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神奈川県在住の60代男性・Fさんは若いころ、ひとりで北海道東部へ旅に出た。
その日の目的地は、今ではラッコの繁殖地として人気の霧多布岬。
1日1本しかないバスに乗り、岬へ向かったのだが......。
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<Fさんからのおたより>
多分1980年の冬、当時21歳だった私は北海道の東部地域を一人旅していました。
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その日は、1日1便しかないバスに乗って霧多布岬へ。
最初はかなり乗っていたお客もどんどん降りて、霧多布につくだいぶ前から乗客は自分ひとり。運転手さんは時々車内ミラーでこちらを見ていました。
バス運転手に下車を止められて...
次が霧多布岬のバス停になったので降車ボタンを押し下車しようとしたら、運転手さんが言いました。
「降りないほうがいい。このバスが最終でもうバスは来ないよ」
自分は「バスがないのは分かっている、ヒッチハイクで街に戻るつもりだし車が来なかったら歩きます」と答え降りようとしました。
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しかし運転手さんは「この道は自家用車もほとんど通らないし、町まで16キロもあるから降りないほうが良い、今はもう午後3時冬の北海道はすぐ夜になるよ」と料金箱を手で押さえバス代が払えないようにして説得してくるのです。
自分は、「お客が降りると言っているのに降ろさないなんて」と怒りがわいてきて運転手さんの手を払いのけて料金を入れて下車しました。
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そのまま霧多布岬にむかって歩きました。バスはそのまま停車していました。
時間調節でもしているんだろうと思ってどんどん歩き、バスが見えないところまで行きました。
しばらくして、発車したバスの後ろ姿が見えました。
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「変なバスだ」と思った自分の目の前に、美しい岬の雪景色が現れました。雪には足跡もなくこの地に来る人はほとんどいないようだな、と思ったとき、その看板を見つけました。
看板に書いてあったのは...
看板は「いのちの電話」の案内でした。自殺を思いとどまって欲しいという旨が書いてありました。
その時、あの運転手さんが何とか自分を降ろさせないようにしたのは自分の命を心配してくれたんだということに気づいたのです。
それなのに自分は何も知らず、手を払いのけ「降りるんだよ!」と語気を強め怒ってしまって......。
あの時の運転手さん、ごめんなさい。心配してくれたのにひどい対応をしてしまいました。本当にごめんなさい。
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わたしはその後、霧多布岬を去り、国道を歩き浜中の町に向けて歩きだしました。
民家は全くなく歩行者はもちろん1台の車も通りません。時間は午後3時を過ぎて冬の北海道の冷たい風が強まってきました。
30分歩いても本当に車が1台も来ない。バスの運転手の言う通りだと思っていたら前方から乗用車が1台やってきました。
反対方向へ行く車、そのままやり過ごしたが...
残念ながら反対方向なのでやり過ごし、車はそのまま走り去りました。
しかし、自分の歩いてきたカーブを過ぎた先でUターンしてきたのです。
「あれ?さっきの車だよね」と思っていたら、自分の横で止まり、「どちらまでですか?」と声をかけられました。
「浜中の駅のほうに行こうと思っているんですが......」と私。するとその人は、こう言ったのです。
「あ〜丁度よかった、自分も浜中の駅に用事があるんですよ、どうぞ乗ってください」
「今、浜中のほうから来ましたよね」と言おうと思ったのですが、あまりのありがたい申し出にそのまま甘えさせていただきました。自分がなぜあんなところを歩いていたかなどは一切聞かれず、暖かい車内で旅行の話や地域のグルメなどのの話をたくさんしてくれました。
そして私を浜中駅前に降ろすと来た道を引き返していきました。
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自分のためにわざわざ少し走りすぎてから戻ってきて、用もない駅まで乗せてくれた方、本当にありがとうございました。車種もお顔も思い出せませんがあの時は本当に助かりました。
その後私は東京で中学校の教員になり、この話をたくさんの生徒にしてきました。
人には優しくしてほしい。受けた恩はその人には返せなくても、別の人に返していこうと伝えてきました。今日、偶然投稿のチャンスがあったので送らせていただきます。
ありがとうございました。
誰かに伝えたい「あの時はありがとう」、聞かせて!
名前も知らない、どこにいるかもわからない......。そんな誰かに伝えたい「ありがとう」や「ごめんなさい」を心の中に秘めている、という人もいるだろう。
Jタウンネットでは読者の皆さんの「『ありがとう』と伝えたいエピソード」「『ごめんなさい』を伝えたいエピソード」を募集している。
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(※本コラムでは読者の皆さんに投稿していただいた体験談を紹介しています。プライバシー配慮などのために体験談中の場所や固有名詞等の情報を変更している場合がありますので、あらかじめご了承ください)