DeNA“312億赤字”から“157億黒字”へ。V字決算の立役者「ポケポケ」人気爆発を生んだ多角化戦略

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2025年02月19日 16:01  日刊SPA!

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 2月10日の東京株式市場で、DeNA(2432)の株価が大きく上昇しました。前日終値と比較して、ストップ高(制限値幅の上限)まで買われ、昨年来高値を更新。東証プライム市場の値上がり率ランキングでも上位に入るという、見事な株価パフォーマンスを記録しました。その背景には、同社が2月7日に発表した2024年4〜12月期の連結決算(国際会計基準)が予想を大幅に上回る内容だったことが挙げられます。最終損益は157億円の黒字(前年同期は312億円の赤字)というサプライズに、投資家やアナリストから「赤字からの大逆転」「V字回復」といった評価が相次いだのです。
 では、いったい何がDeNAの決算をここまで押し上げたのでしょうか。注目されるのは、同社が新たにリリースしたスマートフォン向けゲーム「ポケットモンスター トレーディングカードゲーム ポケット(通称:ポケポケ)」のヒットです。ポケモンカードゲームは子どもから大人まで幅広い層に支持されるビッグタイトルですが、それをスマホで手軽に楽しめるようにしたことで、思わぬブームを巻き起こしています。さらにスポーツ事業でも横浜DeNAベイスターズの観客動員数が好調に推移し、増収増益を後押ししました。

 そこで今回は、DeNAの株価急騰と決算サプライズ、そして鍵を握るゲーム・スポーツ両事業の詳細に迫ります。

◆ストップ高・昨年来高値更新の背景

 まずは2月10日の株式市場におけるDeNAの値動きを振り返ってみましょう。前日の米国株市場が落ち着いた動きを見せる中で、日本株全体もやや落ち着いた雰囲気で始まりましたが、DeNAは朝から大量の買い注文が殺到。その結果、ストップ高に張りつく展開となり、一時は値幅制限の上限をつけたまま取引を終える形となりました。終値は当然ながら前日比で大幅高となり、出来高も急増。単なる一時的な短期筋の買いだけではなく、業績を見直した長期投資家や機関投資家の買いが入っているとの見方が出来るでしょう。

 この日、DeNAは東証プライム市場の値上がり率ランキングでも上位に入り、多くの投資家の目に留まることになりました。2月7日に発表された2024年4〜12月期の連結決算がきっかけだったわけですが、最終損益が157億円の黒字に転換したというニュースは、赤字続きで苦戦を強いられていた印象があるだけに驚きをもって受け止められました。前年同期が312億円の赤字だったことを踏まえると、実に469億円もの増益幅にあたります。ここまで劇的に業績が変化すると、市場がポジティブサプライズと判断したのです。

◆決算サプライズの主役「ポケポケ」とは?

 今回の急騰の要因として、最も注目されているのが「ポケポケ」です。正式名称は「Pokémon Trading Card Game Pocket」で、いわゆるポケモンカードゲームのスマートフォン版アプリとしてリリースされました。紙のカードを使ったアナログな対戦ツールとして絶大な人気を博しているポケモンカードゲームですが、その世界観やルールをスマホでも違和感なく楽しめるようにアレンジしたことで、瞬く間にユーザー数を拡大。SNSでは「昔集めていたカードの懐かしさがある」「単純にアプリとしての出来が良い」「紙のカードを揃えるのは大変だが、スマホだと簡単に遊べる」などの声が相次いでいます。

 ポケモンカードゲームはこれまでも海外向けにオンライン版が存在していましたが、日本国内で本格的にプレイできる環境は限定的でした。それがDeNAの手掛ける「ポケポケ」の登場によって一気に普及し、ランキングでも上位を維持。課金アイテムである「カードパック」の売れ行きが非常に好調で、リリース初日から収益でトップになるなど人気を確立しました。

 さらに、このスマホゲームの盛り上がりが実際のカード販売にも好影響を与えている点も見逃せません。既存のポケモンカードファンがスマホ版をきっかけに再燃し、リアルカードをコレクションし始めるケースも多いといいます。店頭では品切れが続出し、新弾パックの発売日には長蛇の列ができるなど、ポケモンカード全体の市場拡大に拍車をかけているようです。つまり、デジタルとアナログの双方で相乗効果が生まれたことが、DeNAのゲーム事業を一段と押し上げたのです。

◆ゲーム事業、29%増収で505億円を達成

 では具体的に、どの程度の売上増をもたらしたのでしょうか。DeNAの発表によれば、今回の2024年4〜12月期決算におけるゲーム事業の売上収益は505億円と、前年同期比で29%増を達成。セグメント利益(営業利益に相当する業績指標)は210億円と公表されました。この数字は、かつての主力プラットフォーム「モバゲー」などが伸び悩んでいた時期を考えると、久々に大ヒット作が出たといえる好成績です。

 昨今のスマホゲーム市場は成熟化が進んでおり、新規タイトルのヒットが難しくなっていると言われがちです。そのため、アナリストの多くは「DeNAが新たなビッグタイトルを作るのは容易ではない」と見ていました。しかし、実際にはポケモンという世界規模のIP(知的財産)を巧みに活用し、トレーディングカードゲームという定番ジャンルにアプリ開発で参入することで、スマホゲームに飽きが来たユーザー層や、かつてのポケモンファンを再び取り込むことに成功したのです。

 また、ガチャ依存型の集金システムではなく、カードパックの形式をとることで、ユーザーとしても「コレクションする楽しみ」が増加。これはリアルカードゲームの醍醐味をそのままデジタルに持ち込んだ格好で、「必ずしも強力なカードだけを求めるのではなく、推しポケモンやレアリティなどを楽しむ」という幅広い遊び方を可能にしています。SNS上で「今日は○○のカードを引いた!」と自慢する投稿が頻繁に見られるのも、この仕組みがユーザー心理にマッチしている証拠でしょう。

◆スポーツ事業も大幅増益、ベイスターズの観客動員好調

 ゲーム事業の好調ぶりが目立ちますが、DeNAの決算を支えるのはそれだけではありません。2024年4〜12月期の連結決算発表によると、スポーツ事業でも前年同期比+11.8%となる売上収益264億5000万円を達成しています。具体的には、横浜DeNAベイスターズの主催試合で観客動員数が拡大したことが大きな要因です。

 プロ野球界全体がコロナ禍からの回復傾向にあり、球場の入場制限が緩和された影響も見逃せません。横浜スタジアムに足を運ぶファンが着実に増え、飲食やグッズ販売、関連イベントなども盛り上がりを見せました。DeNAはIT企業としてのノウハウをスポーツ興行に活かし、座席チケットのデジタル販売や公式アプリでの映像配信、さらにはNFTを活用して選手の名シーンをコレクションするサービスなど、さまざまな試みを行っています。

 その結果、ベイスターズのファンクラブ会員数や観客動員数、球団関連のグッズ売上も右肩上がりとなり、スポーツ事業全体の収益が底上げされた形です。投資家やアナリストの間では「DeNAがベイスターズを買収した当初は採算面で懸念されていたが、今では事業の大きな柱になっている」との見方が増えてきました。複数の収益源を持つことで業績の安定化が進む点は、DeNAにとって大きな強みといえるでしょう。

◆アナリスト予想を大きく上回った最終損益

 2月7日に発表された決算内容に戻ると、最終損益が157億円の黒字でした。この数字がいかに大きなサプライズだったかは、アナリスト予想の平均値との比較でわかります。QUICKコンセンサス(4社ベース、1月23日時点)によれば、当時のアナリスト予想平均は65億円の黒字程度でした。実際にはその倍以上の黒字幅を叩き出しており、市場にとって「これは予想外の好決算だ」というインパクトが強かったわけです。

 この予想を大きく上回った背景には、先述したように「ポケポケ」のヒットによるゲーム事業の収益貢献が大きいとされていますが、スポーツ事業やその他の事業にもコスト削減や構造改革の成果が出てきていると考えられます。DeNAは近年、モバゲーなど従来のソーシャルゲームやプラットフォームに偏重しすぎないよう、多角化戦略を進めてきました。AI・ヘルスケア分野への投資やモビリティへのチャレンジなど、さまざまな領域で新しい収益の芽を育てています。こうした取り組みが徐々に花開きつつあるといえるでしょう。

◆売上収益1167億円、12%増のワケ

 決算発表資料によると、DeNA全体の売上高に相当する売上収益は1167億円で、前年同期比12%増という結果になりました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響が徐々に緩和され、消費活動が回復に向かう中で、ゲーム事業やスポーツ事業が効率的に収益を伸ばしたという構図です。

 特に、スマホゲーム市場はコロナバブルがひと段落したと言われる反面、質の高いタイトルはしっかりとユーザーを掴んでいる状況があります。ポケモンという世界的なIPを用いた「ポケポケ」のような作品は、その人気が一時的なブームで終わりにくく、長期的にファンをつなぎとめる可能性が高い点が強みです。イベントやアップデート次第で売上を積み上げていける点も大きいでしょう。

 さらに、コロナ禍で打撃を受けていたプロ野球の観客動員ビジネスが回復傾向にあり、ベイスターズの主催試合の売上が拡大したことも、DeNAの全体収益を底上げした一因とみられています。複数の好材料が同時に揃ったことで、ここまでの増収増益を実現できたというわけです。

◆多角化戦略が奏功、DeNAの経営体制はどう変わった?

 DeNAはもともと、モバイル向けゲームプラットフォームの「モバゲー」で一世を風靡した企業として知られています。しかし、スマホアプリの競争が激化する中で、新作ゲームのヒットを連発することが難しくなり、業績が伸び悩む時期が長らく続きました。その間、他社との協業やライセンス供与で一定の収益を確保しつつ、スポーツ事業への投資を強化してきたのです。

 横浜DeNAベイスターズの買収や球場運営の工夫は、当初は「本当に採算が合うのか」と疑問視する声もありました。しかし、ファンサービスの強化やチーム自体の戦力アップにより、観客動員数を着実に増やし、今では安定収益を生む大きな柱へと成長しました。また、IT企業としての強みを生かし、球場内でのキャッシュレス決済導入やデータ分析を使った選手のコンディション管理など、多面的な取り組みが功を奏しています。

 さらに、DeNAはAI・ヘルスケア領域にも積極投資を行っています。具体的には、高齢化社会に対応したオンライン診療や健康管理サービス、ビッグデータを活用した広告配信やマーケティング支援など、ゲームとは異なる分野での成長を模索してきました。こうした多角化戦略は一朝一夕に結果が出るものではありませんが、コロナ禍を経て社会のデジタル化ニーズが一段と高まったことで、一部事業が追い風を受けています。

 今回の決算で大きく注目されたのは、やはりポケモンという世界的IPを使った大ヒットゲームが生まれたことです。しかし、それは単なる「運が良かった」という話ではなく、長らく蓄積してきたスマホゲーム開発・運営ノウハウ、そしてパートナー企業との密接な連携があってこそ成し遂げられた成果でもあります。「ポケポケ」以外にも、DeNAが今後リリースを予定しているタイトルや、新たに立ち上げるスポーツ関連サービスなど、多角化戦略に基づく成長ストーリーには引き続き期待が寄せられるところです。

◆今後の見通しとリスクは?

 DeNAが手掛ける新規事業(ヘルスケアやAI、モビリティ関連など)は、まだ大きな収益源とはなっていませんが、ゲームやスポーツで得た資金をこうした新分野に再投資し、中長期的な柱を育てたい狙いがあると考えられます。

 足もとでは、株価が急騰したことで割高感を指摘する声もあるかもしれません。短期的には利益確定の売りが出る可能性も否定できませんが、決算の数字自体がアナリスト予想を大幅に上回っていたことを踏まえると、一定の評価は妥当と見る向きが多いようです。今後は、DeNA自身が中期経営計画などを通じて、どのように成長戦略を描くのか、具体的なロードマップを示すことが期待されます。

 いずれにしろ、株価の急騰が一時的な熱狂に終わるのか、それとも堅調な業績と将来性の裏付けがあるのか。これからの展開には注意が必要ですが、一連の決算発表と株価急上昇は、DeNAの底力と今後への期待感を改めて市場に示したことは間違いありません。ポケモンカードゲームをデジタルで楽しめる「ポケポケ」と、コロナ後の盛り上がりを見せるプロ野球界を背景に、DeNAが次にどんな一手を打つのか。投資家だけでなく、ゲームファンやスポーツファンにとっても、目が離せない存在になりそうです。<文/鈴木林太郎>

【鈴木林太郎】
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。 米国株投資がメインなので、主に米国経済や米国企業の最新情報のお届けを心掛けています。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数
X(旧ツイッター):@usjp_economist

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