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メディアを通した情報発信の手段として、企業や著名人らによって行われた記者会見だが、ここ最近、そのあり方や意義について再考が迫られている。
いわゆる「女子アナ上納問題」に関して開催された会見で、参加者をオールドメディアに限ったことに批判が相次ぎ、2度目の会見の開催に追い込まれたフジテレビ。ところがその「やり直し会見」では、フリーランスやウェブメディアに属する一部の記者の暴走により、カオスと化したことは記憶に新しい。
■石丸会見に再評価?
そんななか注目を集めたのが、元広島県安芸高田市長で東京都知事選への出馬経験もある石丸伸二氏だ。
石丸氏はフジテレビの会見以前、地域政党「再生の道」設立の記者会見を開いた際、受け入れメディアについて「都庁記者クラブ加盟社」「登録者数100万相当のネット媒体」などという一定の基準を設けていた。
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この措置は、事実上のフリーの記者たちの締め出しとして批判を受けたが、石丸氏は意に介さず、結果として記者会見は2時間ほどで終わった。さらに石丸氏は2月6日の会見でも、フジテレビの「やりなおし会見」について、「言うまでもなく、多くのマスメディアの方も実感された通り、ひどかった。異論はないと思います」と吐き捨てた。これに一部のネット民から賛同の声が上がったのだ。
「今回の『やりなおし会見』があまりにひどかったため、Xでは石丸さんの会見が見直されたかたちです。最近だと、2019年の吉本興業闇営業会見や、2023年の旧ジャニーズ性加害会見がありますが、今回の会見で強烈にあぶりだされたのが、記者たちのモラルの欠如です。ジャーナリストなんてどんな奴でも名乗れますからね(笑)。
2001年に長野県知事だった田中康夫氏が『脱記者クラブ宣言』を打ち出して以降、政治家や企業の記者会見はいわゆるオールドメディア以外にも門戸が開かれるようになった。しかし、フジのやり直し会見と石丸会見は、そうした流れに歯止めをかける結果となった」(全国紙社会部の記者)
■サンドバック状態も広報的には成功
一方で、10時間超におよんだ会見を行ったことによって、フジテレビにとっては意外なプラス面がもたらされた。やつれた様子の港浩一社長(当時)ら登壇者5人に対して、Xでは「おじいちゃんたちかわいそう」「カスハラだ」「リンチのよう」などと同情するポストが目立ち、フジテレビ擁護論が沸き上がったのだ。一時は「トイレ休憩」「トイレ大丈夫」というワードがXでトレンド入りした。
「フジテレビはこの同情を狙っていたわけではないと思いますが、世間の風向きが『フジテレビけしからん』から『記者けしからん』になったことは確かで、その意味では危機管理広報としてある意味成功です。今後、不祥事を起こした企業の会見では参加者を制限せずに時間無制限でやってみて、あえてサンドバックになっている姿を世間にさらすという手もありかもしれませんね」(危機管理が専門のPRコンサルタント)
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今回の「やりなおし会見」では191媒体ものメディアが集まったが、会場キャパシティの点でも、このような大規模の会見が可能なのは一部の大企業などに限られるだろう。
「やはり記者会見は参加者の条件に一定の制限を設けるのが現実的でしょう。SNSが発達し、確かに誰でも自分のメディアを持つことができる時代となりました。しかし、メディアを名乗れば誰でも会見に入れるとなれば、今回のような事態を招きます。石丸さんように、例えば『登録者数100万』を基準とするのか。その線引きをどうするのかについては今後議論すべきでしょう」(前出のPRコンサルタント)
■再注目集まる"キャンドル・ジュン方式"
意外なところでは、社会活動家のキャンドル・ジュン氏が2023年6月に行った記者会見にも再注目が集まっている。そこで採用されたのは、質問する記者を会見の壇上で向かい側に座らせ、顔もカメラにさらされる状態にして1対1で対話する方式である。
フジテレビのやり直し会見以降、Xでは「記者会見はキャンドル・ジュン方式一択」「記者も顔を出して正々堂々戦え」「冷静になって記者も攻撃的でなくなるのでは」などというポストも相次いだ。
「壇上に上げられたら、記者も緊張するでしょうからね(笑)。テレビや新聞の記者だって、偉そうに質問していても実際は会社の看板に隠れているサラリーマンですから。
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また、二部制で行うというのもアリでは。例えば第一部を記者クラブ加盟社、第二部をその他のジャーナリストという具合にする。全てをいっしょくたにすると今回のように収拾がつきませんから」(前出の全国紙社会部記者)
新製品の発表からスキャンダルの釈明や謝罪など、記者会見というPRの場は今後も存続するものと思われるが、登壇者だけではなく、取材側の記者の資質も問われることになりそうだ。
文/山本優希 写真/時事通信