風力発電の風車と太陽光発電のパネル=2024年5月、青森県六ケ所村 政府の新たな「エネルギー基本計画」は、脱炭素社会の実現のため、原発と再生可能エネルギーの「最大限活用」を打ち出した。原発は建設中を含む36基のうち14基が再稼働したが、後続は見通せない。再エネは2040年度に最大の電源に成長させる目標を掲げたものの、課題山積で普及が停滞する懸念がくすぶっている。
原発は、11年の東京電力福島第1原発事故後、厳格化された新規制基準の下で廃炉が進んだ。一部は再稼働したものの、今後は老朽化により廃炉となる原発も出てくる。政府は電源確保のため、残る原発の再稼働を加速し、廃炉分の建て替えも推進する方針を打ち出した。
ただ、再稼働準備が整う東京電力ホールディングス柏崎刈羽原発(新潟県)は地元の同意が得られず足踏み状態。他の原発も審査などが長期化している。建て替えは、立地要件を緩和したが具体的な計画はない。
原発回帰の背景には、減少が予想されていた電力需要が、膨大なデータを処理する人工知能(AI)の普及で増加に転じることがある。計画では、23年度に9854億キロワット時だった総発電量が40年度に最大1兆2000億キロワット時に拡大すると見積もった。電力広域的運営推進機関が公表した今後10年間の需要想定によると、新増設によりデータセンターで440億キロワット時、半導体工場で73億キロワット時それぞれ必要となる。
一方、再エネは30年度目標からさらに拡大を目指すが、その普及の切り札とされた洋上風力発電に暗雲が漂う。物価高や円安の影響で建設費が高騰し、採算性が悪化。秋田県沖や千葉県沖の計3海域で風車設置を計画している三菱商事は、24年4〜12月期決算で522億円の減損損失を計上した。日本貿易会の安永竜夫会長(三井物産会長)は「脱炭素目標は持ちながら、(電力の)安定供給、コストをどう両立させるか難しい局面に差し掛かっている」と指摘する。