Amazon Original映画『Broken Rage』に出演する大森南朋、浅野忠信(撮影:山崎美津留) (C)ORICON NewS inc. Amazonプライム会員向けの動画配信サービス「Prime Video」で世界独占配信中の北野武監督・脚本、ビートたけし主演、Amazon MGMスタジオ製作のAmazon Original映画『Broken Rage(読み:ブロークンレイジ)』。日本を代表するコメディアンであり、世界的な映画監督としても知られる北野監督が今回挑んだのは、“クライムアクション×セルフパロディ”という斬新な構成の映画だ。本作に出演した浅野忠信と大森南朋にインタビューを実施。北野作品の魅力や、本作の撮影秘話について語ってもらった。
【画像】そのほかの撮りおろし写真や場面写真 浅野は、『座頭市』(2003年)、『首』(23年)に続き、北野作品3作目。大森は、『Dolls(ドールズ)』(02年)、『アキレスと亀』(08年)、『アウトレイジ 最終章』(17年)、『首』に続き5作目の出演となる。
■世界配信の可能性と日本作品の誇り
浅野は、ハリウッド製作の時代劇『SHOGUN 将軍』(24年)の演技で、今年1月に発表された「第82回ゴールデングローブ賞」で助演男優賞を受賞。キャリアの早い段階から複数国の合作映画を含む海外作品に参加し、マーベル・スタジオの映画「マイティ・ソー」シリーズやマーティン・スコセッシ監督の『沈黙 -サイレンス-』(16年)などにも出演。大森は日本のドラマ・映画界に欠かせない活躍ぶりで、浅野も出演した配信映画『アウトサイダー』(18年)でハリウッド映画デビューを果たしている。
――日本のドラマや映画の世界配信も当たり前になりつつある中、お二人が感じる変化は?
【大森】僕は浅野さんのように積極的に海外に出ようとしていたわけではないですが、日本の作品が海外へ広がる流れのなかで、一俳優として関われたらいいなと思っていました。黒澤明監督の時代から海外で評価されることはありましたが、配信サービスの普及でさらに距離が縮まり、俳優の活動の場も広がったように感じています。
【浅野】コロナの影響は大きいですよね。世界中で外出制限がかかり、人々が配信サービスで作品を見る習慣が定着しました。それによって字幕付きで海外作品を見ることも一般的になり、日本の作品の可能性が一気に広がりました。『SHOGUN 将軍』もそのおかげで観てもらえたんだと思います。
――ボーダレスな時代だからこそ、“日本の作品”としてのプライドやアイデンティティは意識されますか?
【大森】俳優としては「日本の作品だから」と特別に意識することはあまりないです。面白い作品であれば、ジャンルや国に関係なく挑戦したいという気持ちです。
――「日本映画を世界に届ける」ことと、「世界を舞台にする」こととの違いは?
【浅野】あまり深く考えたことはなかったのですが、海外の人から反応をもらうと「そういう視点で見られるんだ」と気づくことがあります。そのとき初めて、日本の作品としての側面を意識することがありますね。
――共演歴も多いお二人ですが、本作でのバディ感も印象的でした。
【浅野】今回もそうですが、『首』のときも本当に思いました。「武さんを守っているのは、僕ら2人なんだ」と。まるで無敵のコンビが武さんを支えているように思えてくる。その実、僕は大森さんに頼りっぱなしなんですけどね(笑)。『首』のときは、大森さんが無茶なボールも全部キャッチしてくれていました。今回、僕ももっと協力しなきゃいけないと思っていたんですが、せりふが飛んでしまったりして、そのたびに大森さんにフォローしてもらっていました。
【大森】浅野さんは昔から全然ブレないんです。僕が「売れたい」と頑張っていた頃にはすでにトップにいましたし、僕らの世代では「浅野さんの真似はするな」が合言葉でした(笑)。浅野さんにしかできないスタイルがあって、真似してもうまくいかない。その距離感はずっと変わらなくて、「少し近づけたかな?」と思ったら、アメリカで賞をもらっていました(笑)。人としてもすごく素敵。ずっと彼の活躍を見ていたいです。
■北野武作品での「笑い」の難しさ
本作は約60分の前後編に分かれており、前半では、警察に捕らえられた“凄腕”の殺し屋・ねずみ(ビートたけし)が、釈放を条件に刑事・井上(浅野)と福田(大森) と手を組み、覆面捜査官として裏社会に潜入する骨太なクライムアクションを描く。後半では、前半と同じ物語がセルフパロディの手法によって、コメディタッチで描かれるという異色の展開が待っている。
――セルフパロディという挑戦的な構成になっている本作の撮影はいかがでしたか?
【大森】武さんの横にいて、浅野さんの隣でお芝居ができて毎日が楽しかったです。どこかで武さんにちょっとでも笑ってもらえたら、と思って本番に挑みましたが、なかなか難しくて苦労しました。
【浅野】台本にシリアスパート、コメディパートと書いてあって、コメディパートは読めば読むほど自分がつまらない人間なんじゃないかと思えてきて、現場に行ったら行ったで、何が正解なのか分からなくなる状態でした。現場で予想外の空気が生まれるのが面白いと同時に恐怖でした。
【大森】居酒屋で人を笑わせるのとは全然違います。武さんは“お笑い将軍”ですから。
【浅野】僕らは『ひょうきん族』や『元気が出るテレビ』世代。でも、お笑いをやったことはない。そんな僕らが“お笑い将軍”の前で笑いを演じるのは本当にハードルが高かったです。
【大森】監督が求めるものを脚本から読み取ることも、現場での瞬発力も、プロの芸人でも難しいはず。逆に、お笑いを知らない僕らだからこそ生まれる面白さもあるのかもしれないと思って挑みました。
――撮影中、特に印象に残ったシーンは?
【浅野】武さんが突然マスクを外してポーズを決めたところで、「ビートたけしだ!」って思わず素に戻ってしまった瞬間がありました(笑)。さっきまでの北野監督はどこいった?という感じが面白かったです。間近で見られてラッキーだと思いました。
【大森】僕は盗聴している車の中で、2人で立ち上がって頭を打つシーン。一生懸命タイミング合わせたよね。唯一、武さんが「もう1回行こう」と言ったシーンでもあります(笑)。
【浅野】笑いのシーンを“狙って”やるのは本当に難しくて、僕らはとにかく真剣にやるしかなかったですね。
【大森】結局、笑いは“間”がすべてなんだと学びました。
――北野監督の姿勢から学んだことは?
【浅野】ほかの映画監督から多くのことを学んできましたが、武さんのように異なる分野で活躍されている方が映画に参加すると、そのアプローチがまったく違うと感じます。武さん独自の視点があるんですよね。常に真っ直ぐな視線で僕たち俳優に向き合ってくれる一方で、役に対してしっかりと応えなければ決して認めてくれない。そう実感してから、僕自身の取り組み方も変わりました。『首』のときもそうでしたが、武さんが常に新しいことに挑戦し続ける姿勢には、俳優として本当に多くの刺激を受けます。僕も、もっと積極的に挑戦していかなければと思います。今も学びながら次の役へとつなげています。すべてがつながって、一つの流れになっていると感じます。
【大森】巨匠でありながら、新しいことに挑戦し続ける姿勢は本当にすごいと思います。『首』の撮影中も次々とアイデアを出していて、本当に刺激を受けました。ずっとビートたけしのファンでしたし、北野監督の映画も大好きでした。こうしてお世話になっている今でも、変わらず憧れ続けていられるというか…。きっと、日々の積み重ねが大事なんだなと感じます。監督も、常に何かを続けてこられたからこそ、今の姿があるんです。でも、人の真似をしてもうまくいかないもの。たいてい3日目くらいで挫折してしまう(笑)。だから、焦らずに自分のペースで生きていこうと思っています。