
民放のテレビ放送を構成する一大要素であるCM。
スポンサー企業の提供するサービスや商品を宣伝せんがためのものであることは言うまでもないが、昭和から平成の中頃まではそんな中にも単なる広告を超え、芸術の域に達したと評される名作が多々あった。
今、SNS上で大きな注目を集めているのは映画監督、脚本家の佐々木浩久さん(@hirobay1998)によるこんな投稿。
「CM制作会社の社長と話をして、なぜCMがつまらなくなったか?を聞いた。『フィルムで撮っていた時代はCMディレクターの個性が活かせた。プロの仕事に代理店やクライアントがあまり口出さなかった。デジタルになって作品ではなくコンテンツ扱いになり、修正がどんどん可能になって商品の説明中心になったから、コストのかかる短編映画のようなCMは作られなくってしまった』とサントリーウィスキーなどのCMを例に出して話してくれた。」
|
|
アナログからデジタルに移行する中で業界の構図が変わってしまい、制作に関してある意味で専門家とは言いかねる人々の意見が及ぶようになってしまったということだろう。かつては一見なんのCMかわからないほど芸術的だったり哲学的だったりするが、最後にロゴが出て「ああっ」と納得できたり、最後までわからなくともそれ自体が作品として評判になることでスポンサーの認知に繋がるという例が多々あった。しかし、現代ではそんなCM制作は望むべくもない。
佐々木さんにお話を聞いた。
ーー制作会社社長との会話がこのテーマになった経緯は?
佐々木:新年会の席で、近況を互いに話している時でした。自分としてはそれもあるけど、CM自体の価値が現在と過去では変わってしまったのだと思いました。具体的にはCMに文化を求めていた時代と、商品を売るだけのコンテンツになってしまった時代と。
ーー佐々木さんはどんなCMがお好きですか?
|
|
佐々木:サントリーオールド「夜が来る」です。小林亜星作曲の曲がいいですね。あと金鳥のキンチョールで郷ひろみさんが出ていたのも良かった。郷さんが怪しい宗教家で「ムシムシコロコロキンチョール」と言いながら街の人を洗脳していくんです。商品名を口ずさんではいるんですが、それが殺虫剤であることは説明していないんです。
昔のCMはサントリーオールドもキンチョールも、皆が知ってる商品をいかにインパクトを持たせ衆知するかだったので、敢えて商品説明を省いてもいかに印象に残すかが大事だったのだと思います。今はそのような余裕が企業にも、受け入れる視聴者にもなくなってしまったのではないでしょうか。
ーー…
佐々木:反対に、別の投稿にも書きましたが、1980年代、広告が作品だった時代と、セゾングループがデパートやショッピング施設にアート系のミニシアターを作って文化事業を広げていた時期が重なるのはただの偶然ではなかったのかもしれません。大衆のハイブロウな意識を刺激することが購買意欲を高めることにも繋がっていたのではないかと思います。
◇ ◇
|
|
SNSユーザー達から
「日曜洋画劇場のCMは、各社が本編に負けないクオリティを競っていたような、見事なCMが多かったですね。化粧品のCMもオシャレで、各社ともCMソングも大ヒットしてたし、力の入れ方がすごかった時代です。」
「広告写真も、デジタル化で環境が大きく変わりました。デザイナーやクライアントが、PCモニタの前に座って『ここをもっとこう』、『そこをもう少しアレして』と指示をする。カメラマンの個性を出す機会が少なくなり、『タイミング良くシャッターを押すだけの、ただの人』になりつつあります。」
「一番は『テレビを見てる人のIQの中央値が低下したから』だと思ってる。芸術性やユーモア、ウィットが通用するのって、それなりに知能がある人達なんだろうけど、彼らはもうテレビを見てない。」
など数々の共感の声が寄せられた佐々木さんの投稿。読者のみなさんにとって心に残るCMは存在するだろうか。
佐々木浩久(ささき・ひろひさ)さんプロフィール
映画監督、脚本家 1961年北海道生まれ。北海道工業高校卒業後、北海道大学映研、自主上映団体ビーチフラッシュに所属しながら山崎幹夫らと自主制作団体「映像通り魔」に参加。1994年松浦理恵子の純文学作品の映画化「ナチュラルウーマン」で長編劇映画の監督としてデビュー。1995年度シナリオ作家協会ベストテン選出。2000年、脚本家の高橋洋と温めていた待望の企画「発狂する唇」を監督。カルト・ムービーとして絶大な人気を呼び、テアトル新宿のレイトショー動員記録を更新。2002年、続く第2弾「血を吸う宇宙」で再び同館週間記録を塗り替える。2004年から参加しているBS-TBSの連続テレビドラマ「ケータイ刑事シリーズ」では最多演出記録。2012年からは日本映画大学講師を務める。
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)