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【写真】浅野忠信×大森南朋、黒ジャケで合わせたスタイリッシュな2ショット
■大森南朋「浅野くんの真似をしちゃダメ」が合言葉
――同じストーリーでありながら、前後半でまったく違うテイストで演出される物語のなか、刑事役として出演したお2人ですが、とても息がぴったりでした。これまでも長く共演されていますが、お互いをどんな存在だと思っているのですか?
大森:本当に長いですからね、僕らは。僕ら世代からいうと浅野くんは、早くからトップにいた人なので。それでやっと少し近づいたかなと思ったらアメリカ進出して。最初からまったくブレていない。浅野くんにしかできない芝居をする。当時僕らのなかで「浅野くんの真似をしちゃダメだ」というのが合言葉でした。浅野くんを目指している子たちはみんなダメになっている。それぐらい憧れの俳優でした。
浅野:いやいやそんな……。大森さんは今回もそうですが、前作の『首』のときも、めちゃくちゃ頼りになる方。大森さんは無謀な球でもキャッチしてくださる。僕はセリフがぶっ飛んでしまったりすることもあるのですが、大森さんが全部包み込んでくださるので。本当に頼りになる方です。
――本作では、後半部分でかなりパロディというか、笑いの部分を演じることになりました。
大森:居酒屋で人を笑わせるのとはわけが違いますので。しかもお笑い将軍のような北野武さんの前でやるわけですからね。僕らはたけしさんの番組を見てきたので、台本からどういうことをやりたいのかを読み取ろうとするのですが、プロの芸人ではないので、かなり悩みました。悩んでいるうちに撮影が終わってしまった感じです。それでも現場に立てたことはものすごく楽しかったし光栄でした。
浅野:本当にずっと『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系)とか『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)とかを見てきた世代なので、たけしさんの前で「笑い」をやるのは大変なことですよね。ちゃんとお笑いの方から勉強してから臨みたかったというのはありますが、そんなチャンスをいただけたというのは、すごく光栄なことでしたね。
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浅野:後半パートで、僕と大森さんが「このビルにいるからちょっと行ってこい」と言って、たけしさんが車から降りて出て行ったところがありましたよね。そのときたけしさんは覆面を被っていて、僕らが「覆面はやめろ!」って声をそろえて言うシーンがあるじゃないですか。そのときたけしさんが覆面を被ったままあるポーズをとる。あれは本当に予想外だったんです。いきなりやられて。あれを見たとき僕は完全に素になりましたね「あっ、ビートたけしだ!」って(笑)。
大森:そうそう、たまにビートたけしさんになるんです(笑)。
浅野:そうなんです。ずっと現場では北野武監督としているのですが、急にビートたけしさんになるんですよ。「あれ、いままでの北野武監督はどこに行っちゃったんだ」って。でも近くでたけしさんのコミカルな芝居を見られるなんて、本当にラッキーです。
大森:僕は車の中で、浅野くんと僕が盗聴しているとき、屋根に頭をぶつけるシーンがパロディパートにありますが、あそこはたまらなかったですね。結構な中堅俳優が一生懸命タイミングを合わせてぶつけるという(笑)。唯一あそこのシーンだけ、監督から「もう1回やろうか」って言われまして……。そのときの状況が結構おかしかったですね。
浅野:本当にいろいろなことを一生懸命やりましたよね。もう一生懸命やるしか手段がない。下手にウケを狙おうみたいなことは本当に通用しないんですよね。真面目にやるしかないんです。
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大森:そうですね。だから失敗したのかどうかも分からない(笑)。その代わり、たまにカットがワンカット増えたりすることがありました。そうさせてしまっていたのかもしれませんが(苦笑)。
■『Dolls』『座頭市』も 北野武監督との胸アツエピソード
――世界の北野監督。これまでもたくさん作品に参加していますが、お2人にとって監督はどんな存在ですか? また監督から掛けられた言葉でうれしかったエピソードはありますか?
大森:北野映画に出たいというのが夢だったので、北野監督は絶対的な存在ではあるのですが、現場では監督の作品のなかで生きた人間になりたいという思いを抱かせてくれる方ですね。僕は『Dolls』という映画で初めて北野組に参加しました。端役だったのですが、その後監督から「昔はセリフ一言だったけれど、頑張っているな」と言ってもらえたときは、すごくうれしかったです。
浅野:僕は『座頭市』という映画で、たすき掛けをするシーンがあったんです。家でめちゃくちゃ練習して撮影に臨んだのですが、一度練習会みたいな機会に監督の前で実践したら、まげの高さをまったく意識しないで練習していたのでうまくいかなかったんです。そのとき北野監督が「これじゃあカット割らないとダメかな」とつぶやいたんです。本当は1発撮りを予定していたのかなと思って、やばいと思ったんです。そこからさらに猛練習してテストに臨んだら、うまく決まって。そうしたら監督が「1発で行こう」と言ってくれたんです。それはめちゃくちゃうれしかったですね。やれば認めてくれるんだと自信になりました。
■『SHOGUN 将軍』のヒット「コロナ禍により配信で作品を観るという習慣が根づいた」
――本作は、ベネチア国際映画祭に正式出品され、世界配信されます。『SHOGUN 将軍』も世界で大旋風を巻き起こすなど、国境がボーダレスな時代になってきたと感じますが、俳優を始めたときから世界というのは意識されていましたか?
大森:僕は浅野くんみたいに海外に積極的に出ていくわけではないのですが、若いころから日本映画が海外の映画祭で結果を残して帰ってくることが多かった気がするんです。その作品のなかに自分も俳優として参加したいという思いはありました。北野監督や浅野くんみたいな俳優さんが出てきて、より距離は縮まったのかなという実感はあります。でもこの質問は国境を飛び越えていった浅野くんに語ってもらいましょう(笑)。
浅野:一番はコロナ禍が大きかったのかなと思います。世界中がパンデミックになってエンタメがストップするなか、配信で作品を観るという習慣が根づきましたよね。しかも字幕文化がなかった地域でも、字幕で作品を観るようになったり。かなりいろいろな意味で可能性が広がった気がします。
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浅野:『SHOGUN 将軍』も字幕で観ていただけることで大きく広がっていきましたからね。
大森:そこに挑戦した真田広之さんもすごい。
浅野:本当にすごい方です。とても大きかった。
――日本映画が世界で評価されることと、海外作品に日本の俳優や監督が挑むという2つのパターンがあると思いますが、日本映画の矜持みたいなものを意識して作品に参加することはありますか?
大森:僕はそういう意識はあまり持っていないんです。感覚的にはボーダレスというか。日本映画だから、海外映画だからということではなく、単純に面白い作品に出会えたらいいなという。それが日本の作品でも海外の作品でも、あまりそこに意識はないです。
浅野:僕もあまりそういう考え方はないかもしれません。ただ『SHOGUN 将軍』でも海外の人からいろいろな感想をいただくなかで「日本という国や文化をこうやって見ているんだ」と発見することもありました。それは日本を意識するいい機会になりましたが、僕もあまりどこの国の映画だから……という意識は低いかもしれませんね。
――“世界のキタノ”と認知されているにも関わらず、常に新しいチャレンジをしている北野監督の姿勢をどう感じていますか?
浅野:刺激しか受けていません。僕はずっと北野監督の真似をしているだけだから。僕ももっともっと自分が思いついたことをやるべきなのかなと、いまは思っています。
大森:大先輩であり巨匠なのに、始めたての人のようにどんどんアイデアを出してくる。僕らは間近でお話を聞かせてもらうことがあるのですが、とにかく面白いんです。昔からファンでしたが、こうして出会ってからもずっと憧れの存在。近くにいさせていただくだけでも光栄ですし、喜びです。ただ真似をしていてもうまくいかないと思うので、僕は自分のペースで頑張っていきたいです。
(取材・文:磯部正和 写真:上野留加)
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