。
聞き手は、AppleやDisneyなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広。
●サウジアラビア→オーストラリア→日本
阿部川“Go”久広(以降、阿部川) 母国語は何語ですか?
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Aziz Alnasser(アジズ・アルナサ、以下アジズさん) アラビア語です。日本語、英語、アラビア語を話せます。英語は小学生の頃から第二外国語として学んできました。(日本語で)インタビューは日本語でも大丈夫ですよ。
阿部川 おおお、素晴らしい。でも今日は英語にしようかな。まずは、基本情報を教えてください。
アジズさん サウジアラビアで生まれ育ち、オーストラリアの大学院で学び、7年前に来日しました。
アジズさん サウジアラビアのふるさとは、メディーナという静寂で美しい街です。メッカと並ぶ、イスラム教の聖なる都市の一つです。歴史的なモスクや文化遺産が多く、世界中から巡礼者がやってきます。ですからメディーナは、サウジアラビアと世界中のさまざまな国の豊かな文化や食文化などが混ざり合っています。多くの巡礼者のおかげといっていいと思います。
阿部川 アジズさんは、イスラム教徒ですか?
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アジズさん はい、私は生まれてからずっとイスラム教徒です。両親もイスラム教徒ですから、小学校に入った頃から一緒にモスクでお祈りをしていました。
阿部川 イスラム教徒の方は1日に何回かお祈りをなさるのですよね。お祈りのためには、特別な道具や場所が必要なのでしょうか。
アジズさん 私たちイスラム教徒は、1日に5回お祈りをささげます。1回のお祈りは5分から10分程度です。お祈りをささげる場所は、モスクでももちろん大丈夫ですが、近くにモスクがない場合は、小さな部屋やオフィスなど、清潔で騒音のない場所であれば基本的にどこでも大丈夫です。
●生粋のゲーマー
阿部川 幼い頃はどんなお子さんでしたか。
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アジズさん 内向的なところと外向的なところのどちらも持ち合わせた子どもだったと思います。友達と一緒に家の近くで自転車を乗り回したり、遠足ではしゃいだり。でもシャイなところもあって、1人でビデオゲームをやることも多かったです。
当時からゲーマーで、ファミコン(ファミリーコンピュータ)が最初のゲーム機器でした。10歳くらいの頃、成績が良かったことのご褒美として、父が買ってくれました。最初のファミコンは使っているうちに壊れてしまって、そうすると次、また壊れて次と、スーパーファミコンやセガサターン、プレイステーションを次々と買ってもらい、当時出ていたほぼ全てのコンシューマー向けゲーム機器を制覇しました。
阿部川 当時のサウジアラビアで、子どもがビデオゲームをすることは一般的だったのですか。
アジズさん はい。子どものいるサウジアラビアの家庭では、少なくとも1つ以上のゲーム機器があったと思います。
サウジアラビアはとても暑くて、夏だと日中はすぐに40度以上になります。日中に外で遊ぶことはけっこう危険なので、多くの子どもたちは家の中でゲームなどをして遊びます。最近の正確な統計は分かりませんが、若い人たちの多くはビデオゲームをした経験があると思います。
阿部川 でもサッカーもやるんですよね。
アジズさん はい、多くの子どもがサッカーをします。私はバスケットや自転車で走り回ることもよくありました。ただ日中は暑いので、夕方の5時や6時などの日が沈んだ後の時間に遊ぶことが多かったです。
●外科医になりたいなあ
阿部川 得意な科目、それと嫌いな科目は何でしたか。
アジズさん 良い質問ですねえ(笑)。エンジニアのくせに、ですが、高校の頃は数学が大っ嫌いでした。それよりも物理と歴史が好きでした。サウジアラビアやイスラムの歴史、それと世界史ですね。
阿部川 数学が嫌いとはねえ……。
アジズさん 物理学を勉強するために、できるかぎり好きになろうとはしたんですよ(笑)。
阿部川 当時、具体的になりたい職業などはありましたか。
アジズさん 大学への進学を考えていた高校2、3年の頃は、医者に、とりわけ外科医になりたいと考えていました。大学訪問で医学部を見学して、死体置き場で10数体の本物の死体まで見せてもらいました。
そのときに医師や大学生から医学的な説明など聞き、漠然と「外科医になりたいなあ」と考えるようになりました。実はその時に引率してくれた先生は、見学するうちに気分が悪くなって、ずっと外で待っていましたよ(笑)。
ただ、私は既にゲーマーでもありましたから、その延長でテクノロジーに対する興味も非常に強かったのです。それで最終的にはITエンジニアを夢見るようになりました。
●初めての社会体験は、トヨタのディーラー
阿部川 ITエンジニアの道に進むと決めて、Taibah University(タイバ大学)に進学します。サウジアラビアには同学のようなテクノロジー系の大学が多いのですか。
アジズさん 多いですね。タイバ大学を選んだのは、生まれ育ったメディーナにあり実家に近かったことと、コンピュータ&インフォメーションシステムズ(情報工学科)があったからです。
阿部川 どのようなことを学びましたか。
アジズさん プログラミングの基礎、コンピュータ言語、コンピュータサイエンス、ソフトウェア開発ツール、データベースマネジメント、ネットワーク、セキュリティなど、本当にたくさんのことを学びました。これらを学び、いつか何かを創り出したいと思っていました。
大学で学んだことは今の仕事で生きており、犬などのペットを選んで、トレーニングして育てるAR(拡張現実)のシミュレーションゲームアプリを作りました。「たまごっち」のようなものです。
阿部川 サウジアラビアにもたまごっちはあるのですか。
アジズさん ありますよ。よく遊びました。
阿部川 大学時代、インターンは行きましたか?
アジズさん トヨタ自動車のディーラーで2カ月ほどお世話になり、ビジネス全体を学びました。サウジアラビアで唯一のディーラーで、非常に大きな組織でした。
IT関連の業務に加え、カスタマーサービスや部品交換のサービスなど、自動車関連のたくさんの仕事を経験させてもらいました。最初のリアルな社会体験で、仕事と呼べることを初めて行いました。フロントで顧客と対応することも、バックオフィスで社内の仕事を経験することも、同時に学べました。とても楽しかったし、意味のある経験だったと思います。
ゲームざんまいの子ども時代を過ごしたアジズさんは、その延長でテクノロジーに興味を持ち、ITエンジニアを夢見るようになった。後編は、アジズさんがオーストラリアを経て日本に来るまで、そして彼の「夢」を伺う。
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