『 SAYU~LOVE30~ 』(ワニブックス) 1月19日。元モーニング娘。のメンバー、道重さゆみが、今夏のツアーを最後に芸能界を引退することを発表した。
道重は、「私がいちばんかわいい」というスタンスのもと、グループ在籍時からバラエティ番組などでも活躍、そのツッコミやすい自己肯定感高いナルシスト的キャラクターと毒舌キャラの同居、そして「かわいい」と自称するだけの説得力あるキュートなルックスは、当時のバラエティの空気との親和性も高く、広くお茶の間に愛される存在だった。同時期に活躍した小倉優子のキャラクターとも近い部分があるだろうか。
そんなことを思い出しながら、テレビにハロプロ、ハロー!プロジェクト所属メンバーがあふれ、お茶の間に愛されていた時代があったなぁといったことを、ふと思い出した。
道重さゆみは、お茶の間に広く愛された時代の名残を残す、最後のハロプロメンバーだったかもしれない。
◆グループが減速しても活躍し続けた存在
女性アイドル冬の時代を終わらせたとも言われる1999年の『LOVEマシーン』大ヒットに前後する時期、モーニング娘。のメンバーは、グループ単位で、または中澤裕子や矢口真里など個人でも、いわゆる“黄金期”を支えたメンバーたちは「うたばん」や「めちゃイケ」など人気番組に頻繁に出演、番組人気とともにお茶の間の人気者であり続けた。
矢口真里、そして辻希美・加護亜依らによる派生ユニット的存在「ミニモニ。」は、テレビアニメ化もされるなど未就学児を巻き込むほどの人気者であった。
道重自身は、そんな時期よりも少しあと、2003年に6期メンバーとしての加入だった。モーニング娘。のグループとしてのCD売り上げはピークを超え、メディア露出も減少し始めたころではあった。
そんななか、単独でバラエティなどで活躍し続けたのは、冒頭のキャラの強さがあってこそと言っていい。
単独のメディア出演が多かった矢口真里は、残念ながら自身のスキャンダルにより一時活動を休止することになってしまった。
ファン目線ではまた異なってくるかもしれないしあくまでも印象論だが、アイドル番組や音楽番組以外の場で00年代なかばから10年代にかけてお茶の間に親しまれたハロプロメンバーは、矢口をのぞけば当時Berryz工房のメンバーだった“ももち”こと嗣永桃子とツートップ状態ではなかっただろうか。
◆移り行くバラエティアイドルの系譜
テレビのバラエティやクイズ番組、情報番組などの世界での「女性アイドル」枠は、モーニング娘。やハロプロメンバーに代わり、AKB48グループ、そして乃木坂46などの「坂道シリーズ」といった、秋元康プロデュースのアイドルグループの高橋みなみ、指原莉乃、峯岸みなみ、秋元真夏、松村沙友理といったメンバーが席巻するようになる。
ほかにも、ももいろクローバーZなどが地上波バラエティで活躍する一方で、音楽バラエティの減少などテレビ界の変化もみられた。
その後もハロプロメンバーで地上波露出が安定して多いのは、辻希美、藤本美貴といった“ママタレ”枠である。これはその属性と安定したトークスキル、そして好感度の高さなどが基準で、そのキャラでキャスティングされたものではないといえる。
道重・嗣永を継ぐハロプロお茶の間枠といえば、元°C-uteの岡井千聖は露出が増え始めたころに芸能界を引退。
近年はモーニング娘。’25の牧野真莉愛やアンジュルムの上國料萌衣など、バラエティや情報番組の出演が多い印象だが、道重や嗣永の系譜のキャラではなく(もちろんそうでなければならないわけではないが)、老若男女誰もが牧野や上國料を単体で認識していても、彼女たちが所属するグループ名、さらにいえばハロプロメンバーであることまでの認知は、道重らには及ばない気がする。
とはいえ、元アイドリングの菊地亜美や朝日奈央、さらにいえば48グループでいえば元NMB48の渋谷凪咲もそうかもしれないが、単体での人気ぶりがグループの認知度や人気に直結するわけではないことは、ハロプロに限らず多い。
そういえば、2021年にデビューしたハロー!プロジェクトのアイドルグループの名はそれこそ「OCHA NORMA」だ。グループ名には「お茶の間を楽しませる、新世代のスタンダードとなるような存在になってほしい」という意味が込められているという。
当時、デビューにあたりメンバーは、お茶の間というもの自体がなくなりつつある時代であるからこそ、「私たちを見るためにお茶の間に戻ってこられるような、幅広い世代に知られるグループに」と意気込みを語っていた。
お茶の間で活躍するハロプロメンバーの復活というよりも、お茶の間そのものの再生が必要なのかもしれない。
<文・太田サトル>
【太田サトル】
ライター・編集・インタビュアー・アイドルウォッチャー(男女とも)。ウェブや雑誌などでエンタメ系記事やインタビューなどを主に執筆。