近年好調に推移している国内IT需要だが、2025年の動きはどうなるか。国際情勢の影響をどう見るべきか。
富士通、NEC、NTTデータの決算から探る 2025年IT需要の行方
富士通、NEC、NTTデータグループ(国内事業会社は「NTTデータ」)のITサービス大手3社が相次いで発表した2024年度(2025年度3月期)第3四半期(2024年10〜12月)の決算から受注状況に注目し、見通しを探る。
●富士通の最新の受注状況は?
富士通が2025年1月31日に発表したITサービス(同社は「サービスソリューション」と呼ぶ)における第3四半期の国内受注状況は、全体で前年度同期比109%、第1四半期からの9カ月累計(2024年4〜12月)で同102%と伸長した(図1)。
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業種別では、エンタープライズビジネス(製造業などの産業や流通・小売)が前年度同期比107%(9カ月累計で同105%)、ファイナンスビジネス(金融・保険)が同104%(同106%)、パブリック&ヘルスケア(官公庁・自治体・医療)が同111%(同95%)、ミッションクリティカル他が同110%(同110%)となった。
この受注状況について、同社 代表取締役副社長CFO(最高財務責任者)の磯部武司氏は会見で次のように説明した。
「全体として、非常に高い受注水準だった前年度同期を上回ることができた。2022年度(2022年3月期)を起点とした9カ月累計のCAGR(年平均成長率)は、この2年で9%の伸長が続いている」
業種別には、「エンタープライズビジネスはDX(デジタルトランスフォーメーション)やSX(サステナビリティトランスフォーメーション)関連、基幹システムのモダナイゼーション案件などが継続して拡大し、製造、流通など幅広い範囲で活況が続いている。ファイナンスビジネスは、金融機関向けの基幹システムの大型更新商談を複数件獲得し、高水準だった前年度同期の実績を上回った。2022年を起点としたCAGRで見ると15%の伸びを示している。パブリック&ヘルスケアは、第3四半期でパブリック系の基幹システム案件を複数件獲得し、高水準だった前年度同期と比べても111%と大きく伸長した。一方、9カ月累計で見ると、前年度上期に複数年にわたる大型案件の獲得があった反動もあって前年度同期を下回った。ミッションクリティカル領域も第3四半期でクラウド商談など複数の大型案件を獲得した。CAGRでも19%と高い伸びが続いている」とのことだ。
2025年の国内IT需要の見通しについて同氏は、「全体の大きな傾向として国内のIT需要は引き続き拡大すると見ている。当社における商談パイプラインや第4四半期(2025年1〜3月)の受注の動き、積み上げてきた受注残高などから、2025年も拡大基調は続くだろう」との手応えを示した。
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●「堅調なトレンドに不安要素はない」(NEC)
NECが2025年1月30日に発表したITサービスにおける第3四半期の国内受注状況は、全体で前年度同期比9%増となった。9カ月累計の数字については明示していない(図2)。
業種別では、パブリックが前年度同期比36%増と大幅に伸び、その他も同16%増だった一方、エンタープライズは同11%の減少となった。エンタープライズの内訳では製造が同13%増と伸びたものの、金融が同23%減、流通・サービスも同10%減となった。
この受注状況について、同社の藤川 修氏(取締役 代表執行役 Corporate EVP 兼 CFO)は会見で次のように説明した。
「第3四半期は全体として前年度同期比9%増と堅調に推移した。業種別では、パブリックが自治体標準化案件の獲得などにより引き続き非常に大きな伸長となった。エンタープライズは前年度同期の受注水準が非常に高かったことから、その反動減でマイナスの伸びとなっているが、商談パイプラインは引き続き旺盛な状況だ。製造は選別受注が一巡し、DX関連の案件が増えたことで好調に推移している」
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2025年の国内IT需要の見通しについて同氏は、「パブリックについては第4四半期も好調に推移し、その先も大型を含めた複数の案件を獲得できる見込みで、2025年で見ても同様のトレンドが続くだろう。また、エンタープライズについても商談パイプラインは旺盛で大型案件の話も出てきているので、伸び率は今後上がっていくと確信している。そうした当社の状況から見ても、2025年の国内IT需要は堅調なトレンドが続く。今のところその流れに不安要素はないと考えている」との見方を示した。
●「IT需要は引き続き堅調に推移する」(NTTデータ)
NTTデータグループが2025年2月6日に発表したITサービスにおける第3四半期の国内受注状況は、全体で前年度同期比2%増の3558億円(9カ月累計で同7%増の1兆2320億円)だった(図3)。
業種別では、公共・社会基盤が前年度同期比18%減の914億円(9カ月累計で同1%増の4812億円)、金融が同17%増の1550億円(同12%増の4166億円)、法人が同11%増の999億円(同7%増の2822億円)となった。同社は2023年7月から持ち株会社のNTTデータグループの下で、国内事業会社のNTTデータと海外事業会社のNTT DATAが活動する形となった。海外事業にはそれまでのNTTグループの海外事業も集約された。
この受注状況について、同社で財務・IRの責任者を務める取締役副社長執行役員の中山和彦氏は会見で次のように説明した。
「国内受注状況については、9カ月累計で全ての業種で伸長しており、全体として堅調に推移している。とくに金融では大手金融機関向け案件や決済・保険向けの大型案件を獲得し、好調を維持している」
国内での業種別の事業環境については図4をご覧いただきたい。
2025年の国内IT需要の見通しについては、別の機会にNTTデータグループ 代表取締役社長の佐々木 裕氏に聞いたところ、次のようなコメントが返ってきた。
「IT需要は国内外とも今後も引き続き堅調に推移すると考えている。需要の見通しについては、国際情勢がどのように影響してくるかがよく話題になるが、今のところIT需要に悪影響を及ぼすことはないと見ている。IT需要の中身としては、DXの動きが本格化し、それに生成AI関連のニーズが高まる。とりわけ企業にとってはAIエージェントをどう活用するかが2025年の大きなテーマになるだろう。その最大のポイントはコストパフォーマンスだ。AIエージェントを企業の成長に生かせるようにするためにも、コストパフォーマンスをしっかりと出せるビジネスモデルを提供できるように考えていきたい」
以上が、第3四半期決算におけるITサービス大手3社の国内受注状況と、それを踏まえた2025年の国内IT需要の行方についての見方だ。
「2025年もIT需要の拡大は続く」(富士通)、「堅調なトレンドに不安要素はない」(NEC)、「IT需要は引き続き堅調に推移する」(NTTデータ)といったように、3社とも2025年の国内IT需要についての見通しは明るいようだ。
最後に筆者も一言申し上げたいが、NTTデータの佐々木氏の発言と内容がほぼ重複するので控えておく。ただ、リスクがあるとすれば、やはり国際情勢だ。さまざまな懸念事項が良い方向へ行くことを願うが、経済のバランスが崩れ、ひいては平和に影を落とすような事態が起こると、IT需要どうこうといった次元ではなくなる。そういうリスクも踏まえながら、2025年は改めて緊張感を持って前へ進みたいものである。
○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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