5G基地局の“海外ベンダー寡占”解消へ 京セラがAIを活用した5G仮想化基地局の開発を本格化

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2025年02月19日 16:11  ITmedia Mobile

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1つの基地局を複数の通信オペレーターで共有し、オペレーターのコストを削減する

 京セラは、AIを活用した5G仮想化基地局の開発について、商用化に向けて本格的に取り組むことを発表した。国内外で培ってきた独自の通信技術と仮想化技術を用い、NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchipを活用した汎用(はんよう)AIデータサーバ上に、基地局機能をソフトウェア(vRAN)で実現する。AIでRAN全体をコントロールすることで、通信品質の向上、省電力化、保守運用の効率化を図り、TCO(Total Cost of Ownership)の圧倒的な削減を目指す。


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 2月18日に行われた説明会では、京セラ KWIC 副統括部長の堀正明氏が概要を説明した。


●O-RAN仕様に責任を持てるベンダーがまだ存在していない


 京セラが開発を進めるAIを活用した5G仮想化基地局には、「MRDC(Multi-Radio Dual Connectivity)」や「MORAN(Multi-Operators Radio Access Network)」の機能を実装。Sub-6GHz帯とミリ波帯の異なる2つの周波数帯に対応した、O-RAN規格準拠のCU/DU/RU(O-CU/O-DU/O-RU)を開発しており、今後、新たな次世代周波数帯が割り当てられた際も、ソフトウェアアップグレードで対応が可能だという。


 また、1つの基地局を複数の通信オペレーターで共有し、通信データを処理することが可能。基地局の設置数を減らすことで通信オペレーターの設備投資や電気料金の削減につなげるという。


 従来の専用vRANは、通信量に応じた最適化調整が困難で、専用システムであるがゆえにサーバのCPUにも無駄が生じる。一方、今回開発するAIデータセンター上のvRANシステムの場合は、「AIが自律的にエリア全体を最適化し、電力の制御も行っていく。また、AIサーバ上の1アプリケーションソフトとしてRANが稼働するため、CPUをシェアリングでき無駄を削減できる」と堀氏は説明した。


 ただ、AIを活用した仮想化基地局に取り組んでいる事業者は多い。堀氏も「われわれのものが特段、特別なものだとは考えていない」と語っている。その状況の中でも、京セラは「TCO削減にこだわる」という。


 また、「O-RAN仕様でAI-RANを実現することに非常に意義を感じている。AI-RANの前にO-RANが業界で採用されるための壁を破っていかない限り、将来がないと考えている。O-RAN仕様に責任を持てるベンダーがまだ存在していないから、キャリアさんに採用されないと考えている。技術を磨き上げて、キャリアさんと一緒になって、キャリアグレードのO-RAN仕様の製品が開発できるかどうかにかかっている」(堀氏)とO-RAN仕様へのこだわりも語った。


●なぜ今、仮想化基地局の開発を本格化するのか


 京セラはなぜ今、5G仮想化基地局の開発に本気で取り組むことにしたのか。堀氏は、通信インフラ業界が「大きな変革期を迎えている」とする。専用RANからOpen-RAN、そしてAIを活用したRAN、Cloud-RANという流れが確実に進むと予想する。


 「特にAIとRANを融合したCloud-RANは、従来の専用RANと全く次元の異なるものになる」と述べ、「プレイヤーが必ず入れ替わる。新規参入のチャンスが近々訪れる」との期待を語った。


 京セラは約5年前からこの開発を進めており、「改めて公の場で、開発を本気でやっていることを発表するに到った」と説明した。ただ、まだ乗り越えるべき壁がたくさんあるとして、商用化の時期は明言しなかった。


 商用化にあたっては、堀氏は「まず国内できちんとして実績を作りたい」と述べる。「それができないと海外に出ていっても、使われていないじゃないかと言われてしまう。まずは国内で技術の磨きをかけ、お客さまに信頼される技術にする」と語った。


 京セラが目指すのは「O-RANのけん引役」だ。現在の基地局市場はグローバルベンダーによってロックインの状態が続いている。「われわれがO-RANの普及推進、そしてオープン化、自由化の実行役を担うことで、この寡占状態が少しでも解消に向かう力になれば」と堀氏は語った。


●通信ベンダー6社と「O-RU Alliance」を設立


 O-RANの普及促進を目指し、京セラと通信ベンダー6社は「O-RU Alliance」の設立も同日発表した。O-RU Allianceは、3月3日から開催されるMWC Barcelona 2025で調印式を行う予定だ。


 O-RU Allianceは、オープン化の推進とエコシステムの共創を目指す。KWIC 無線ネットワーク第1開発部 部長の錦戸正光氏がアライアンス設立の背景を説明した。


 錦戸氏は「O-RUベンダーは、優れた製品を開発しても、通信事業者になかなかに採用していただけない」と高いハードルの存在を示唆。このアライアンス活動を通じてインターオペラビリティ(相互運用性)の向上に取り組むという。


 また、各国の通信事業者によって使用する周波数が異なっていたり、設置する場所によって必要とされる基地局のタイプが異なったりということがある。O-RUのグローバル展開の際には「いろいろなO-RUが必要で、基地局のラインアップの拡充が非常に重要」との考えから、アライアンス活動を通じてラインアップ拡充に対応していきたいと語った。


 なお、京セラはソフトバンクなどが設立した「AI-RAN Alliance」にも参加している。堀氏は「(AI-RAN Allianceが)競合とは思っていない。O-RAN仕様のものを普及させていきたいと思っているので、力を合わせてやっていく関係になりたい」と述べた。


●9年ぶり6回目のMWC出展


 説明会では最後に、京セラがMWC Barcelona 2025に出展することも紹介した。京セラのMWC出展は、2016年以来、9年ぶりとなる。以前は端末事業を中心とした展示を行っていたが、通信インフラ機器事業としては初出展となるという。


 京セラブースでは 「No Border, Go Bolder.」をテーマに、AIを活用した5G仮想化基地局技術やミリ波を用いたソリューションの紹介、Phased Array Antenna Module(PAAM)を用いたマルチビームフォーミングのデモを行う予定。O-RU Allianceに参画している各ベンダーの製品も展示され、機能や性能を確認することもできるという。



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