TOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムの2期生が走らせるトヨタGRヤリス・ラリー2 2月13日〜16日にかけて、北欧スウェーデンで開催された2025年WRC世界ラリー選手権の第2戦『ラリー・スウェーデン』に、TOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムの2期生である小暮ひかると山本雄紀、3期生である後藤正太郎と松下拓未が出場した。
WRC全戦で唯一の『フルスノーイベント』となる伝統のウインターラリーで、山本はWRC2クラス9位、小暮は17位で完走。松下はWRC3クラス4位を獲得したが、後藤はメカニカルトラブルにより完走を逃した。
ラリー・スウェーデンは厳寒期の北欧、スウェーデンを舞台に開催されるスノーラリーだ。北部の都市『ウーメオー』の周辺に展開する、森林地帯の未舗装路面は雪と氷に覆われ、今年はとくに氷の層が厚く、気温もマイナス10度以下になるなど理想的ともいえる路面コンディションで4日間にわたってラリーが行なわれた。
森林地帯の氷雪ステージは全体的に非常にハイスピードで、特殊な金属製のスタッドが多数打ち込まれた、雪道専用のスタッドタイヤが氷に食い込むことで高いグリップ力を発生。そのため、スウェーデンはWRCの中でもトップ3に入る高い平均速度を誇るハイスピードラリーとしても知られ、若手ドライバーたちにとっては挑戦し甲斐がある一戦となった。
WRCのサポート選手権であるWRC2は、トップカテゴリーであるラリー1車両に次ぐパフォーマンスを誇るラリー2車両が多数エントリー。スウェーデン人のオリバー・ソルベルグや、フィンランド人のローぺ・コルホネンなど雪道育ちの強豪北欧ドライバーたちが速さを競うなか、このラリーへの出場3年目の小暮と山本は、これまでの経験を活かしながら競争力のあるペースを発揮するべくラリーに臨んだ。
昨年に続き彼らはトヨタGRヤリス・ラリー2で出場。しかし、今年からタイヤサプライヤーがハンコックタイヤに変わったことで、新しいタイヤの特性を理解し、ドライビングを合わせ込みながらの走行が求められた。
トピ・ルフティネンとコンビを組む小暮は順調にラリーをスタートしたが、金曜日のSS6で雪壁に当たりスタックしたことでデイリタイアとなってしまった。さらに、今年からジェームズ・フルトンをコドライバーに迎えた山本は、SS3で雪壁でスタックし50秒程度をロス。WRC2クラス11番手で金曜日を終えた。
その後も山本は土曜日のSS11でもスタックしてふたたびタイムを失ったが、用意されたステージはすべて走行。一方、再出走を果たした小暮は7番手タイムを2回記録するなど安定した走りで土曜日を走破した。最終日の日曜日は、両者ともトップ10以内のタイムを刻み、山本はWRC2クラス9位でフィニッシュ。小暮はクラス17位で完走を果たした。
一方で、今回がWRCイベント初出場だった3期生の松下と後藤は、有望な若手ドライバーが集結するWRC3カテゴリーに、ラリー3車両のルノー・クリオ・ラリー3で初挑戦。今回は彼らにとってはもっとも長い距離を走行するイベントとなったが、初めて走行するスウェーデンのスノーロードでふたりとも高いパフォーマンスを発揮。
金曜日には何度か3、4番手タイムを記録し、ユッシ・リンドベリと組む後藤は4番手で、ペッカ・ケランダーと組む松下は5番手で金曜日を終えた。続く土曜日のステージでは松下が速さを示し、2番手タイムを2回記録。一時的に3番手まで順位を上げた。
さらに、後藤もオープニングから3ステージ連続で3番手につけるなど好調を維持。午後のステージでは雪壁に当たってタイムを失ってしまう場面もあったが、土曜日が終了した時点で松下が4番手、後藤が5番手と、両者とも上位争いができる順位につけた。
最終日の日曜日は、後藤にとってアンラッキーな最終日となり、ラリー最長ステージのSS16で松下を抜いて4番手に順位を上げるも、続くSS17でメカニカルトラブルによりリタイアを喫することとなった。一方、松下はSS17で4番手に順位を戻し、初のWRCイベントをWRC3クラス4位という好成績で終えた。
WRCチャレンジプログラムでチーフインストラクターを務めているユホ・ハンニネンは、「ひかると雄紀については、全体的にまずまずの週末になった」とまずは2期生のラリーを振り返る。
「ひかるは金曜日にコースオフを喫したことで好結果の望みを断たれ、雄紀はいくつか小さなミスを犯してタイムを失ったが、ほとんどのステージは彼らにとって良いものだったと言える」
「ただし、彼らが良いペースを発揮しながらもクリーンにラリーを走り抜けられるように、我々はさらに一貫性を高めるべく改善を進める必要があるだろう。タイヤも彼らにとっては新しい要素であり、ほとんどのドライバーにとってそうであったように、ラリー全体を通して彼らは適応を試みた」
そして、WRCイベントに初参加となった3期生についても続ける。
「一方、正太郎と拓未にとってはポジティブなWRC初挑戦となった。残念ながら正太郎は日曜日に技術的な問題に見舞われたが、それほど多くの距離を走り損ねたわけではないだろう」
「彼らにとって重要なのは、できるだけ多く走行距離を稼ぐことだ。また、経験が不足していたにも関わらず、ふたりともミスなく、安定したスピードを維持していたので、将来有望だと思っているよ」
小暮と山本にとっての今シーズンのウインターラリーは今回で終了となるが、後藤と松下のチャレンジはさらに続く。ふたりは3月7日から8日にかけて開催される、フィンランド・ラリー選手権の『サヴォンリンナ・ラリ』に出場予定だ。また、コドライバーの前川富哉も、ヤルコ・ニカラと組んでラリー4クラスに出場する。
ラリー・スウェーデンに挑んだTGR WRCチャレンジプログラムの各選手のコメントは以下の通りだ。
●小暮ひかる:WRC2クラス17位
「まずまずのスタートを切り、金曜日の午後はもっとプッシュしようとしたのですが、予想以上にタイトなコーナーがひとつあり、スピードが速すぎて雪壁にハードにぶつかってしまいました」
「土曜日に再出走した時はリズムを掴むのに苦労しましたが、その後はどんどん良くなり、タイムも上がって行きました。昨年の自分のパフォーマンスと比較すると、確かに改善が見られましたが、新しいタイヤにドライビングを合わせるのにまだ苦労しているので、今後に向けて分析する必要があります」
●山本雄紀:WRC2クラス9位
「簡単な週末ではありませんでしたが、完走し、すべてのステージを走破できたのは本当にポジティブなことです。ステージのコンディションは、レッキの時にはほぼ完璧に見えたのですが、実際は思っていたよりもトリッキーでした。ラリー中は刻々とコンディションが変わっていきましたが、新しいタイヤを学ぶうえでは良い経験になりました」
「雪壁に当たるなど、今週末のスタートはあまり良くなかったのですが、最終日にはタイヤをもっと理解しようとセットアップを変更し、それがうまくいきました。クルマをさらに信頼できるようになりましたし、速いペースに近づくこともできたので、良かったです」
●後藤正太郎:リタイア
「全体的には、自分にとって驚くほど良いラリーになりました。ペースはアークティック・ラップランド・ラリーの時よりもずっと良かったですし、ペースノートもドライビングも大幅に改善したと思います。ラリー序盤はタイヤに慣れるのにやや苦労しましたが、その理由のひとつはシェイクダウンでクルマに問題が発生し、タイヤをあまり試せなかったことです」
「最初のステージではブレーキをロックさせて、エンジンが止まってしまいました。しかし、その後はとても良いペースで走ることができました。土曜日の午後にはもう少しペースを上げようと試み、何度か危ない場面もありましたが、幸いにも走り続けることができました。日曜日にクルマに問題が発生したため残念ながら完走できませんでしたが、全体的にはとても満足のいくラリーでした」
●松下拓未:WRC3クラス4位
「自分にとっては素晴らしいWRCデビュー戦になったと思いますし、このイベントに出場できたことを本当に嬉しく思います。最初のステージから最後のステージまで、安定したペースを維持できたと思います。もちろん、ハンコックタイヤという違いはありますが、アークティック・ラップランド・ラリーに出た時と比べると、クルマのフィーリングはかなり良く感じられました」
「夜のウーメオー・スプリントステージはとても楽しく、さらにプッシュできると感じましたし、ペースも悪くありませんでした。また、自分のドライビングに関しては改善すべき点が多く見つかりましたが、それもまた将来に向けてはポジティブな要素です」