Jリーグ2025でも10試合開催 集客力抜群の国立競技場は見やすいサッカースタジアムなのか

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2025年02月11日 10:20  webスポルティーバ

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連載第36回 
サッカー観戦7000試合超! 後藤健生の「来た、観た、蹴った」

 なんと現場観戦7000試合を超えるサッカージャーナリストの後藤健生氏が、豊富な取材経験からサッカーの歴史、文化、エピソードを綴ります。

 今回は、2月8日にFUJIFILM SUPER CUPが開催された国立競技場について。集客力が高く今季Jリーグでも10試合が予定されているが、はたして「サッカーの見やすいスタジアム」なのでしょうか。

【冬場でもかなりの集客力】

 Jリーグの開幕を告げるFUJIFILM SUPER CUPが開催され、サンフレッチェ広島が昨年度二冠のヴィッセル神戸に2対0で完勝した。新戦力の融合も順調そうな広島は、中島洋太朗が急成長してチームの攻撃をリード。中央を固める神戸に対して、前半12分に右サイドの中野就斗のクロスにトルガイ・アルスランが頭で合わせて先制。後半にもCKからDFの荒木隼人が決めて突き放した。

 広島はACL2ラウンド16のナムディン戦(アウェー)を控えていたが、ミヒャエル・スキッベ監督はほぼベストメンバーを起用。一方、中2日でACLEの上海海港戦を控えた神戸の吉田孝行監督は主力を温存。スキッベ監督の言うように、この試合の評価は難しい。

 昨年も神戸はカップ戦では思いきったターンオーバーを実施。スキッベ監督は対照的にカップ戦にも主力を起用し続けた。その結果、広島は選手の疲労が蓄積してリーグ終盤に失速。神戸の連覇を許したのだが、はたして今シーズンはどうなるのだろうか?

 この試合が行なわれた2月8日は日本列島が大寒波に見舞われた。幸い、関東地方は晴れたものの、手元の温度計では8度ほど。北風も吹いてさらに一層、寒さが身にしみた。

 そんななかで、入場者数は5万3343人。32回目を迎えたこの大会の最多入場者記録だったという。

 神戸と広島という西日本勢同士の顔合わせ。しかも、寒波という条件でこれだけの観衆が集まったのだ。無料招待者が多かったとしても、かなりの集客力である。

 その理由のひとつが、国立競技場という舞台だった。

【アクセスのよい多目的スタジアム】

 2021年に開催された東京五輪のレガシーである国立競技場に、魅力を感じる人は多い。また、都心にある国立競技場はJRや東京メトロなど最寄り駅が多く、アクセスもいい。神戸や広島からのサポーターにとっては新幹線の東京駅、品川駅から近いのも魅力的だろう(大雪で新幹線に遅れが出たようだが......)。

 その国立競技場の知名度を生かして、昨年からJリーグは「THE国立DAY」と称して多くの試合を開催。いずれも5万人以上の観客を集め、Jリーグの観客動員数の引き上げにもつながった。そして、今シーズンも国立では10試合が予定されている(9月に世界陸上が開かれるため、4月、5月に集中している)。

 現在の国立競技場は、2020年開催予定だった東京五輪を前に2019年12月に完成した新しいスタジアムで収容人員は約6万8000人。本来は2019年のラグビーW杯のために東京五輪招致決定前に全面改築が企画されたのだが、建築費の高騰によって当初の設計案が白紙に戻され、完成は大きく遅れてしまった。

 東京五輪後は主にサッカーやラグビーのビッグゲームに使用されており、昨年、Jリーグも参加したNTTドコモを代表企業とするグループが今後30年間の運営権を獲得した。

 サッカーでは天皇杯決勝やルヴァンカップ決勝、全国高校サッカー選手権決勝などに使用され、ラグビーではリーグワンのビッグゲームや国際試合が行なわれており、今年は世界陸上も予定されている。

 国立競技場はもともと多目的スタジアムとして設計された。

 当初案ではコンサート等のイベントに使用するため開閉式屋根付きとして計画されたが(コンサートの雨天開催や遮音のために屋根が必要と考えられた)、建設費の高騰で開閉式屋根は先送りされ、結局、五輪開催後にはその計画はご破算となった。

 こうして出来上がったのは、陸上競技と球技(サッカー、ラグビー)、そしてコンサート等に使用できるものの、どの競技にとっても中途半端で使い勝手のよくないスタジアムだった。

【サッカーも見やすいが......】

 陸上競技場との兼用としては、国立競技場はサッカーの試合も見やすいスタジアムだとは思う。

 日本最大で、国立と同じように陸上と球技の兼用である日産スタジアム(横浜国際総合競技場、収容7万2327人)と比べれば、試合が見やすいのは一目瞭然。日産スタジアムは2002年にサッカー、2019年にラグビーのW杯決勝が行なわれたスタジアムだが、試合が見にくいので有名だ。

 最大の理由はスタンドの傾斜角だ。サッカーやラグビーの試合は上から見下ろすように、つまり俯瞰的に見たほうが全体の動きがわかりやすい。しかし、記者席もある日産スタジアムの1層目スタンドの傾斜は17度という緩やかさだから、俯瞰的に見ることがまったくできないのだ。

 しかも、日産スタジアムのスタンド最前列は陸上トラックからの距離が遠い(陸上競技に使用する時にはそのほうが運営しやすい)。そして、メイン、バックの両スタンドはカーブがなく直線状なので、サッカーのCKスポット付近でもピッチとスタンドの距離はかなり遠くなってしまう。

 それに対して、国立競技場は1層目の傾斜が20度、2層目が29度、3層目が34度となっており、上層スタンドからはかなり俯瞰的に見ることができる。また、国立競技場のスタンド最前列は日産スタジアムに比べればトラックからの距離が短いし、スタンドがカーブしているので、ハーフライン付近よりコーナーの部分ではピッチが近くなっている。

 しかし、「国立競技場はサッカーも見やすい」といっても、それはあくまで「陸上競技兼用スタジアムとしては」という留保付きであって、球技専用スタジアムとは比較にならない。

 スタンドの傾斜角は大きく、たとえば記者席はメインスタンド3層目に設置されているからピッチを俯瞰できる。だが、「高い」ということはピッチ面までの垂直距離があるうえに、陸上トラックがあるだけ水平的な距離も遠くなるから、バックスタンド側の選手の背番号はほとんど視認できないし、中盤の選手でも「6」なのか「8」なのかが見えづらい。

 たとえば、イタリア・ミラノのスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ(サンシーロ)の記者席も同じように非常に高い位置にあるが、ここはもちろんサッカー専用だから、ピッチまでの水平距離は短く、上空から見下ろすような感覚でも背番号はよく見える。

【どの競技にも使いにくい中途半端なものに】

 やはり、陸上競技兼用では、どんな設計にしても試合の見やすさは損なわれてしまう。そのため、国立競技場は国内カップ戦や親善試合では使用されても、W杯予選などの公式戦では使用されていない(女子代表のパリ五輪予選では使用された)。

 ラグビーでも、すぐ近くに秩父宮ラグビー場というすばらしい専用スタジアムがあるので、国立競技場が使用されるのはごく一部の試合だけだ。

 一方、サッカー、ラグビーに使用するためには芝生の保護が必要なので、陸上競技の投擲種目(ハンマー投げややり投げ)での使用が制限されるなど、陸上競技側にとっても兼用スタジアムは使い勝手がよくない。そもそも、世界陸上などを除けば陸上競技の集客力は高くないから、国立競技場は大きすぎる(使用料が高すぎる)のだ。

 結局、多目的競技場を目指した結果として、国立競技場はどの競技にとっても使いにくい中途半端なものになってしまった。

 僕が初めて国立競技場を訪れたのは、1964年10月の東京五輪の時のことだった。サッカーの予選リーグ開幕戦、ハンガリー対モロッコの試合。名手ベネ・フェレンツがひとりで6ゴールを決めてハンガリーが6対0で勝利した試合だった。そして、それが僕にとってのサッカーとの出会いの瞬間だった。

 次回は、懐かしい旧国立競技場の話をしよう。

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