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連続テレビ小説『おむすび』(NHK総合ほか)、今週は第20週「生きるって何なん?」が放送された。胃がんになった聖人(北村有起哉)は手術の成功により一命をとりとめる。執刀医の蒲田(中村アン)は愛子(仲里依紗)、歩(仲里依紗)、結(橋本環奈)に対し、術後、経過観察を続けて5年後に再発していなければ完治だと説明した。聖人は自らの人生を改めて見つめ直し、支えてくれる家族に感謝しながら一日一日を大切に生きると心に誓う。
【写真】プロの管理栄養士として聖人に食事指導を行う結(橋本環奈)
2月21日に放送された第100回では、聖人の術後の病院食の変化や、管理栄養士である結による食べ方、噛み方の指導の様子が具体的に描かれた。とりわけ結が聖人に言った「よく噛む。これはもう一生続けていこう」という台詞が説得力を伴って響いた。胃がん患者が手術後にどんな食生活を送り、どんなことに留意すべきなのか。病と共にどう「生きていく」のか。それを主人公の父の大病という局面で描くことで、頭と心にスッと入ってきた。
今週の作劇について、制作統括の宇佐川隆史さんと真鍋斎さん、第20週の演出を担当した松木健祐さんに話を聞いた。
「人と人がどう生きて、支え合っていくのか」
松木さんは「20週はすごくパーソナルな週になった」と語り、こう続ける。
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「社会的課題とか、『栄養とはなんぞや』というような難しいことではなく、自分が今、がんになったらどうするんだろう、家族になんて言うのかな、とか。『生きる』ということを改めて考え直したときに、自分は今まで何を大切にしてきたのか、これから何を大切にするのか、とか。いろんな問いかけができる週になったのではないかと思います。視聴者の皆さんにも、どこかしらをご自身と重ね合わせて見ていただけていたらうれしいです」
「生きるって何なん?」という問いかけがなされる20週から、物語は最終章に突入した。宇佐川さんは、
「最終章では、管理栄養士としての結の仕事ぶりとともに『人と人がどう生きて、どう支え合っていくのか』という、このドラマが繰り返し描いてきたテーマが集約されていきます。管理栄養士というのは食事管理だけではなく、患者の人生に寄り添う仕事なのだということがわかるシークエンスになっていると思います」
と語る。
真鍋さんは、最終章の導入に聖人の病のエピソードを配置した理由について、
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「『がん』というと、ひと昔前までは生きるか死ぬか、闘病のほうにスポットが当たることが多かったと思います。しかし昨今では、人によっては完治する病にもなってきていますので、聖人自身と米田家の人々が『生きること』『命』とどう向き合っていくか、そちらをテーマにしようと考えました」
と話した。
管理栄養士は「わかりやすいイメージ」がない職業
また、聖人の入院生活を通じて、管理栄養士としての結の日常業務を描いた作劇については、
「私見ですが、色々な栄養士の方々に取材をしてみて、栄養士って社会的コンセンサスが薄い職業なんだなという印象がありました。もちろん、我々の生活の様々な場面で活躍されているのですが、たとえば弁護士なら弁護士、パイロットならパイロットに対する『みんなのイメージ』というものがある。でも管理栄養士は、普段いったいどんな仕事をしているのか、ガバッと簡単に掴み取れるような職業ではないと思いました」
「第18週、19週はいわば“説明”のターンで、病院の中で管理栄養士は何をやっているのかということを、ときには『コーナー』的に見せつつ描くという試みをしました。下地がある程度できたところで、20週では管理栄養士が『個別の患者にどんなアプローチをしていくのか』を描写しています。聖人の入院と手術は、それを見せるいい機会だと考えました」
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「『管理栄養士編』に入ってからは、どのくらい説明が必要なのか、その上で精神的かつドラマ的な部分をどう描いていくか、バランスを取るのが難しいところではありました。20週は、結の普段の仕事ぶりが垣間見えるように意識しています。父親だからではなく、あくまでも『対患者』として結は淡々と、一つ一つの業務をこなしていく。その営みの中からエモーショナルなものが生まれてくる、といったところを狙いました」
と真鍋さん。
加えて宇佐川さんは、
「『管理栄養士編』では、どういう順番で結の仕事を見せていくかということを、脚本家の根本ノンジさんをはじめスタッフで考えて作っております。父親だから特別というわけではなくて、第100回で結が聖人に対して行った指導や説明は当然、普段から他の患者に対しても同じことをやっているわけです」
と意図を明かした。
次週「米田家の呪い」では、これまで「人を助ける」「人を支える」とはどういうことなのかを問い続けてきた本作の、ひとつの答えが出されるという。
(まいどなニュース特約・佐野 華英)