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ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
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今季もまたあいつの季節がやってきて、そして早くも過ぎ去ってゆこうとしている。毎年秋くらいになるとスーパーの店頭に並びだす、「アルミ鍋うどん」の季節だ。
味のバリエーションが豊富で、たいていは100円台くらいで買えて、生麺タイプなのに妙に賞味期限が長い。そしてなにより、容器を直接火にかけて作るから熱々を食べられて、具材の追加も自由自在で、さらにはカセットコンロでぐつぐつと温めながら、鍋感覚で酒のつまみにすることもできる。
僕はあいつのことが好きすぎて、油断すると誰彼かまわずその魅力を語りだしてしまうところがあり、実際に当連載を見返してみても、4年前に一度取り上げていた。が、数年に一度ということで、どうか多めに見てもらいたい。
今季に食べたなかでも、たとえばこの一食は満足度が高かった。アルミ鍋シリーズでも僕がいちばん好きなタイプの、あとのせサクサクのものがついた天ぷらうどん。
そこに大量の刻みねぎと、定番の玉子、そしてなんと、スーパーで買ったビッグサイズの海老入りかきあげをプラスしてしまうという、ある意味冒涜とも言えるアレンジ。
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完成して湯気を上げる四角いアルミ鍋の中央で、鍋の標高を超えてどどんと存在感を発揮するかきあげ。その横に寄り添うように置いたあとのせかきあげが、かわいらしいようでもあり、なんだか哀愁を感じるようでもあり。
とはいえ、その両者に優劣はなく、どちらにも違った良さがあって、違ったつゆの吸いかたがあって、違った崩壊のしかたがある。その味わいを同時進行で楽しめるなんて、こんなぜいたくなことはない。というか、よく考えたらこんなの、人生で初めての体験だぞ。
またはこんな1杯もあった。同じく金ちゃんの「鍋焼味噌煮うどん」
当然全体が茶色くなりがちなこいつには、なんだか華やかさをプラスしてあげたい気持ち。そこで、もともとフリーズドライの具としてかわいらしいサイズのものは入っているけれど、さらにかまぼこをたっぷり追加。それから、ちょうど出だしたばかりの、近所の畑で買った地物の菜の花、中央に玉子。
濃厚なみそ味を吸ってなおぷりぷり食感のかまぼこがいいし、後半に黄身を崩せば一気に全体を優しさで包み込む玉子もいい。が、白眉は菜の花で、しゃきしゃきとろりとした茎や葉を噛みしめると、まずはかなり強い甘み、やがてほんのりとした苦みを広げる大ごちそうだ。花が咲いてしまった菜の花はそうでないものより味が劣るとも聞くが、僕はその色鮮やかさも含め、花つきのほうが好きだな、なんて思いつつ、缶チューハイとともに堪能した。
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そして今日の本題。次に紹介する最新アレンジが、近年食べてきたアルミ鍋うどんたちのなかでも特に大ヒットだった。ベースは、カレーうどん。
個人的には選ぶのが珍しい味だけど、その日はなんだかカレーの気分だった。そしてまた珍しいことに、前日にすき焼きをした残りで、切り落としのお買い得品ではあるけれど、ちょっといい和牛が少し冷蔵庫にあった。それと長ねぎの青いところをプラスしてやろう。さらにもうひとアレンジ。お湯ではなく、牛乳で作ってみるのはどうだろう? 言うなれば「まろやかミルクカレー牛肉うどん」。......想像しただけでうまい。
するとこれが! 事前に想像していただけであんなにもうっとりしていたけれど、さらにその10倍うまい! 元の味にアレンジがバシーン! とハマってる。まさにハマりメシ。
ピリ辛かつ甘じょっぱいみんな大好きカレー味が、牛乳のおかげで究極にまろやかだ。それを受け止めるのが、アルミ鍋独特のやわうどんというのがまた相性抜群。そこに牛肉の旨味まで加わってしまっているんだから、そりゃあもうって話。
うまいうまい、あぁうまい。これは確実に、僕のアルミ鍋うどん史においても記念碑となる1杯だ。今、家に五木の鍋焼カレーうどんのストックがないことを思うと、無性に不安になってくる。春が近づくとなぜかいっせいにスーパーの店頭から姿を消しだすアルミ鍋うどんたち。今のうちに買いだめしておかないと......。
あ、最後に一点ご注意。あらためてパッケージを見返してみると、お湯以外の方法でアルミ鍋うどんを作ることをメーカーは推奨していない。もしもご自宅でまろやかミルクカレー牛肉うどんを試してみようと思われた方は、万が一の不足の事態などが起こらぬよう、深めの鍋などに中身を移して作ってみてください。
取材・文・撮影/パリッコ