木戸大聖&広瀬すず&岡田将生/photo:田中舘裕介広瀬すず、木戸大聖、岡田将生が共演を果たした映画『ゆきてかへらぬ』。同作で、広瀬は女優の長谷川泰子を、木戸は詩人の中原中也を、そして岡田は文芸評論家の小林秀雄と、それぞれが実在した人物を丁寧に演じた。
泰子は中也と恋仲になるのだが、中也の分筆の才を見出す小林が加わったことで、その関係は3人でしか成り立たないアンバランスさをはらみ進んでいく。泰子は中也と小林の才気に嫉妬し、中也は小林に傾く泰子に執着を見せ、小林は二人とうまくやろうとしながらも振り回され、3人が3様に溺れるのだ。
『ゆきてかへらぬ』とは「後戻りすることのない」という意味。刹那と情愛が交差する先にあるものではなく、その稀有な関係性を観客は見つめる。
シネマカフェでは、広瀬、木戸、岡田に演じたトライアングルの関係についてインタビューを実施。さらに、劇中で描かれる大正〜昭和初期の“スマホがない時代”にまで思いをはせてもらった。
演じたのは「実在の人物」その人柄を分析
――『ゆきてかへらぬ』では実在の人物を演じられましたが、それぞれどのような人柄だと捉えて臨みましたか?
広瀬:泰子は女優になるという夢を見ているけど、中也と小林という二人の天才に出会って、その才能には勝ることができずにいる女性です。自分が成功しなかった分、天才といると自分が削れるような、何か欠けていくような感じを受けていました。
二人への依存というか執着がどんどん出てきてしまい、マインドコントロールがあまり上手にできない感じが魅力的でもあったし、危うさがちゃんとあって。そこにちょっと色っぽい瞬間もある、不思議なバランス感の持ち主だなと思いました。
木戸:僕が演じた中原中也は、今も支持されている天才詩人です。調べていくと、目上の人にガツガツいったり傍若無人な性質もあるけど、ちょっと孤独なところもある人間でした。でもこの二人と出会ったときに、強く見せかけているけどその孤独をわかってくれると感じた気がするんです。繊細かつ、すごくストレートな人なんだなと思っていました。
岡田:根岸監督から小林さんに関する資料をたくさんいただいて読んだところ、とにかく破天荒だったのが印象的でした。たくさんの逸話を持っている人ですけど、なかなかつかみきれない人物で。この作品に関しては、特に中也を目線から外さないようにするということが、役作りにつながっていったのかなという感じです。
二人の心をつかんだ泰子の魅力
――中也と小林という二人の心をつかんだ泰子ですが、泰子の魅力はどこにあると思いましたか?
木戸:自分自身として考えると難しいんですが、中也としてだと、やっぱり自分の詩を支持してくれたこと、自分の詩が生まれる根源となってくれたというか、エネルギーとなってくれたところかなと思います。それは小林さんに対しても同じかもしれなくて、二人は中也にとって欠かせない存在だったんだろうなと。
泰子はそもそも隣にいるときだけでなく、小林の元に泰子が行って喪失感に襲われているときも、その存在自体がいろいろな詩を生むための引き出しになってくれた気がします。中也にとっては生きていく上で、詩をつかまえる上で本当に欠かせない存在だったと思います。
岡田:泰子はセンシティブな部分を持っていましたけど、人間としてたぶん目が離せないくらい魅力的ではあったと思います。一緒の空間にいると、どうしたってフォーカスがそちらに合ってしまうというのは、言葉にはできないけどあったんじゃないかなと。
あと、小林さんは泰子の芸としての才能を認めていることがおそらく前提にあって、さらに中也の才能は誰よりも小林さんが一番理解していたんですよね。その二人の関係を崩すことによって、中也も泰子の才能も、もしかしたらまた違う形で開花するんじゃないかと考えていたのかなと…そう思った瞬間はありました。
――演じられた広瀬さんご自身は、泰子の魅力をどう思っていましたか?
広瀬:魅力なのか、こっちの執着を押しつけているのかは分からないですけど…何かあるんでしょうね。
岡田:言葉にできないよね。
木戸:ね、難しいよね!
広瀬:うん。ほかにいない、なかなか出会わないタイプというか。その醸し出している何かが色っぽさや危うさに繋がったり、いろいろなものの色が一瞬で変わるような何かを持っていて。自分自身でも、どれも本当だから「こういう人」みたいなものにハマっていない人だなと思いました。そういうエネルギーの醸し出しもあるんだなあと感じましたね。
3人は「足りないものを補って埋め合っている」
――いびつなようでいて、この3人だからこそ成り立っている絶妙な関係を、皆さんはどのように感じていたんでしょう?
広瀬:今思えばですけど…カオスだなって思うようなシーンがいっぱいあります(笑)。泰子は人の感情で心が埋まっていたいというか、求めて返ってくる人に執着してしまっていたんだろうな、と。なんか…女優の仕事も同じかもと思うんです。人の感情で発信したり演じたりするので、すごく似ている感覚でした。
人のぬくもりじゃないけど、触れていることで生きている証明をしているような意思表示の仕方をしていて。最初はそれに巻き込まれているように見えていたんですけど、思ったより二人も結構ぶっ飛んでいるから、みんなで埋め合って埋め合って執着しているような。だからたぶん脆いんでしょうね。
木戸:“三角関係”みたいなことより本当に“三角”という感じで思っていました。トランプピラミッドってあるじゃないですか。あれとすごく似ているのかもしれない。1個1個の軸はすごく不安定だけど、上手い具合にバランスが取れているから、そこに三角として立っているというような。ちょっとつついたらカタっと崩れちゃうところは、3人の関係性とすごく似ていると思いました。だから一人では何か足りないと自分たちも分かっているし、それを補って埋め合っている関係性なんだろうな、と。
岡田:僕はボートのシーンの座り位置で、3人の関係性がものすごくわかるから素敵だなとずっと思っていたんです。
中也と泰子さんが向き合っているようで、意外と向き合っていなくて。間に小林さんがいて、小林さんも泰子さんも向き合っている。その3人の関係性がとても素敵だなと思いながら撮影していました。ボートでの座り方や位置が、この3人の人間性を表しているんだなと感じていたので。
木戸くんがトランプの話をしていましたけど、小林さんの目線から言うと、テトリスをしている感じに思っていました。僕は積み上げていくタイプで、ガチガチにハマっていかなかった、どんどん積み上がっていくという。それをあえて楽しんでいるのか、悲しんでいるのか、わからない。そんな感覚で捉えていました。
「不便」を楽しむ
――舞台となる大正〜昭和初期は、スマホもなく家に音楽も流れていないような静けさがあり、令和とはずいぶん感じが違います。今と比較してどんな風に感じましたか?
広瀬:今の時代は、便利は便利ですよね。
木戸:ね、確かに。
広瀬:嫌な世界でもあるけど便利でもあるし。この時代のように何もないと、本当にここ(自分)としか向き合う時間がないのかもしれない。そう思ったら、ちょっと追い詰められるような感覚になるというか。世界が狭く感じるのかもしれなくて、それは良くも悪くもだと思うんですよね。
岡田:でもなんか、割と(3人とも)不便を楽しめる人たちだと思います。
広瀬&木戸:うん!
――岡田さんも不便を楽しめるタイプだと?
岡田:結構好きです、何もないっていうのが。静かなところに生きていたい気持ち、意外とあったりします。
木戸:え、普通に好きそう。
広瀬:意外とかないですよ?
岡田:一応言ってるの(笑)。うるさいところが苦手で。
木戸:年を重ねるたびに、僕もそうなっている気がします。ガヤガヤした音が、どんどん無理になっていってる気がする。
広瀬:へえ〜、私は逆かも。年々、聞こえなくなってくる。勝手にシャットダウンできるのかなあ。
――広瀬さんは、音があっても気にならないような感じなんですね。
岡田:台本(覚え)とか、どうしてるの?
木戸:あ、気になる!
広瀬:覚えるときはテレビを見ながらも全然覚えられるし、お風呂場で覚えたりもします。携帯で台本データを見れば、それを見て覚えられるから。
木戸:それ現場でめっちゃ思った!
広瀬:そうそう。湯船だけはゆっくり入りたいので、時間がないから湯船で覚えて…って同時進行でやってる。環境とかよりも、自分が整っておけば結構何でも良くなってきました。
――木戸さんと岡田さんはいかがですか?
岡田:長期間タイプ。
広瀬&木戸:へえ〜!
岡田:なので、ゆっくりゆっくり。映画だと撮影に入る前に時間があるので、そうすると台本をいただいたときから覚えて、全部覚えてからクランクインする。
木戸:全部ですか!?
岡田:基本的に8〜9割ぐらいは初日の段階で覚えてる。そうすると撮影中は覚えることじゃなくて、相手にずっと集中できるから。そういう時間の使い方をしますかね。
広瀬:集中力が長いんだ!
岡田:いや、短いんだよ。
広瀬:私は短期集中型だから。
木戸:わかる! パッと覚えて、「OK」の声が出ると午前中に撮っていたのがすでに抜けていってる感覚で。
――木戸さんは広瀬さんタイプなんですね。
広瀬:木戸くんは柔軟にできそう!
木戸:いやあ、僕は2日前とかから外でブツブツ言ってるタイプ。すずちゃんは本当に感覚的に(台詞が)入るのが早そう。
岡田:それ、朝ドラやったのがあるんじゃない?
広瀬:もしかしたら朝ドラじゃなくて、10代のときにやった連ドラで、毎週10何ページの台詞があったからかも。覚えられちゃって、苦じゃなかったの。
木戸&岡田:すごい!
広瀬:結構覚えられる人なのかもしれない。興味があるものにはうわーって(向かって)なって、終わっちゃったらわーって(忘れる)!
全員:(笑)。
岡田:みんな違うんだね、いいね(笑)。
▼広瀬すず
・スタイリスト:丸山晃(Akira Maruyama)
・ヘアメイク:奥平正芳(Masayoshi Okudaira)
▼木戸大聖
・スタイリスト:佐々木悠介(Yusuke Sasaki)
・ヘアメイク:石邑麻由(Mayu Ishimura)
▼岡田将生
・スタイリスト:大石裕介(Yusuke Oishi)
・ヘアメイク:細野裕之(Hiroyuki Hosono)
(text:赤山恭子/photo:田中舘裕介)