(画像『プライベートバンカー』Instagramより) 唐沢寿明さんと鈴木保奈美さんの共演で話題を集めている1月期ドラマ『プライベートバンカー』(テレビ朝日系)。
本作は、資産管理を行うスペシャリストである「プライベートバンカー」を唐沢さんが演じるマネーサスペンス。鈴木さんが演じるのは主人公(唐沢さん)に弟子入りするだんご屋の社長です。
唐沢さんと鈴木さんという演技巧者の共演で骨太な作品になっていますが、往年のドラマファンであれば、ある名作が頭をよぎったはず。
そう、1992年に放送された『愛という名のもとに』(フジテレビ系)です。
実は唐沢さんと鈴木さんの地上波ドラマでの共演は、『愛という名のもとに』以来、30年以上ぶりなのです。
◆平均視聴率20%超え、最終回視聴率30%超えで大ヒット
鈴木さん、唐沢さんが共演し、平均視聴率20%超え、最終回視聴率30%超えという記録を叩き出した大ヒットドラマ『愛という名のもとに』。大学時代のボート部の仲間7人が社会人になって再会するところから物語が始まる群像劇でした。
そこで、ここからは鈴木さんが演じた貴子、唐沢さんが演じた健吾、そして江口洋介さんが演じた時男の三角関係の恋模様を振り返っていきましょう。
結論から言うと、主人公・貴子は健気でなんの非もなかったにもかかわらず、この2人の男の身勝手なエゴにさんざん振り回された挙句、最終的にはどちらとも結ばれずに独り身でエンディングを迎えたのです。
◆プロポーズされたのに…唐沢寿明にフラれる鈴木保奈美
大学時代の貴子は健吾からも時男からも惚れられていたボート部のヒロイン的存在でした。
大学卒業後、高校教師となっていた貴子と、父の背中を追い代議士になるため秘書をしていた健吾は交際していました。しかし、健吾は貴子にプロポーズしておきながら、代議士になるためには政略結婚しなければいけないと父に説き伏せられてしまいます。
健吾は貴子を含めた仲間たちの前で「俺は、政治家になる夢を捨てられない」と宣言。これはすなわち貴子がフラれたことを意味しています。健吾の決断を聞き、無言で目を閉じる貴子……同情せずにはいられない切ないシーンでした。
◆寄り添っていたのに…江口洋介に捨てられる鈴木保奈美
その後、健吾と別れた貴子に時男が寄り添うようになり、二人は付き合うことに。それまでは女のヒモになったり、怪しげな仕事をしたりしていた時男でしたが、貴子との将来を見据えてパチンコ店員として真面目に働くようになります。
……が、それも束の間。ある劇中最大の事件をきっかけに、時男は自分の人生を見つめ直します。健吾にだけ「俺は俺でありたい。ずっと俺でいたいんだよ」と本音を吐露し、貴子や仲間たちの前から突然姿を消してしまうのでした。
半年後、貴子宛に時男から手紙が届きます。そこには一攫千金を狙ってアルゼンチンでダイヤモンド掘りをしていることが記されており、「いつか、またいつか会おう。みんなで会おう。変わらぬ仲間として。愛という名のもとに…」という、美談っぽい言葉で締められていたのです。
◆“いくつになっても夢を追う男はかっこいい”と美談化
結局、プロポーズまでしてきていたのに政治家になりたいという我欲を優先させた健吾にフラれ、そんな健吾をぶん殴って傷心の貴子を支えようとしていた時男にも一獲千金の我欲を優先されて捨てられる――これが本作の主人公の末路。
せめて健吾と時男が最低最悪のクズ野郎のように描かれているのであれば、まだ溜飲は下がったでしょう。しかし、なぜか自己中なエゴで主人公を傷つけただけの彼らのスタンスは肯定され、まるで“いくつになっても夢を追う男はかっこいい”、“青年の抑えきれない衝動は美しい”と言わんばかりの、きれいごととして片付けられていたのです。
◆もしこのストーリーのまま現代でリメイクしたら…?
社会に出るまでのモラトリアム期間に友情を深めた仲間たちが、いざ社会に出て荒波に揉まれていく姿を、清濁併せ飲むバブル崩壊期の社会情勢を背景に描かれた名作であったことは間違いありません。
けれど潔癖・誠実だった女性主人公が、利己的なクズ男たちに振り回された悲劇を、強引に美談化したような結末だったことも否めないのです。
30年以上前の作品のため、今とは世相も価値観も違うでしょうが、もしこのストーリーのまま現代でリメイクしたら、確実に大炎上案件でしょう。
◆平成初期の名作ドラマにツッコミ視聴するのも楽しい!
……と、こんなふうに、現在の令和の価値観で、平成初期の名作ドラマにああだこうだとツッコミを入れながら視聴するのも楽しみ方のひとつ。
『愛という名のもとに』はフジテレビ公式動画配信サービス「FOD」で全話視聴可能なので、放送中の『プライベートバンカー』のストーリーを追いながらそちらも視聴し、唐沢さんと鈴木さんが演じたそれぞれのキャラクターを観比べてみるのも一興なのではないでしょうか。
<文/堺屋大地>
【堺屋大地】
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。現在は『現代ビジネス』、『smartFLASH』、『文春オンライン』、『集英社オンライン』などにコラムを寄稿。LINE公式サービスにて、カウンセラーとして年間で約1500件の相談を受けている。Twitter(@SakaiyaDaichi)。