「僕の立場ならどう思う?」パレスチナ&イスラエルの青年が語り合う『ノー・アザー・ランド』本編映像

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2025年02月22日 13:01  cinemacafe.net

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『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』Ⓒ2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA
本年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされている映画『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』。この度、互いの境遇を超えてパレスチナが置かれた現状をカメラに収め続けた、同じ年のパレスチナ人とイスラエル人の青年が語らう場面をとらえた本編映像がシネマカフェに到着した。

本作は、ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区<マサーフェル・ヤッタ>の住民たちが力を合わせ、20年以上占領に抗い続けてきた歴史にも触れながら、イスラエル軍がパレスチナ人に対して長年行ってきた占領政策の本質と実態に肉薄。パレスチナの現状を知る必見作となっている。

そのイスラエル軍や入植者による破壊と占領が続くマサーフェル・ヤッタで生まれ育った青年バーセルは、自ら撮影し発信することで占領に抵抗し続けていた。

彼はイスラエル軍の不当な行いに心を痛めてこの村にやってきたジャーナリスト、ユヴァルからのサポートの申し出を受け入れ、2人で様々な活動を続けるが、状況が改善する気配はない。この本編映像は、そんな2人によるある夜の対話の様子を切り取ったものだ。

ユヴァルからスマホを見すぎだとたしなめられたバーセルは、言葉を絞り出すように「スマホ以外に何がある?だろ?」と答える。バーセルは大学で法学の学位を得たが「経済が破綻してるからイスラエルで働くしかない」と言い、パレスチナ人である彼がイスラエルで就けたのは、建設現場の仕事だけだったことを打ち明ける。

そんなバーセルは、ユヴァルに「君が僕の立場ならどう思う?」と問いかける。「僕なら苛立つ。どうすれば君みたいに希望や力を持てるのか分からないよ」と素直な思いを向けるが、それに対してバーセルは何と答えるのか…。

■「私たちは長い時間対話をするようになりました」
監督のひとりであるバーセル・アドラーは「イスラエル側の監督であるユヴァルとラへル(・ショール)とは彼らがジャーナリストとして記事を執筆するために初めてマサーフェル・ヤッタを訪れた時に出会いました。イスラエル軍による占領というこの不当な現実との闘いを通して私たち(パレスチナ人のハムダーン・バラールを交えた)4人は友達になり、やがて報道や抵抗活動と並行して、この問題についての映画を作らなければならないと決意するようになりました」と語る。

「映画にすることで、私たちの言葉だけでなく、ジャーナリストという立場では踏み込めなかった感情面での真実を捉えることができると思ったのです」と、本作の狙いに触れた。

さらに、監督4人としての共同作業について「私たちは最初から、映画制作に関することはすべて全員の合意を必ず取ろうと決めていました。誰か一人でも、少しでも納得できない人がいるのならば、それは進めないようにしようと。もちろん考えが異なることも時にはあって決して簡単なことではありませんでしたが、そのおかげで私たちは長い時間対話をするようになりました。お互いの政治的な感受性についても学び合い、より親密な仲になったと思います」とふり返る。

本作では、このシーンに限らずバーセルとユヴァルによる対話の様子を繰り返し捉えていく。活動方針といった話から、音楽や結婚への考えなど同じ年同士としての等身大なテーマにも及んでいくが、パレスチナとイスラエルを行き来してバーセルの元を自由に訪ねられるユヴァルとは違い、パレスチナ自治区外への通行が厳しく制限されているバーセルはユヴァルの家に行くことすらできない。

2人の前には余りにも違う現実が立ちはだかっている。2人の間にあるそんな不均衡を意識せずにはいられないシーンとなっている。

■「ハリウッドの人々は気にかけているでしょうか?」
本作がアカデミー賞にノミネートされた2日後の1月26日、バーセル・アドラー監督は「映画がアカデミー賞にノミネートされて2日後の今、入植者たちが私のコミュニティであるマサーフェル・ヤッタに侵入し、家々に火をつけて破壊しています。ノミネートされたことは光栄ですが、トランプ米大統領が入植者に対する制裁を解除したその一方で、私たちは抹殺されかけています。ハリウッドの人々は気にかけているでしょうか? どうか黙っていないでください」という訴えを、家々から煙が上がる様子を記録した動画とともにXに投稿。

本作が暴き出すイスラエル軍や入植者による占領や破壊行為は、まさに現在進行形だ。

だが、2月6日時点で11の観客賞をはじめすでに62もの賞を獲得するなど世界各地での圧倒的な高評価とは裏腹に、アメリカ国内では政治的な事情から劇場公開しようと手を挙げる配給会社がないまま、本作の制作陣みずからの働きかけにより1月31日にニューヨークの1館で劇場公開がスタート。

初週の上映回が10回連続で満席となる驚異的な成績を収め、翌週にはアメリカ国内20都市へと拡大。さらに今月から3月にかけて約100館の劇場で上映を敢行することがバーセル・アドラーのXより発表されている。



『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』は2月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、シネ・リーブル池袋ほか全国にて公開。






(シネマカフェ編集部)

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