
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのはマッツ・ミケルセンさん主演のデンマーク映画『愛を耕すひと』(2025年2月14日公開)です。日本にファンが多く、何度も来日している親日家のマッツ様が今回演じるのは、開拓者となって成功を掴もうと努力を惜しまなかった男。
マッツ様はやはり素敵でした〜!
それではさっそく、物語からご紹介します。
【物語】
18世紀のデンマーク。貧しい退役軍人のルドヴィ・ケーレン大尉(マッツ・ミケルセンさん)は “貴族の称号” を得るために荒野を開拓しようと試みます。しかし、有力者のフレデリック・デ・シンケル(シモン・ベンネビヤーグさん)は、その荒野の所有者であると主張し、ケーレン大尉を退けようと躍起。
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加えて、逃げた使用人のアン・バーバラ(アマンダ・コリンさん)がケーレン大尉の元にいると知るとますます逆上。ケーレン大尉への嫌がらせが加速していくのです。
【驚くほどの映像美】
冒頭、広い荒地が映し出され、すぐにマッツ様が演じるケーレン大尉が「荒地を開拓したい」と王室に申し出ます。「無理、無理」と門前払いされそうなところ、荒地の開拓は国王の悲願であるため国王のご機嫌をとる理由で急にOKが出ます。
でも誰も成功するとは思っていません。ところがケーレン大尉はとんでも無く広い荒地をたった1人でコツコツ耕し始めるのです。
この荒地の映像がすごい。風や空気を感じさせるし、アン・バーバラや捨て子のアンマイ・ムス(メリナ・ハグバーグさん)が大尉の手伝いをするのですが、その光景はまるで絵画のよう! 仕事そのものは過酷ですが、この映像美は圧巻なのです。
【哀愁のマッツ様】
ケーレン大尉は、少し複雑な男。国王が望む荒地の整備に成功し貴族になろうとしているけれど、目の前で彼をジャッジしているセレブな男たちに憧れている様子はありません。でも、なりたいのです。
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色々な人生の選択肢がある時代ではなかったから、「こんな奴らみたいになりたくない」と思っても、その地位がないと生きていけなかったのかもしれません。
マッツ様はインタビューで、最初に脚本を読んだとき、ケーレン大尉の共感度が高すぎて好きではなかったと語っています。
「僕は共感度の高いキャラクター設定に反対して変えました。ルドヴィ・ケーレン大尉は最も嫌う貴族になりたいと願うところが興味深い。嫌いな貴族の身分をもらうために必死になっている。そこに彼の人間の性を見ました」
(公式インタビューより一部抜粋)
そんな複雑な心情を抱えつつ、黙々と荒地を耕すマッツ様。無表情な中でも静かにフツフツと心は燃えていると感じられ、かつ、哀愁も漂っていて……。今すぐ荒地を耕すお手伝いをしたくなるほどでしたよ!
【大地に根を張って生きる人間の強さ】
家柄による格差が激しい時代。
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お金持ちのボンボンで性格も頭もよろしくないフレデリック・デ・シンケルが本当に腹の立つ悪役なんですが、彼が冷酷な男だからこそ、嫌がらせにも屈せずに這いあがろうとするケーレン大尉の辛抱強さがクローズアップされます。
この時代の人は本当に粘り強い。おそらく厳しい人生を歩んでいる人ほど生きることへの生命力が強いのかも。シンケルの家から脱走したアン・バーバラなんて本当に強い女ですから。
大地に根を張って生きる。今の時代ではなかなか得られないスピリットを感じました。
ラストの展開は意外性もあり、しみじみしてしまいましたが、これもまた人生。どん底の人生を立て直し、孤独な男が愛を知る物語『愛を耕すひと』。映像が美しいのでぜひスクリーンで見ていただきたい。そして、渋くて素敵なマッツ様の熱演を見逃さないで!
執筆:斎藤 香(C)Pouch
Photo:© 2023 ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, ZENTROPA BERLIN GMBH and ZENTROPA SWEDEN AB
『愛を耕すひと』
2025年2月14日(金)より全国ロードショー
監督:ニコライ・アーセル
脚本:ニコライ・アーセル、アナス・トマス・イェンセン
原作:イダ・ジェッセン「The Captain and Ann Barbara(英題)」
出演:マッツ・ミケルセン、アマンダ・コリン、シモン・ベンネビヤーグ、メリナ・ハグバーグ、
クリスティン・クヤトゥ・ソープ、グスタフ・リン